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デビュー
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一番ネックだと思っていたコンタクトのつけ外しも眼科で指導してもらえ、おっかなびっくりではあったがなんとか習得できた。数日かかるのかと思ったが、在庫があったため即日もらえた。コンタクトの装着状況を見るため、三日後また受診しなければならないらしい。
「お大事に」
受付の女性が見送ってくれる。
「待たせてごめんね。終わったけど本屋?」
ラインを送るがなかなか既読がつかない。
電話は苦手なのだが、佑はやむなく電話をかけた。
しばらくのコール音ののち、樹が出る。
『すいません』
電話の声は少し違うように聞こえるのと、耳元からイケメンボイスが聞こえることに男なのにドキドキしてしまう。男の佑ですらこうなのだから、女の子ではひとたまりもないだろう。
『本に夢中でスマホ気にしてなくて。オレスタバなんですけど、小鳩さんも飲むならこっちきます?
いらなければオレがそっちに行きますけど』
出た。
リア充御用達、スタバ。
シアトル系のコーヒーショップは軒並み注文のハードルが高いと思っている佑だが、なかでもスタバは抜きんでて注文の仕方がハードすぎると思っている。一度だけ期間限定のものが飲みたくて行ったが、すべての質問をメニュー表を指さすことですませた。店員は優しく対応してくれたが、それでも気疲れしてしまい、もう行きたくない店ナンバー1になっている。
「呪文みたいだから行きたくない。飲み終わってないならゆっくりでいいからね」
佑の返事に樹はくす、と電話の向こうで笑った。バカにしている笑い方ではない。
『分かりました。そっちについたらまた電話します』
「分かった」
近くにソファが置いてあったため、そこに座ってスマホでゲームをして待つことにする。
「すみません、遅くなりました」
急いできたのか若干息を切らせて樹がやってきた。手には見慣れたマークの入った使い捨てのタンブラーを持っている。
飲み終わってからでよかったのに、と申し訳なく思っていると、隣に座った樹が佑に差し出してきた。
どうやら佑に買ってきてくれたらしい。
「甘いのが好きでしたよね?」
「僕に買ってきてくれたの?」
「さっき『いらない』じゃなくて『呪文みたいだから行きたくない』って言ってたんで、注文が嫌なだけで飲みたかったのかと思って」
「来てもらって俺が注文しても良かったんですけど、また小鳩さん申し訳なさそうにすると思って」とさわやかに樹が微笑む。
「ありがとう……」
ありがたく受け取る。
イケメンとはこんなに言葉の裏を読むものなのか。それとも樹だからなのか。
どちらにしろものすごく頭を回転させなければならないだろうから疲れそうだ。
「えーとお金は……」
「さっきお礼言ってもらったので十分です」
「だよね……本当にありがとう」
外であれば温かいものがよかっだろうが、暖房がきいた中では冷たいものがおいしい。
「ピーチ?」
コーヒーではなくピーチティーらしい。上にはたっぷり生クリームがのっている。
「期間限定らしいですよ」
「おいしい」
「あと行きたいところありますか?」
「んー。特にないかな」
とりあえず服を買うという、当初の目的は達成できたわけだし、まだ帰りたくない気持ちはあったが、多忙な樹をあまり引き留めるのも申し訳ない。
「じゃ、それ飲み終わったら帰りましょうか」
「そうだね」
あまり遅くなったら電車が混みそうだ。
通勤以外でラッシュの電車に乗りたくない。
「こっちです」
ロッカーで荷物を引き取ると、なぜか樹はエレベーターに乗り込み屋上のボタンを押した。
「帰るんでしょ?」
駅に向かうにはショッピングセンターから出なくてはいけない。屋上は駐車場があるだけで、そこから外に出ることはできないはず。
「帰りますよ。車なので」
ほらこれ、と樹がポケットからキーケースを取り出し、リングの部分を人差し指に入れてくるくる回す。
「わざわざ車で来たの?」
「服買うならそれなりに重いですからね。荷物デカいから電車混んでたら大変だし」
「ありがとう」
佑に気を使ってくれたらしい。
「千堂君車持ってたんだ。最近の若い子は持たないかと思ってた」
駐車場も維持費も高価なので、もちろん佑も持っていない。免許は持っているし、田舎にある実家に帰った時はたまに両親の車を借りることはあるが。
「小鳩さんも若いでしょう」
樹は苦笑して、
「なくても電車でどこでも行けますけど、買い物行ったりすると荷物重いじゃないですか。あとオレ電車とかバスとかあまり使いたくないんで」
「そうなんだ」
なぜだろうと思ったが、突っ込んだことを聞いてほしくなさそうな気がしたので、佑は相槌を打つだけにとどめた。
そうこうしているうちにエレベーターが屋上につく。
「あれです」
樹が指さしたのは黒いセダンだった。
樹は身長があるので軽だと狭いのだろう。
……高そう。
汚したりぶつけたりしないようにしよう。
「……お邪魔します」
佑は慎重にドアを開け、そっと乗り込んだ。
「新車じゃないですしそんなにビビらなくても。荷物ください」
佑から荷物を受け取った樹が後部座席に置き、佑の自宅にナビを設定する。
「寄りたいところないですか?コンビニとか」
「んーん。ないよ」
「途中で寄りたくなったら言ってください」
「分かった」
滑るように滑らかに車が走り出す。
「お大事に」
受付の女性が見送ってくれる。
「待たせてごめんね。終わったけど本屋?」
ラインを送るがなかなか既読がつかない。
電話は苦手なのだが、佑はやむなく電話をかけた。
しばらくのコール音ののち、樹が出る。
『すいません』
電話の声は少し違うように聞こえるのと、耳元からイケメンボイスが聞こえることに男なのにドキドキしてしまう。男の佑ですらこうなのだから、女の子ではひとたまりもないだろう。
『本に夢中でスマホ気にしてなくて。オレスタバなんですけど、小鳩さんも飲むならこっちきます?
いらなければオレがそっちに行きますけど』
出た。
リア充御用達、スタバ。
シアトル系のコーヒーショップは軒並み注文のハードルが高いと思っている佑だが、なかでもスタバは抜きんでて注文の仕方がハードすぎると思っている。一度だけ期間限定のものが飲みたくて行ったが、すべての質問をメニュー表を指さすことですませた。店員は優しく対応してくれたが、それでも気疲れしてしまい、もう行きたくない店ナンバー1になっている。
「呪文みたいだから行きたくない。飲み終わってないならゆっくりでいいからね」
佑の返事に樹はくす、と電話の向こうで笑った。バカにしている笑い方ではない。
『分かりました。そっちについたらまた電話します』
「分かった」
近くにソファが置いてあったため、そこに座ってスマホでゲームをして待つことにする。
「すみません、遅くなりました」
急いできたのか若干息を切らせて樹がやってきた。手には見慣れたマークの入った使い捨てのタンブラーを持っている。
飲み終わってからでよかったのに、と申し訳なく思っていると、隣に座った樹が佑に差し出してきた。
どうやら佑に買ってきてくれたらしい。
「甘いのが好きでしたよね?」
「僕に買ってきてくれたの?」
「さっき『いらない』じゃなくて『呪文みたいだから行きたくない』って言ってたんで、注文が嫌なだけで飲みたかったのかと思って」
「来てもらって俺が注文しても良かったんですけど、また小鳩さん申し訳なさそうにすると思って」とさわやかに樹が微笑む。
「ありがとう……」
ありがたく受け取る。
イケメンとはこんなに言葉の裏を読むものなのか。それとも樹だからなのか。
どちらにしろものすごく頭を回転させなければならないだろうから疲れそうだ。
「えーとお金は……」
「さっきお礼言ってもらったので十分です」
「だよね……本当にありがとう」
外であれば温かいものがよかっだろうが、暖房がきいた中では冷たいものがおいしい。
「ピーチ?」
コーヒーではなくピーチティーらしい。上にはたっぷり生クリームがのっている。
「期間限定らしいですよ」
「おいしい」
「あと行きたいところありますか?」
「んー。特にないかな」
とりあえず服を買うという、当初の目的は達成できたわけだし、まだ帰りたくない気持ちはあったが、多忙な樹をあまり引き留めるのも申し訳ない。
「じゃ、それ飲み終わったら帰りましょうか」
「そうだね」
あまり遅くなったら電車が混みそうだ。
通勤以外でラッシュの電車に乗りたくない。
「こっちです」
ロッカーで荷物を引き取ると、なぜか樹はエレベーターに乗り込み屋上のボタンを押した。
「帰るんでしょ?」
駅に向かうにはショッピングセンターから出なくてはいけない。屋上は駐車場があるだけで、そこから外に出ることはできないはず。
「帰りますよ。車なので」
ほらこれ、と樹がポケットからキーケースを取り出し、リングの部分を人差し指に入れてくるくる回す。
「わざわざ車で来たの?」
「服買うならそれなりに重いですからね。荷物デカいから電車混んでたら大変だし」
「ありがとう」
佑に気を使ってくれたらしい。
「千堂君車持ってたんだ。最近の若い子は持たないかと思ってた」
駐車場も維持費も高価なので、もちろん佑も持っていない。免許は持っているし、田舎にある実家に帰った時はたまに両親の車を借りることはあるが。
「小鳩さんも若いでしょう」
樹は苦笑して、
「なくても電車でどこでも行けますけど、買い物行ったりすると荷物重いじゃないですか。あとオレ電車とかバスとかあまり使いたくないんで」
「そうなんだ」
なぜだろうと思ったが、突っ込んだことを聞いてほしくなさそうな気がしたので、佑は相槌を打つだけにとどめた。
そうこうしているうちにエレベーターが屋上につく。
「あれです」
樹が指さしたのは黒いセダンだった。
樹は身長があるので軽だと狭いのだろう。
……高そう。
汚したりぶつけたりしないようにしよう。
「……お邪魔します」
佑は慎重にドアを開け、そっと乗り込んだ。
「新車じゃないですしそんなにビビらなくても。荷物ください」
佑から荷物を受け取った樹が後部座席に置き、佑の自宅にナビを設定する。
「寄りたいところないですか?コンビニとか」
「んーん。ないよ」
「途中で寄りたくなったら言ってください」
「分かった」
滑るように滑らかに車が走り出す。
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