二人ぼっち

takaiko

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二人ぼっち

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 「あのさ、もしこのまま誰も見つけられなかったらさ…」

 彼はどこか遠くを見つめながらぽつりとつぶやいた。

 「ずっと二人ぼっちかな…」

 彼女もまた遠くの景色を見つめていた。





 二人が見覚えのない森の中で目覚めたのは十日前のことだった。お互いに面識はなかったが、年齢も同じで話もあったことからすぐに意気投合し、協力して他の人間を探した。

 深い森から抜け出し、見たこともない巨大な生物をやり過ごし、獣道を頼りに生い茂る草木を掻き分け、知らない果物を恐る恐る食べ、ただひたすらに歩いた。

 しかしどれほど探しても、人も街も人工物も見当たらない。飛行機の一つも飛んでいないのである。

 「…人類は滅亡したのかな」
 「私達知らない間に物凄く未来に…来たってこと?」

 聞きたくなかった言葉。
 言いたくなかった言葉。
 彼女の言葉が一瞬詰まる。不安に首を絞められて声が死んでしまいそうだった。

 「…南に行こう、少しづつ寒くなってる。少しでも南下すれば暖かいところに行けるかもしれない」
 「…うん、行こう」

 彼はぎこちなく笑った。その表情から彼も不安なのだと気付き、彼女もまたぎこちなく笑った。





 数ヶ月後、二人は冬の只中にいた。
 二人は計画を練り、罠を設置するなどして大型動物仕留めたり。手頃な動物は木や石で作った武器で倒すようになった。二人は倒した謎の大型動物の毛皮を剥ぎ、試行錯誤の上どうにか鞣すことに成功し防寒具にした。

 履いていた靴の耐久力が限界に来ていた二人は水辺に生えていた丈夫な草を編み、縄を作ってサンダルを作った。
 他にも丈夫そうな蔦を見つけると編み上げて簡易な籠を作った。おかげで様々な収集が楽になった。

 「私達ってさ、逞しいよね」
 「うん、俺たち凄いよな」

 二人はお互いの得手不得手を補い合い、どれ程大きな喧嘩をしても許し合える仲になっていた。





 「ここ、なかなか良いな」
 「ここなら一本道だし、罠も設置できるね」

 二人は洞窟を見つけ、そこに居を構えた。
 これから冬がますます深くなれば移動はできない。その洞窟は川の近くにあり、硬い岩盤の山の中腹にあった。入り口は狭く、奥行きはかなり広い。春までの一時的な住居としては中々に良い物件だった。

 「私ね、天体観測結構好きだったんだよ」
 「へー、俺は詳しくないけど星を見るのは好きだよ…って、どうしたの!?」
 
 彼が振り向くと彼女は大粒の涙をこぼして泣いていた。

 「か、えりたいな…と思って…」
 「…帰りたいよな」

 彼は彼女を初めて抱きしめた。





 冬の星空を見ながら二人は長い時間を過ごした。次の冬が来ても二人はまだその洞窟にいることにした。

 彼と彼女は父と母になり、初めての子供は健やかに育っていた。
 次の年もその次の年も、その洞窟で過ごすうちに二人は他の人類を探すことを諦めた。

 「それに、もう二人ぼっちじゃないでしょ?」
 「うん、もう違うな」

 走り回る我が子のやんちゃな声を聞きながら、二人は笑いあった。





 二人はどんな時もお互いを支え合い、そして自らの子ども達と手をつなぎ、惜しみない愛情を彼らに注いだ。

 春は苗木から果樹を育て、食べられる植物の栽培を成功させた。
 夏は魚釣りや狩りの仕方を教え、秋は保存食作りに奔走し続け。
 冬は言葉や文字を教え、星や季節の巡りを語った。

 そして歳を重ねるごとに二人のサバイバル技術はより巧みになっていった。





 数十年後。
 彼も彼女も永く生き、大勢の家族に見守られながら幸せそうに息を引き取った。

 子供たちは、代々最初の祖先である二人のことを語り継いだ。あの二人は冬の星を眺めるのが好きだった。

 彼女はよく北の空を指し、ミライノホクトシチセイと呼んだ。
 「今は形が違うけど、あと何万年もするとヒシャクみたいな形になるんだよ」と。

 そして二人はたまにお互いのことをふざけてアダムとイブと呼んでいたが、子孫たちがその意味を知るのは何万年も後の話である。



終わり
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