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最終章 真夏の夜に馳せる音色
そんなスイーツの名前は知らぬ!
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ダラダラとチケットを握る手に、汗が滲んでくる。
慌てて、スカートの裾で軽く拭くと、話しかけてみた。
「こ、これってペアって書いてあるけど、もしかして?」
「ん? ペアって言うと、僕と陽さんの二人だよ」
さらっと、言われてどう答えたらよいのかわからない。
先輩たちも誘う可能性があるのかな? と、思っていたが、どうやらそうではないようだ。
「そ、それで、昨日は良いよって返事をもらったけど、改めて、今度の夏祭りに一緒に行ってくれますか?」
先ほどまでの態度とは違い、若干照れている口調で私に聞いてくる。
顔が近づき、彼の濃い香りが漂ってきた。
「うっ――い、良いよ、よろしく」
断る理由もない、だけど、かなり緊張する。
今でも吐き気がするほど、心臓が高鳴っていた。
私の返事を聞いた彼は、安堵したような表情になり、ほっと一息ついた。
そして、軽く背伸びをすると、改まって私に向き直る。
その真剣な表情に、思わずドキッとしてしまう。
まずい、このまま一緒にいると心臓が壊れてしまう可能性がでてきた。
「ねぇ、陽さん」
「な、なに?」
「いや、ホタルを見た日の夜に言っていた言葉だけど」
もしかすると、私の過去についてだろうか?
なぜか、あの場で私は自らの傷を言ってしまったが、それが悪かったということはない。
むしろ、スッキリしたように思える。
「それがどうかしたの?」
「うん、僕が言ってもあまり説得力が無いかもしれない、だけど、これだけは言わせて」
カチカチと、時刻が五分早く進んでいる時計の秒針の音が、大きく聞こえだした。
そっと、顔が近づき、恥ずかしそうな表情でこちらを一生懸命に見つめてくる。
私は、その視線から逃れようとするも、あまりに綺麗なその瞳に、自然と吸い込まれていく。
「僕は、陽さんから勇気を貰った。だから、今度は僕が必ず……」
「え? それってどういう意味?」
私の問いかけに、何か答えようとすると、部屋の近くで人の話し声が聞こえてきた。
慌てて私たちは距離を取ると、声の方を向く。
「……あった!――おい! 投げるぞ‼」
どうやら、グランドで練習していたサッカー部のボールが近くに転がってきたようで、部員がそれを捜しにきたようだ。
私たちの間に、微妙な空気が流れだし、先ほどまで大きく聞こえていた秒針の音は何も聞こえてこない。
「えっと、なんだっけ?」
「いや、なんでもないよ?」
なぜ疑問形になるのかわからないけれど、その後から続く言葉がないので、また無言になってしまう。
「あの」
「えっと」
また言葉がぶつかる。
数秒ほどの無言で見つめあう時間が経過すると、今度こそ彼が先に動いた。
「これから、ちょっと出かけない?」
予想外のお誘いに、一度深呼吸をして考えてみた。
時計を確認しても、電車の時間までまだ余裕がある。
それに、なぜか断ろうという気持ちがおきない。
「うん、いいけど、どこにいくの?」
「任せて」
さっと立ち上がり、戸締りや電源の確認をしっかりと行い、外にでる。
熱さが色濃く残る時間帯に、元気に走り回る学園生たち、私たちはその喧騒の中をゆっくりと歩いていく。
学園の外に出て、最初に言った言葉は「暑い」だった。
そしたら、伊織くんも「たしかに」と言って、隣に並んで歩く。
春のころは、二歩ほどの距離をあけて歩いていたのが、今では一歩半の距離まで縮まっている。
「それで? どこにいくの?」
身長の高い彼を下から見上げると、ちょうど木陰に入った。
枝と葉っぱの隙間から漏れる光が、眩しさと暑さを緩和してくれる。
「ちょっと待ってて、この間見つけたんだ」
テコテコと歩いていき、商店街に到着すると、祭りの準備が進められており、雑多な中に艶やかさが見える。
その商店街の一角にある小さなお店、そこの看板にはこう書かれていた。
『珈琲専門店』
私はコーヒーが苦手である。 だって、苦いうえに、トイレも近くなってしまう。
どちらかというと、紅茶のほうがまだ好きだ。
「ここ?」
「そう、ちょっと待ってて」
店頭の出窓から綺麗な女性の店員さんが、笑顔で挨拶をしてくれた。
そこに彼は「アフォガート二つ」と伝えてお金を払ってしまう。
「はい♪ ありがとうございます。 少々お待ちください」
外には日除けのパラソルと、下には小さな椅子とテーブルが設置されている。
そこに伊織くんの案内で座わった。
「ここは、いつもはコーヒー豆専門に売っているお店なんだ。それで、店内には飲食できるスペースは無いんだけど、夏はこうして天気がよければ外で食べられるようにしているみたい」
「それはわかったけど、アフォガートってなに?」
単純に疑問に思ってしまう。 聞きなれないワードとコーヒーが苦手な私、食べる前から変に緊張してしまう。
こういったとき、素直に苦手だと伝えることができれば良いけれど、中々言えない性格であった。
「アフォガートは、僕もつい最近まで知らなかったけどって、来た来た」
伊織くんの視線の先を見ると、先ほどの店員さんが、両手にお皿を持って扉からでてくる。
「お待たせしたしました。アフォガートお二つです」
コトリと丁寧に置かれたお皿の中には、美味しそうなアイスクリームが二つ並び、そこに黒い液体が注がれていた。
しかも、若干熱いのか溶けて混ざっており、乳白色になっている。
慌てて、スカートの裾で軽く拭くと、話しかけてみた。
「こ、これってペアって書いてあるけど、もしかして?」
「ん? ペアって言うと、僕と陽さんの二人だよ」
さらっと、言われてどう答えたらよいのかわからない。
先輩たちも誘う可能性があるのかな? と、思っていたが、どうやらそうではないようだ。
「そ、それで、昨日は良いよって返事をもらったけど、改めて、今度の夏祭りに一緒に行ってくれますか?」
先ほどまでの態度とは違い、若干照れている口調で私に聞いてくる。
顔が近づき、彼の濃い香りが漂ってきた。
「うっ――い、良いよ、よろしく」
断る理由もない、だけど、かなり緊張する。
今でも吐き気がするほど、心臓が高鳴っていた。
私の返事を聞いた彼は、安堵したような表情になり、ほっと一息ついた。
そして、軽く背伸びをすると、改まって私に向き直る。
その真剣な表情に、思わずドキッとしてしまう。
まずい、このまま一緒にいると心臓が壊れてしまう可能性がでてきた。
「ねぇ、陽さん」
「な、なに?」
「いや、ホタルを見た日の夜に言っていた言葉だけど」
もしかすると、私の過去についてだろうか?
なぜか、あの場で私は自らの傷を言ってしまったが、それが悪かったということはない。
むしろ、スッキリしたように思える。
「それがどうかしたの?」
「うん、僕が言ってもあまり説得力が無いかもしれない、だけど、これだけは言わせて」
カチカチと、時刻が五分早く進んでいる時計の秒針の音が、大きく聞こえだした。
そっと、顔が近づき、恥ずかしそうな表情でこちらを一生懸命に見つめてくる。
私は、その視線から逃れようとするも、あまりに綺麗なその瞳に、自然と吸い込まれていく。
「僕は、陽さんから勇気を貰った。だから、今度は僕が必ず……」
「え? それってどういう意味?」
私の問いかけに、何か答えようとすると、部屋の近くで人の話し声が聞こえてきた。
慌てて私たちは距離を取ると、声の方を向く。
「……あった!――おい! 投げるぞ‼」
どうやら、グランドで練習していたサッカー部のボールが近くに転がってきたようで、部員がそれを捜しにきたようだ。
私たちの間に、微妙な空気が流れだし、先ほどまで大きく聞こえていた秒針の音は何も聞こえてこない。
「えっと、なんだっけ?」
「いや、なんでもないよ?」
なぜ疑問形になるのかわからないけれど、その後から続く言葉がないので、また無言になってしまう。
「あの」
「えっと」
また言葉がぶつかる。
数秒ほどの無言で見つめあう時間が経過すると、今度こそ彼が先に動いた。
「これから、ちょっと出かけない?」
予想外のお誘いに、一度深呼吸をして考えてみた。
時計を確認しても、電車の時間までまだ余裕がある。
それに、なぜか断ろうという気持ちがおきない。
「うん、いいけど、どこにいくの?」
「任せて」
さっと立ち上がり、戸締りや電源の確認をしっかりと行い、外にでる。
熱さが色濃く残る時間帯に、元気に走り回る学園生たち、私たちはその喧騒の中をゆっくりと歩いていく。
学園の外に出て、最初に言った言葉は「暑い」だった。
そしたら、伊織くんも「たしかに」と言って、隣に並んで歩く。
春のころは、二歩ほどの距離をあけて歩いていたのが、今では一歩半の距離まで縮まっている。
「それで? どこにいくの?」
身長の高い彼を下から見上げると、ちょうど木陰に入った。
枝と葉っぱの隙間から漏れる光が、眩しさと暑さを緩和してくれる。
「ちょっと待ってて、この間見つけたんだ」
テコテコと歩いていき、商店街に到着すると、祭りの準備が進められており、雑多な中に艶やかさが見える。
その商店街の一角にある小さなお店、そこの看板にはこう書かれていた。
『珈琲専門店』
私はコーヒーが苦手である。 だって、苦いうえに、トイレも近くなってしまう。
どちらかというと、紅茶のほうがまだ好きだ。
「ここ?」
「そう、ちょっと待ってて」
店頭の出窓から綺麗な女性の店員さんが、笑顔で挨拶をしてくれた。
そこに彼は「アフォガート二つ」と伝えてお金を払ってしまう。
「はい♪ ありがとうございます。 少々お待ちください」
外には日除けのパラソルと、下には小さな椅子とテーブルが設置されている。
そこに伊織くんの案内で座わった。
「ここは、いつもはコーヒー豆専門に売っているお店なんだ。それで、店内には飲食できるスペースは無いんだけど、夏はこうして天気がよければ外で食べられるようにしているみたい」
「それはわかったけど、アフォガートってなに?」
単純に疑問に思ってしまう。 聞きなれないワードとコーヒーが苦手な私、食べる前から変に緊張してしまう。
こういったとき、素直に苦手だと伝えることができれば良いけれど、中々言えない性格であった。
「アフォガートは、僕もつい最近まで知らなかったけどって、来た来た」
伊織くんの視線の先を見ると、先ほどの店員さんが、両手にお皿を持って扉からでてくる。
「お待たせしたしました。アフォガートお二つです」
コトリと丁寧に置かれたお皿の中には、美味しそうなアイスクリームが二つ並び、そこに黒い液体が注がれていた。
しかも、若干熱いのか溶けて混ざっており、乳白色になっている。
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