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第二章 風が運んできたものは?

綺麗なバラには棘がある‼

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「早いですね。あんまり散策とかもしてないですが?」

 一関先輩の態度がどうしても気になり、一応意見を述べてみる。

「大丈夫! 最初にご飯を食べると、後は全部自由な時間に充てられるから、時間も頃合いだし、最初に食べることをおススメするわ」

 なるほど、言われてみればそうだ。 
 朝早くから起きて、準備をしてきたので、きっちり朝食は食べたが、お腹は減っている。

「そうですね。それに午後から天気が崩れるという予報もありますから、良いうちにご飯を食べちゃいましょう」

 宮古くんも賛同したことにより、今からお弁当タイムが決定した。
 
「うぅ、そんな、勘弁してくれよ」

 そして、ついに泣き出した一関先輩、彼を見ていると、なんだろう、不安しかない。
 私はとんでもない行事に参加してしまったのではないだろうか?

 飲食可能なエリアまで移動すると、小奇麗なベンチとテーブルが人数分空いていた。
 さっと動いた宮古くん、ポケットからウェットティッシュを取り出して、テーブルとベンチをさっと拭き上げた。

「す、凄い」

 私はティッシュは用意していたが、彼のような行動はできない。
 あの気配り、ちょっと羨ましいと感じる。

「おほぉ! イオくんありがとう! それじゃぁ、早速座ろう」

 勢いよく一関先輩をひっぱり、無理やり隣に座らせてしまう。
 余った席に私と宮古くんが腰かけて、鞄からお弁当箱を取り出そうとした。

「ストップ! ちょっと待ってね。ハイ! ここで、恒例の告の料理タイムでぇす!」

 恒例⁉ 私たちは初回のような気がするが、きっと一関先輩からすると恒例なのかもしれない。
 ごそっと取り出した大きめのお弁当箱、それを自慢げに開ける矢島先輩。

 カパッと音をたてて開かれ、姿を現したのは、とても綺麗なおかずたちである。

「え⁉ 美味しそう」

 少し覚悟はしていたが、どうやら私の考え過ぎだったようで、なんだ、これなら安心して食べられそうだ。
 
「はい、覚! 口あけて、あ――ん!」

「⁉」

 唐突に目の前で始まった伝説の「あ――ん」、まさか先輩たち実は付き合っているのか⁉
 私と宮古くんが同時に生唾を飲んでしまう。
 だれがこんな展開を予想したのだろうか? まさか、今ままで私たちを騙していたの⁉

 そんなことを考えていると、一関先輩の表情が目に入る。

「い! 嫌だぁ! 助けてくれぇ!」

 涙目になりながら、逃げだそうとする先輩、矢島先輩の手には綺麗な形の卵焼きが箸で掴まれていた。
 しかし、グイっと引き戻された彼は、無理やり卵焼きを口の中につっこまれてしまう。

「はい! 観念しなさい♪」

 ズボッ‼

「む! ぐ、ぐぁぁぁぁ!」

 ニ、三回噛んだ後に飲み込むと、すぐに悲鳴があがる。

「え⁉」
「はぁ⁉」

 私と宮古くんが何かを察し、同時に声を漏らしてしまう。
 これは、もしかすると……。

「ま、まずぅぶぅぃぃぃ……」
 
 そう言って気を失うかのように、テーブルに頭を伏してしまう一関先輩、これは想像以上にヤバイかもしれない。
 
「あっちゃぁ、失敗しちゃったかぁ」

 残念そうな表情をした彼女が、ブツブツと何かを言い始める。
 どうやら、矢島先輩の料理は気絶するほどようで、それを知っていた一関先輩がなぜあれほど、嫌がっていたのかがわかった。

 そして、こちらをクルっと向き直った先輩、物凄い笑顔で話しかけてくる。

「覚ったら、私の料理が美味し過ぎて気を失うなんてぇ♪」

 ペチペチと、一関先輩の背中を叩きながら冗談を言っている。

「さてと、次は……」

 シュウマイを箸で掴むと、それをおもむろに宮古くんに向けてくる

「え⁉」
 
 ダメだ顔が引きつってきた。隣を見ると、顔面蒼白になった彼がいた。
 当然だ、目の前で起きたことが本当なら、先輩の料理を食べたいと思う人はいない!

「はい♪ イオくんも、あ――ん」

 可愛い! なんて愛らしさで迫ってくるのだろう。これぞ、先輩の魅力と言えなくもないが、やられた本人である宮古くんは、全力で拒否しようとしている。

「い、いえいえ! 大丈夫ですよ僕は、お腹減っていませんし」

 嘘だ、さっきお弁当を食べることに賛成しているので、少なくともお腹に何も入らない状況ではない。
 
「ほら、味の感想を聞きたいだけだから、いいでしょ?」
 
 笑顔で突き出されるシュウマイ、プルプルと震えだした体、ゴクリと唾を大きく飲み込み、観念したのか小さく口を広げる。
 そこに器用にポイっと投げ込まれたシュウマイ、ゆっくりと噛みしめ、飲み込んだ。

「あれ? おいしッ‼ ぶっ、げぇがぁぁぁ」

 喉を手でおさえ、苦しそうにしはじめ、ついには糸の切れた人形のようにゴトリとテーブルに沈んでしまう。
 これって、軽く凶器ではないだろうか? 
 人を気絶させる食べ物っていったい……でも、本当に気絶しているんだよね?

 不安になって彼の顔を覗こうとしたとき、不意に私の顔の近くにアスパラのベーコン巻が差し出された。

「はい♪ ヒナちゃんにもあげる」

 笑顔で言われてしまう、こうなることは分かっていたが、実際目の前にすると嫌だ!
 二人の惨状を見て、あえて食べる勇者はいない。

「えっと、その、実は私、今日体調がすぐれなくて」

 ぴくぴくと頬が動き、なんとか断りの言葉を捻りだしたが、先輩は諦めない。

「えぇ、せっかく皆のために作ってきたのに、ねぇ、味の感想を聞きたいの」

 その提案に対し、協力はしたいがせめて気絶しない料理を作って欲しい。
 
「ほら、恋愛にとって料理って大切な要素じゃない? だから、頑張っているんだ」

 その努力は素晴らしいと思う、だけど、何か別の才能を開花させたようで、見事に散った二人がそれを物語っていた。
  
「お願い! ね? 私の為だと思って、ひと口で良いから」

「ひ、ひと口ですか⁉」

 そのひと口が恐ろしい。 しかし、ここで逃げるわけにもいかず、目を瞑って覚悟を決め、口を無理やり開こうとした瞬間、私たちの間を強風が通り抜けていった。
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