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第一章 始動! 恋愛研究会

春風のいたずら

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 まったく同感である。 ここまで不穏な遠足は初めてであった。
 今までの経験でせいぜい、その日の天気ぐらいを気にしていたが、今は違う。

「どうしようか、急に暇になったね」

「じゃぁ、この間いった本屋さんに行って本を買わない? お弁当の簡単で美味しいレシピとかの本があったら買いたいな」

「あ、それ良いかも! せっかくだし気合いれるぞぉ!」

 黙っていても不安が消えるハズも無く、その場に立っているよりなら、何かしら行動しないと。
 家に帰ったら母に教えてもらいつつ、本で研究して、お弁当を考えよう。
 だって、せっかくなんだから、楽しみたい! 

「そう言えば、宮古くんって何か食べられない物ある?」

「ん? 特に無いかな、あるって言えば、香草系の香りが強いやつは苦手かも」

「パクチーとか?」

「そう! それにパセリとかも苦手かな? 他には特に無いかも、でもなんで?」

「え? だって、自分の分だけだと寂しくない? 私は少ないけど、皆の分も作ってこようかと思って」

 私の答えに驚く、皆で楽しめるチャンスがあるなら、とことん楽しみたい。
 自分から提案などはできないが、巡ってくるなら全力で取り組みたいのが私である。
 それをあまり表面にださないようにしているけど、文化祭などになると、メラメラと燃えてしまう性分だった。

「いや、凄いよ。僕は自分のことしか頭に無かったけど、二戸さんは全員のことを考えていたんだね! よっし! こっちも美味しいって思えるようなお弁当作るぞ!」

 そう言って、やる気を見せる宮古くん。 彼の声が心なしか弾んでいるような気がする。
 楽しみにしているのだろう。 不安があるなら、それを払拭できるようにする。

 だから、自分たちが楽しめるよう頑張らないと! 後で、先輩たちにも苦手な物や食べられない物が無いかを聞いておかないと。
 さすがに全部は採用できないけれど、ある程度は参考になる。

 学園を出て、まっすぐに本屋に向かう。
 レシピの本はスグに見つかったが、微妙に日焼けしており、少し割り引いてくれた。
 彼も散々迷ったが『サルでもできる。漢なお弁当レシピ』と題された本を購入している。
 
 内容が非常に気になるが、今はお互い週末に向けて話していた。
 私は初見の場所なので、何度か行ったことのある宮古くんの話を聞いて情報を仕入れていく。

 当日着ていく服装のヒントや、どういった場所で食べるかなど、詳しく彼は教えてくれた。

 そして、放課後集まらなくなったことにより、一気に暇になってしまう。
 早々に帰ろうとすると、晴香に呼び止められた。

「お? 研究会は?」

「えっと、週末まで無くなったの、で、皆で集まって懇親会みたいなのをやるみたい」

「へぇ、いいじゃん! 私の研究会は今燃えているよ! 今日も熱くラブランド・フロッグの話題で盛り上がる予定」

 なんて言葉を返せばよいのか、フロッグと言っているので、おそらくカエル系のUMAなのだろうが、全然想像できない。
 燃えに燃えている晴香は、そのまま鞄を持って研究室へ向かって行く。
 私も帰宅するために、準備を整えて玄関に向かって歩き始める。

 今日は母と一緒に、週末の準備をする予定だ。
 いつもと変わらないお弁当箱で良いと思っていたが、母は「ダメ! せっかくだから!」と、何がせっかくなのか分からないが、お弁当箱を買いに行く。

『陽と一緒に料理~♪』
 
 一緒に料理するのが楽しみなのか、喜んでいる母。
 そこまでしてくれるなら、私も頑張らないと、一応昨日の夜に先輩たち二人に苦手な食べ物を聞いておいたので、そのリストを母に渡し、買い物に行く予定である。

 まさか、学園に入ってすぐのイベントが遠足だとは思ってもいなかった。
 恋愛研究会って銘打っているものの、一度もまともな活動をしていないような気がする。
 あ、いや、確か……本を買ったのは立派な活動かな? 

 それでも、なんだかんだ言って楽しんでいる自分がいる。

「さて、帰るかな」

 靴棚から最近になってようやく、履きなれてきた靴を取り出していると、後ろから声をかけられる。

「あれ? 二戸さん?」

 声の主はなんとなくわかる。こう、透き通るような夏の夜風のような感じは、彼しかいない。
 いや、単に優しい声って言う表現が一番適切なのだけど……。

「どうも宮古くん」

 そこには、今日も鬱陶しい感じの前髪がトレンドマークの彼がいた。

「今帰り?」

「今から、研究会に行くように見える?」

「そうだよね、僕も一緒。もし、よかったら駅まで着いていってもいいかな?」

「着いてって、同じ方向でしょ?」

 靴を地面に置くと、隣に彼が並んだ。
 やはり背が高い、今日も春風にのってよい香りが飛んでくる。
 試しに、私の袖の香りもチェックしてみたが、慣れ親しんでいるからなのか、まったくの無臭だ。

 外に出て、歩き出すと、不意に風が強くなる。
 寒さが混じる感じがして、ぶるっと震えてしまいそうになった。

 そして、ぶわっと一際強い風が吹く。

「うっ……」

 思わず目を守るために横を見ると、隣を歩いていた彼の前髪が風により、ふわっと舞う。
 そして、私は見てしまった。

「え……?」

 
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