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第一章 始動! 恋愛研究会
土の香り
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ピタリと止まる空気、先ほどまで喧嘩のようなことをしていた二人が、こちらをぎこちなく見つめてくる。
「あ、あれ? 何かマズイこと言っちゃいました?」
「へ、へぇ、わ、私たちが仲良しに見える?」
あからさまに動揺しだした矢島先輩、今日までのやりとりを見てそう感じない人はいないと思うのだが。
試しに、隣に座っている宮古くんにも聞いてみると、彼も頷いてくれた。
「‼」
それを確かめた矢島先輩は顔を真っ赤にして、急いで部屋から出て行ってしまう。
な、なんなのだ⁉
「はぁ、まったく……」
一関先輩が大きなため息をつくと、こちらに軽く手で「ごめん」と、合図をし、後を追って部屋から出て行ってしまた。
急に二人っきりになる空間、なんだろう、一気に居心地が悪くなる。
「ど、どうしよう、私変なこと言っちゃたかな?」
「そうかな? 別に、見たまんまのことを伝えたように思えるけど」
宮古くんの同意も得られ、少し安心するが、今日の活動はどうしたらよいのか、先輩が置いた本が視界に入り、それを鞄に戻してしまう。
「暇になっちゃったね」
「うん、どうしよう」
一応部屋の鍵の置き場所は聞いていたので、このまま戸締りをして帰ることは可能である。
だけど、勝手に帰ってよいのかわからないので、お互い動けずにいた。
「何もすることないなら、僕に教えて欲しいことがあるんだ」
手持ち無沙汰になり、携帯電話で明日の天気予報を調べようとすると、宮古くんが私に何かを訊きたいらしい。
「ん? 私で答えられることがあれば」
「ありがとう、それじゃぁ、えっと、その、二戸さんって前に恋をしたことがあるって言ってたけど、具体的に恋ってどんな気持ちになるの? ドキドキしたりするってよく聞くけれど、想像できないんだ」
なるほど、前回はざっくりとだけ伝えたので、今回はより詳細を知りたいのだろう。
少し思い出すのは辛いけれど、今すぐに逃げ出したくなるほど嫌なわけでもない。
「ドキドキっていうか、常にその人のことを考えてしまったり、好きな人が近くに来ただけで、緊張しちゃったり、色々な感情が常に体中を駆け巡っているって感じかな?」
自分で言っておいてなんだが、伝わりにくい表現だと思う。
「それって、勝手になるの? 自分でコントロールはできない?」
「コントロールって、出来なくないかもしれないけれど、私は無理だったよ。どうしようもなくくらい切なくて、苦しくて、それでいて大変だった」
そう、本当に大変だった。 あれを楽しいと思えていた時期も確かに存在する。
「恋は盲目ってよく言うじゃない、あれって本当かも、全然他の事が手に着かなくなるから」
「そうなんだ! 勉強や部活とかも?」
少し思い出してみる。 勉強は一気に手に着かなくなったけど、部活は逆な気がした。
いつもより気合を入れて頑張って過ごしていたような記憶がある。
「人によるかもね。私は部活は頑張れた気がするけど」
「そうなんだ。頑張れたり、手に着かなくなったりって忙しいね」
「忙しいって……でも、一日が過ぎるのは早いかも、その人のことを考えていると、あっという間に過ぎていっちゃうから」
なんだか、言っていて段々と恥ずかしくなってきた。
ワクワクしながら私の話を真面目に聞く宮古くん、でも、なぜ彼は今まで恋をしてこなかったのだろうか?
何か深いワケがありそうだけど、聞いてよいのかな?
それから、しばらく彼の質問攻めにあうが、先輩たちが帰ってくる気配がまるでない。
「そろそろ帰る?」
私が提案すると、腕時計で時間を確認した宮古くんは名残惜しそうに帰宅の準備を開始した。
カーテンを閉めてると、一気に暗さが増していく。
施錠を確認し、部屋を出る時に一度ぐるりと見渡して外へでた。
ガチャリと鍵をかけ、駅に向かって歩きはじめる。
乾いた地面の上を歩くと、ジャリっと耳に残る音が聞こえてきた。
だけど、私の鼻に入ってくる外の空気はどこか土の香りがする。
「雨、降るかもね」
「そうなの? よくわかるね」
「雨の匂いって言えばわかる? あれがする」
「あぁ、ちょっと土っぽい感じの?」
頷いて応えると、彼は大きく息を鼻から吸い込んでいく。
そして、ゆっくりと口から吐き出した。
「うん! わからない!」
思いっきり爽やかな感じで言われてしまった。
その姿がなんだかおもしろくて、最初は堪えていたけれど、ついに耐えられなくなり、思わず笑ってしまった。
「ぷっ! な、なにそれ⁉」
この学園に来て、初めて男性の前で笑ってしまう。
別に笑い顔が不細工というわけじゃないが、あまり人前で笑うのは得意ではなかった。
「えぇ! 酷い、全力で香りを確かめようとしたけど、結局わかんなかった僕の心境をあらわしただけなのに!」
だからと言って、なぜそうなる。
もしかすると、彼は思っている以上に面白い人なのかもしれない。
まだ、入学したてで、殻を被っている人は多いと思う。
素の自分を出すタイミングを見計らっている時期でもあった。
少し声を殺して笑うと、ポケットの中の携帯電話が震える。
メッセージの差出人は矢島先輩で、今日はごめんなさい! と、記載されていた。
特に気にしていないし、私の一言が原因のようなので、私も謝っておくことにしよう。
そして、明日の研究会で重大発表があるそうで、必ず参加して欲しいと書かれている。
その文章を宮古くんに見せると、彼もわかったようで、了解と言ってくれた。
その日は、何事もなく駅で別れ、帰りの電車を待つ。
昨日のように本を読もうとしたけれど、なぜか腕が鞄にのびていかない。
だから私は、代わりにイヤホンを取り出して携帯電話で、アプリを起動させると好きなアーティストの音楽を聴き始めた。
「あ、あれ? 何かマズイこと言っちゃいました?」
「へ、へぇ、わ、私たちが仲良しに見える?」
あからさまに動揺しだした矢島先輩、今日までのやりとりを見てそう感じない人はいないと思うのだが。
試しに、隣に座っている宮古くんにも聞いてみると、彼も頷いてくれた。
「‼」
それを確かめた矢島先輩は顔を真っ赤にして、急いで部屋から出て行ってしまう。
な、なんなのだ⁉
「はぁ、まったく……」
一関先輩が大きなため息をつくと、こちらに軽く手で「ごめん」と、合図をし、後を追って部屋から出て行ってしまた。
急に二人っきりになる空間、なんだろう、一気に居心地が悪くなる。
「ど、どうしよう、私変なこと言っちゃたかな?」
「そうかな? 別に、見たまんまのことを伝えたように思えるけど」
宮古くんの同意も得られ、少し安心するが、今日の活動はどうしたらよいのか、先輩が置いた本が視界に入り、それを鞄に戻してしまう。
「暇になっちゃったね」
「うん、どうしよう」
一応部屋の鍵の置き場所は聞いていたので、このまま戸締りをして帰ることは可能である。
だけど、勝手に帰ってよいのかわからないので、お互い動けずにいた。
「何もすることないなら、僕に教えて欲しいことがあるんだ」
手持ち無沙汰になり、携帯電話で明日の天気予報を調べようとすると、宮古くんが私に何かを訊きたいらしい。
「ん? 私で答えられることがあれば」
「ありがとう、それじゃぁ、えっと、その、二戸さんって前に恋をしたことがあるって言ってたけど、具体的に恋ってどんな気持ちになるの? ドキドキしたりするってよく聞くけれど、想像できないんだ」
なるほど、前回はざっくりとだけ伝えたので、今回はより詳細を知りたいのだろう。
少し思い出すのは辛いけれど、今すぐに逃げ出したくなるほど嫌なわけでもない。
「ドキドキっていうか、常にその人のことを考えてしまったり、好きな人が近くに来ただけで、緊張しちゃったり、色々な感情が常に体中を駆け巡っているって感じかな?」
自分で言っておいてなんだが、伝わりにくい表現だと思う。
「それって、勝手になるの? 自分でコントロールはできない?」
「コントロールって、出来なくないかもしれないけれど、私は無理だったよ。どうしようもなくくらい切なくて、苦しくて、それでいて大変だった」
そう、本当に大変だった。 あれを楽しいと思えていた時期も確かに存在する。
「恋は盲目ってよく言うじゃない、あれって本当かも、全然他の事が手に着かなくなるから」
「そうなんだ! 勉強や部活とかも?」
少し思い出してみる。 勉強は一気に手に着かなくなったけど、部活は逆な気がした。
いつもより気合を入れて頑張って過ごしていたような記憶がある。
「人によるかもね。私は部活は頑張れた気がするけど」
「そうなんだ。頑張れたり、手に着かなくなったりって忙しいね」
「忙しいって……でも、一日が過ぎるのは早いかも、その人のことを考えていると、あっという間に過ぎていっちゃうから」
なんだか、言っていて段々と恥ずかしくなってきた。
ワクワクしながら私の話を真面目に聞く宮古くん、でも、なぜ彼は今まで恋をしてこなかったのだろうか?
何か深いワケがありそうだけど、聞いてよいのかな?
それから、しばらく彼の質問攻めにあうが、先輩たちが帰ってくる気配がまるでない。
「そろそろ帰る?」
私が提案すると、腕時計で時間を確認した宮古くんは名残惜しそうに帰宅の準備を開始した。
カーテンを閉めてると、一気に暗さが増していく。
施錠を確認し、部屋を出る時に一度ぐるりと見渡して外へでた。
ガチャリと鍵をかけ、駅に向かって歩きはじめる。
乾いた地面の上を歩くと、ジャリっと耳に残る音が聞こえてきた。
だけど、私の鼻に入ってくる外の空気はどこか土の香りがする。
「雨、降るかもね」
「そうなの? よくわかるね」
「雨の匂いって言えばわかる? あれがする」
「あぁ、ちょっと土っぽい感じの?」
頷いて応えると、彼は大きく息を鼻から吸い込んでいく。
そして、ゆっくりと口から吐き出した。
「うん! わからない!」
思いっきり爽やかな感じで言われてしまった。
その姿がなんだかおもしろくて、最初は堪えていたけれど、ついに耐えられなくなり、思わず笑ってしまった。
「ぷっ! な、なにそれ⁉」
この学園に来て、初めて男性の前で笑ってしまう。
別に笑い顔が不細工というわけじゃないが、あまり人前で笑うのは得意ではなかった。
「えぇ! 酷い、全力で香りを確かめようとしたけど、結局わかんなかった僕の心境をあらわしただけなのに!」
だからと言って、なぜそうなる。
もしかすると、彼は思っている以上に面白い人なのかもしれない。
まだ、入学したてで、殻を被っている人は多いと思う。
素の自分を出すタイミングを見計らっている時期でもあった。
少し声を殺して笑うと、ポケットの中の携帯電話が震える。
メッセージの差出人は矢島先輩で、今日はごめんなさい! と、記載されていた。
特に気にしていないし、私の一言が原因のようなので、私も謝っておくことにしよう。
そして、明日の研究会で重大発表があるそうで、必ず参加して欲しいと書かれている。
その文章を宮古くんに見せると、彼もわかったようで、了解と言ってくれた。
その日は、何事もなく駅で別れ、帰りの電車を待つ。
昨日のように本を読もうとしたけれど、なぜか腕が鞄にのびていかない。
だから私は、代わりにイヤホンを取り出して携帯電話で、アプリを起動させると好きなアーティストの音楽を聴き始めた。
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