8 / 54
呻る双腕重機は雪の香り
第一波 極秘! 鋼鉄の双腕 ④
しおりを挟む
メニューはクリームパスタに、温野菜サラダとコンソメのスープだった。
運んできてくれた人にお礼を述べると、フォークをもって食べようとするが、気になることがある。
それは、目の前で私が食べるのを黙って見ている人がいるのだ。
「あなたは何か食べないの?」
自分ばかり食べるのも気が引けるので、相手にも聞いてみる。
「私のことは気にしないでください、後でしっかりといただきますので」
本を読んでいるときと違って「世界」に入り込めない食事では、黙って見られるとかなり緊張してくる。
食事の作法には自信があるけれども、食べている場面を見つめられて喜ぶ人は多くはいないと思う。
「だったら、今から食事にしては? 一緒に摂れば時間的にも効率が良いのでは?」
後からと言っているが、午後も私と一緒ならどこで食べるのか、きっと寝てから食べたりする可能性すらある。
それに、一緒に食べるのは悪い案ではないと思った。
そうすれば、緊張せずに食べられるうえに、彼の食の好みも少しは知ることができるかもしれない。
「ご一緒にと言われましても」
「いいの、遠慮しないで」
サラダに入っているトスカーナバイオレットをひと口かじると、とても甘みがあり、ついつい急いで食べたくなってしまう。
「そうですか、でしたらご一緒してもよろしいですか?」
私は小さく頷くと、彼はまた一度外を確認してから少し急ぎ気味に部屋を出ていく。
その隙に残りのトスカーナバイオレットを口に放り込むと、口の中が幸せに満たされていった。
残りのサラダを食べ終えるころに、蒲生さんは戻ってきた。
男性のお弁当とは思えないほど小さく、こじんまりとしている。
部屋に入るなり、そのまま椅子に座るとお弁当箱を広げていく。
二段に重なったお弁当箱には、上にラップサンドと下の段にはあまり見たことのないスープが入っている。
どうやら、スープを入れても漏れない仕組みのようで、蓋の開け方が若干複雑そうだった。
「美味しそうね」
髪の毛が汚れないように耳にかけ、パスタをいただく。
温かなとろみが、パスタによくからんでいてとても美味しい。
しかし、男性の食事はもっと肉や大きなお握りといったイメージがあったので、まさかラップサンドとスープが出てくるとは思わなかった。
「そうですか? お嬢様のお料理が私には美味しそうに見えますが」
隣の芝はなんとやら、と言うわけではなく単純に物珍しかった。
もうひと口食べると、今度はスープを飲み込む。 濃い味付けのパスタに比べあっさりとした味わいが口の中をリセットしてくれる。
「そうそう、蒲生さんも何かスープもってきていましたけど、どんなスープなんですか?」
ラップサンドを丁寧に食べている。
その手と口がとまり、ゆっくりと飲み込んでから私の問いに答えてくれた。
「これは、ルタバガのスープですよ」
また聞きなれない言葉を聞いた。
ルタバガ? それは野菜なのか出汁なのか、まったく見当がつかないが、見た感じだと野菜のスープのように思えた。
「ルタバガ?」
「知りませんか? 西洋カブなんて呼ばれていたりもしますが、日本ではあまり食べられませんね」
そもそも、カブなのか? 色合いが私の知っているカブの色ではなかった。
もっとこう優しい感じの色合いである。
「まぁ、カブって言ってますが、カブの仲間ではないんですけど、香りはキャベツのような葉菜の香りに、食感は固めです。 味はジャガイモやカボチャに似ているでしょうか? 独特なので表現が難しいですけど、旬なので美味しい時期ですよ」
この寒い季節に旬を迎える野菜とは、名前だけでなく食味や旬の時期までも、興味を惹かれてしまう。
私はコミュニケーションは苦手だが、知的好奇心は多いと思っている。
だから本を読んだり、勉強も手を抜きたくない。
自分が知らない世界が広がっていくのは、とても素晴らしいことだ。
それを手軽に手に入れれるのが本なのだが、経験もしたくともそれでは時間が足りなさすぎる。
少しでも怪我の危険性があると、お父様は遠ざけてしまう。 私ってそんなに軟弱なのだろうか?
お母様は、今日も相変わらず世界を飛び回っている。
昨日の報告を受けて、早々に帰国するらしいがいつになることやら。
「初めて聞く野菜だけど、少し興味があるわね」
「そうですか? こっちでは珍しいですけど、ヨーロッパではわりとメジャーな野菜です」
保温性が良いのか、僅かに湯気が見えるスープの香りが、クリームパスタに慣れた鼻に届いてくる。
「もしよろしければ少し食べてみますか?」
「え?」
スッと私にスープを渡してくる。 それほど物欲しそうにしていたのだろうか?
とろみのついたルタバガのスープが手を伸ばすと届く場所にある。
少し迷ったが、せっかくのチャンスなのでいただくことにした。
使っていないスプーンでひと口ぶん持ち上げ口に運ぶ、クリーミーな口当たりのスープが広がっていく。
確かに香りは青臭い感じがするが、味はとても美味しい。
「お、美味しい」
「それは良かったです」
安心したのか微笑むその顔は幼く見える。
運んできてくれた人にお礼を述べると、フォークをもって食べようとするが、気になることがある。
それは、目の前で私が食べるのを黙って見ている人がいるのだ。
「あなたは何か食べないの?」
自分ばかり食べるのも気が引けるので、相手にも聞いてみる。
「私のことは気にしないでください、後でしっかりといただきますので」
本を読んでいるときと違って「世界」に入り込めない食事では、黙って見られるとかなり緊張してくる。
食事の作法には自信があるけれども、食べている場面を見つめられて喜ぶ人は多くはいないと思う。
「だったら、今から食事にしては? 一緒に摂れば時間的にも効率が良いのでは?」
後からと言っているが、午後も私と一緒ならどこで食べるのか、きっと寝てから食べたりする可能性すらある。
それに、一緒に食べるのは悪い案ではないと思った。
そうすれば、緊張せずに食べられるうえに、彼の食の好みも少しは知ることができるかもしれない。
「ご一緒にと言われましても」
「いいの、遠慮しないで」
サラダに入っているトスカーナバイオレットをひと口かじると、とても甘みがあり、ついつい急いで食べたくなってしまう。
「そうですか、でしたらご一緒してもよろしいですか?」
私は小さく頷くと、彼はまた一度外を確認してから少し急ぎ気味に部屋を出ていく。
その隙に残りのトスカーナバイオレットを口に放り込むと、口の中が幸せに満たされていった。
残りのサラダを食べ終えるころに、蒲生さんは戻ってきた。
男性のお弁当とは思えないほど小さく、こじんまりとしている。
部屋に入るなり、そのまま椅子に座るとお弁当箱を広げていく。
二段に重なったお弁当箱には、上にラップサンドと下の段にはあまり見たことのないスープが入っている。
どうやら、スープを入れても漏れない仕組みのようで、蓋の開け方が若干複雑そうだった。
「美味しそうね」
髪の毛が汚れないように耳にかけ、パスタをいただく。
温かなとろみが、パスタによくからんでいてとても美味しい。
しかし、男性の食事はもっと肉や大きなお握りといったイメージがあったので、まさかラップサンドとスープが出てくるとは思わなかった。
「そうですか? お嬢様のお料理が私には美味しそうに見えますが」
隣の芝はなんとやら、と言うわけではなく単純に物珍しかった。
もうひと口食べると、今度はスープを飲み込む。 濃い味付けのパスタに比べあっさりとした味わいが口の中をリセットしてくれる。
「そうそう、蒲生さんも何かスープもってきていましたけど、どんなスープなんですか?」
ラップサンドを丁寧に食べている。
その手と口がとまり、ゆっくりと飲み込んでから私の問いに答えてくれた。
「これは、ルタバガのスープですよ」
また聞きなれない言葉を聞いた。
ルタバガ? それは野菜なのか出汁なのか、まったく見当がつかないが、見た感じだと野菜のスープのように思えた。
「ルタバガ?」
「知りませんか? 西洋カブなんて呼ばれていたりもしますが、日本ではあまり食べられませんね」
そもそも、カブなのか? 色合いが私の知っているカブの色ではなかった。
もっとこう優しい感じの色合いである。
「まぁ、カブって言ってますが、カブの仲間ではないんですけど、香りはキャベツのような葉菜の香りに、食感は固めです。 味はジャガイモやカボチャに似ているでしょうか? 独特なので表現が難しいですけど、旬なので美味しい時期ですよ」
この寒い季節に旬を迎える野菜とは、名前だけでなく食味や旬の時期までも、興味を惹かれてしまう。
私はコミュニケーションは苦手だが、知的好奇心は多いと思っている。
だから本を読んだり、勉強も手を抜きたくない。
自分が知らない世界が広がっていくのは、とても素晴らしいことだ。
それを手軽に手に入れれるのが本なのだが、経験もしたくともそれでは時間が足りなさすぎる。
少しでも怪我の危険性があると、お父様は遠ざけてしまう。 私ってそんなに軟弱なのだろうか?
お母様は、今日も相変わらず世界を飛び回っている。
昨日の報告を受けて、早々に帰国するらしいがいつになることやら。
「初めて聞く野菜だけど、少し興味があるわね」
「そうですか? こっちでは珍しいですけど、ヨーロッパではわりとメジャーな野菜です」
保温性が良いのか、僅かに湯気が見えるスープの香りが、クリームパスタに慣れた鼻に届いてくる。
「もしよろしければ少し食べてみますか?」
「え?」
スッと私にスープを渡してくる。 それほど物欲しそうにしていたのだろうか?
とろみのついたルタバガのスープが手を伸ばすと届く場所にある。
少し迷ったが、せっかくのチャンスなのでいただくことにした。
使っていないスプーンでひと口ぶん持ち上げ口に運ぶ、クリーミーな口当たりのスープが広がっていく。
確かに香りは青臭い感じがするが、味はとても美味しい。
「お、美味しい」
「それは良かったです」
安心したのか微笑むその顔は幼く見える。
0
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
青春リフレクション
羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。
命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。
そんなある日、一人の少女に出会う。
彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。
でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!?
胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる