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呻る双腕重機は雪の香り
第一波 極秘! 鋼鉄の双腕
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昨日の出来事が嘘のような朝の目覚めが訪れた。
まだ重たい瞼を無理やり広げると、淡い光が遮光カーテン越しに僅かに漏れている。
いつものように目覚めの紅茶を飲むために、ベッドの脇に台に置いてあるボタンを押すと、すぐに使用人が来て本日の一杯を淹れてくれた。
何とも言えない幸せな香りに体中が満たされると、幸せな気持ちになれる。
今朝の紅茶はモンターニュブルー、このフレーバーが嫌なことも忘れさせてくれそうで、とても素敵だった。
髪の毛を整え終わると、軽く着替えを済ませ朝食を食べに向かおうとし、部屋の外へでると、そこには窓の外を見つめている蒲生さんが立っていた。
すぐに私に気がつき、ゆっくりと寄ってきて爽やかに微笑んでくれる。
朝なのにしっかりとスーツを着こなし、シャツにはシワが一つもなかった。
お父様のご配慮で、屋敷に住み込みで警護をしてくれるが、部屋はなぜか遠く離されている。
これでは意味がないように思えるが、お父様は聞き入れる気は一切なかった。
「おはようございます。 お嬢様」
少しだけまだ朝の気配が残っている廊下に、彼の綺麗な声が通っていく、なぜかその声を聞くだけで、ちょっぴり背中が痒くなる。
「うん、おはよう……」
真顔であいさつを返してしまった。 そもそも、私は笑顔が苦手で人前で笑顔になることはあまりなかった。
それでも、私のあいさつを笑顔で受け取ってくれ、更に食事をする場所にも付き添ってくれた。
静かな廊下に、いつもどおり私の足音だけが響き渡る。 しかし、今日は二人いる。
そんな不思議な空間になっていた。
食事は基本的にパンとヨーグルトと採れたての野菜をつかったサラダだけで、特別な日以外はこれを繰り返している。
ご飯も食べたくなるが、ちょっと朝からだと重いように感じられた。
いつものようにパンにジャムを塗ろうとするが、視界の端で黙ったまま立っている人が目に入っていくる。
どこを見ているのかわからないが、顔はまっすぐに視線は常になにかを探している。
そもそも、昨日の一件後にお父様と蒲生さんは仕事の契約や、注意事項などをまとめるために、私とは全然接していない。
自己紹介もまだな感じだ。 まぁ、私は自己紹介をするほど紹介できるところがないのだけれど。
それでも、彼のことは名前以外何もわからない。
これから一緒にいる時間が増えていくのに、何も知らないのは少し不安だった。
「ねぇ、ご飯は食べないの?」
パンを一口飲みこんでから話しかけてみる。
私から話しかけられたのに驚いたのか、少しばかり目を見開いてから答えてくれた。
「いいえ、大丈夫です。 私の分は既に済ませてありますので」
目を細めながら答えてくれ、そのときの表情はどこか優しい感じがする。
「ずいぶん早いのね」
自分でいうのもなんだが、私は朝は遅くない。 むしろ早いほうだ。
今も休日だが時計の針はまだ七時にすらなっていない。
「クセ……、 ですかね」
困ったような顔をしながら、返答してくるが仕事の関係で早いのかと思ったら「クセ」と答えてくる。
どうも小骨が喉に刺さったような感じがするが、聞いてよいのかわからないので、そっとしておくことにした。
もう少し会話がスムーズにできるようになるのだろうか? コミュニケーションが下手な私が彼とスムーズに会話をしているのを想像できなかった。
それ以降会話はなく、食事を進めている。
食後のオレンジジュースを飲みながら、外が気になり眺めると、そこには枯れ葉が一枚だけ窓にはりついていた。
外は風が強いだろう。 部屋でゆっくりと読書に集中しようと思った。
席から離れようとすると、彼も私の後をついてくる。
相変わらず気配を感じられないのが、なぜか安心してしまう。
部屋の前に到着すると、蒲生さんは立ち止まり、また窓の外を見始める。
その顔がなぜか悲しいような雰囲気を纏っているので、私は思わず声をかけてしまった。
「あの……。 もしよろしければ部屋に入りますか?」
「え?」
ご飯のときのような驚いた顔をすると、ゆっくりと首を横に振る。
「遠慮しておきます。 お嬢様の部屋にはさすがに入れません」
「でも、それでは私の部屋でもしもの事があった場合はどう対処するのですか?」
私の問いに、悩むような素振りを見せると「まいった」という表情をしながら、左手で後頭部を数回掻きながら、小さくため息を吐いた。
「私がお邪魔してもよろしいのですか?」
「かまいませんよ。 特になにをするわけでもありませんが」
それでも、躊躇っているのか一歩が重そうで、私は部屋の扉を開けると「どうぞ」とだけ言った。
まだ重たい瞼を無理やり広げると、淡い光が遮光カーテン越しに僅かに漏れている。
いつものように目覚めの紅茶を飲むために、ベッドの脇に台に置いてあるボタンを押すと、すぐに使用人が来て本日の一杯を淹れてくれた。
何とも言えない幸せな香りに体中が満たされると、幸せな気持ちになれる。
今朝の紅茶はモンターニュブルー、このフレーバーが嫌なことも忘れさせてくれそうで、とても素敵だった。
髪の毛を整え終わると、軽く着替えを済ませ朝食を食べに向かおうとし、部屋の外へでると、そこには窓の外を見つめている蒲生さんが立っていた。
すぐに私に気がつき、ゆっくりと寄ってきて爽やかに微笑んでくれる。
朝なのにしっかりとスーツを着こなし、シャツにはシワが一つもなかった。
お父様のご配慮で、屋敷に住み込みで警護をしてくれるが、部屋はなぜか遠く離されている。
これでは意味がないように思えるが、お父様は聞き入れる気は一切なかった。
「おはようございます。 お嬢様」
少しだけまだ朝の気配が残っている廊下に、彼の綺麗な声が通っていく、なぜかその声を聞くだけで、ちょっぴり背中が痒くなる。
「うん、おはよう……」
真顔であいさつを返してしまった。 そもそも、私は笑顔が苦手で人前で笑顔になることはあまりなかった。
それでも、私のあいさつを笑顔で受け取ってくれ、更に食事をする場所にも付き添ってくれた。
静かな廊下に、いつもどおり私の足音だけが響き渡る。 しかし、今日は二人いる。
そんな不思議な空間になっていた。
食事は基本的にパンとヨーグルトと採れたての野菜をつかったサラダだけで、特別な日以外はこれを繰り返している。
ご飯も食べたくなるが、ちょっと朝からだと重いように感じられた。
いつものようにパンにジャムを塗ろうとするが、視界の端で黙ったまま立っている人が目に入っていくる。
どこを見ているのかわからないが、顔はまっすぐに視線は常になにかを探している。
そもそも、昨日の一件後にお父様と蒲生さんは仕事の契約や、注意事項などをまとめるために、私とは全然接していない。
自己紹介もまだな感じだ。 まぁ、私は自己紹介をするほど紹介できるところがないのだけれど。
それでも、彼のことは名前以外何もわからない。
これから一緒にいる時間が増えていくのに、何も知らないのは少し不安だった。
「ねぇ、ご飯は食べないの?」
パンを一口飲みこんでから話しかけてみる。
私から話しかけられたのに驚いたのか、少しばかり目を見開いてから答えてくれた。
「いいえ、大丈夫です。 私の分は既に済ませてありますので」
目を細めながら答えてくれ、そのときの表情はどこか優しい感じがする。
「ずいぶん早いのね」
自分でいうのもなんだが、私は朝は遅くない。 むしろ早いほうだ。
今も休日だが時計の針はまだ七時にすらなっていない。
「クセ……、 ですかね」
困ったような顔をしながら、返答してくるが仕事の関係で早いのかと思ったら「クセ」と答えてくる。
どうも小骨が喉に刺さったような感じがするが、聞いてよいのかわからないので、そっとしておくことにした。
もう少し会話がスムーズにできるようになるのだろうか? コミュニケーションが下手な私が彼とスムーズに会話をしているのを想像できなかった。
それ以降会話はなく、食事を進めている。
食後のオレンジジュースを飲みながら、外が気になり眺めると、そこには枯れ葉が一枚だけ窓にはりついていた。
外は風が強いだろう。 部屋でゆっくりと読書に集中しようと思った。
席から離れようとすると、彼も私の後をついてくる。
相変わらず気配を感じられないのが、なぜか安心してしまう。
部屋の前に到着すると、蒲生さんは立ち止まり、また窓の外を見始める。
その顔がなぜか悲しいような雰囲気を纏っているので、私は思わず声をかけてしまった。
「あの……。 もしよろしければ部屋に入りますか?」
「え?」
ご飯のときのような驚いた顔をすると、ゆっくりと首を横に振る。
「遠慮しておきます。 お嬢様の部屋にはさすがに入れません」
「でも、それでは私の部屋でもしもの事があった場合はどう対処するのですか?」
私の問いに、悩むような素振りを見せると「まいった」という表情をしながら、左手で後頭部を数回掻きながら、小さくため息を吐いた。
「私がお邪魔してもよろしいのですか?」
「かまいませんよ。 特になにをするわけでもありませんが」
それでも、躊躇っているのか一歩が重そうで、私は部屋の扉を開けると「どうぞ」とだけ言った。
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