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地の魔将 参戦す
敵の増援
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***
モルフィの気配が消えるのを確認すると、肩の力を抜く。
あんな啖呵をきってしまったので、これは実現しないといけないだろう。
「でも、実際に俺たちが安全に暮らすってなると、あれしかないんだろうなぁ」
どこかに隠れてくらしていても、いつかは見つかってしまう。
そうなれば、また一から戦う必要性がある。
「そうなれば、いつかは……」
自分だけが滅ぶのは構わない、だが、ヘラオやモルフィが一緒となると話は別だ。
それに、彼らには昔に言っている。
「俺と一緒だとそのうち死ぬぞ?」
それでも付いてきてくれているのには、感謝しかない。
人間と魔族の軍が散り散りに逃げ出し、谷には死体だけが転がっている。
「そろそろ頃合いか――? あれは?」
俺は立ち上がると、ふと目を細めて人間が逃げていった方角を見ると、そこに怪しい影をみた。
「まさか⁉ しまった。失念していたぜ」
すぐにヘラオたちを戻さないとヤバい、しかも、逃げた兵を吸収し大きくなってやがる。
「なんだ、戦意喪失したんじゃないのかよ⁉」
これだから人間は厄介だ、先ほどまで逃げていたのに、いざ心強い味方を得ると、また歯向かってくる。
全てではないが、きっと多く吸収されていた。
「ケトル様!」
「モルフィか⁉」
娘が敵の首をもって後ろに立っていた。
だが、俺と同じ光景をみたようで、首をぼとりと落としていしまう。
「急いで魔獣たちを戻してきます!」
「頼む」
くるっと向きをかえて、手勢の魔獣たちを集め始めたが、明らかに疲れが見えはじめていたり、傷ついている個体も多くみられる。
「主よ……あれは」
ヘラオも戻ってくるなり、俺の視線の先にいるものを見て驚く。
「どれぐらいだと思う?」
「おそらく、六百――いや、七百かと」
人間の軍勢がこちらに向かってきていた。
しかも、シルバータイガーの旗印に、白銀騎士団を表す爪の旗がバタバタと風に揺れている。
「あれが義勇軍?」
ヘラオが仕入れた情報の一つに、前回討ち取った人間の一部が仇討だと言って義勇軍を組織して、攻めてくるといった情報があったが、精々数十人程度と思っていたが、規模が違いすぎる。
「馬鹿な! あれは正規軍で間違いない、義勇兵たちの集まりなんて見えない」
分厚く、白銀の甲冑を身にまとい、武器を鳴らしながら進軍をしていた。
それに、左右には騎馬隊もいくつか見える。
「これは、正面衝突が避けられませんね」
「あぁ、ヤバい、数も質もかなり上だ」
こちらは、朝から戦闘を続けてきた疲弊しきった魔獣たちと、ヘラオとモルフィだけだ。
俺は、戦力に考えるだけ意味がない。
「急いで谷の入り口に魔獣たちを集結させます」
俺の返事を聞かずに立ち去るヘラオ、モルフィもベア型に乗り指示を出しながら魔獣たちを一か所に集めだしたが、かなり厳しい戦いになりそうだ。
いくら二人が一騎当千と言っても、条件が違いすぎる。
今までは奇襲がメインで、正面衝突ではない。
魔獣の特性を考えての行動であったが、敵はまっすぐに我々をすでに捕捉し、逃げ出している兵も率いつつ進軍していた。
「くそ、なにが思考の外だ、これはマズイ、勝てるのは勝てるかもしれないが、次がもたない」
もし、この戦闘で勝利しても、かなりの兵をこちらは失う、そうなれば次の戦闘で負けてしまう。
それでは意味がない。
「かといって、力を抜いて勝てる相手でもないよな」
現状を理解すればするほど、自陣が不利に思えてしかたがない。
ならば、いっそのこと逃げてしまう?
いや、それはダメだ。 杜の中に入りゲリラ戦を行っても、敵の増援が到着してしまえば、数で押し切られてしまう。
「やはり、ここで勝つしかないのか」
唯一生き長られるのは、ここでの勝利しかなかった。
「俺も出るか」
自ら先頭に立ち、指揮をとる覚悟をし準備をしようとしたとき、敵の影が大きく揺らぎ始めた。
「なんだ⁉ 突撃か? いや、遠すぎる」
慌てて崖の近くまで行くと、下ではヘラオも異変に気が付き、こちらを見つめていた。
「どうした、どうしたんだ?」
人間の軍が大きく陣形を変えると同時に、砂塵が舞い始めたる。
「あれは、魔法? しかも、かなり強力な……」
しかし、俺はこの魔法を知っていた。
まさか? 次の手はおそらく――砂塵に隠れての重装リザードマンによる強襲!!
「可能性はかなり低いが、今、どちらに攻められても未来は無い! ならば、行くぞ!!」
俺は崖を急いで降り、モルフィが乗っているベア型にまたがると、大声を出して伝える。
「突撃! 人間めがけて突撃を開始する!」
「えぇ⁉ よろしいので?」
「あぁ、少ない可能性に賭けてみるとするか」
俺の言葉が信じられないといった表情なモルフィに対し、ヘラオは高らかに笑うと、魔獣たちを率いて突撃を開始した。
「懐かしい香りがしますぞ!」
「本当に、懐かしいな!」
モルフィも、一瞬ためらったが、ヘラオたちを追うかたちで進軍を開始する。
どんどん近づく砂塵の中に、複数の完全武装したリザードマンたちが入り込んでいき、叫び声がこちらまで届いてきた。
モルフィの気配が消えるのを確認すると、肩の力を抜く。
あんな啖呵をきってしまったので、これは実現しないといけないだろう。
「でも、実際に俺たちが安全に暮らすってなると、あれしかないんだろうなぁ」
どこかに隠れてくらしていても、いつかは見つかってしまう。
そうなれば、また一から戦う必要性がある。
「そうなれば、いつかは……」
自分だけが滅ぶのは構わない、だが、ヘラオやモルフィが一緒となると話は別だ。
それに、彼らには昔に言っている。
「俺と一緒だとそのうち死ぬぞ?」
それでも付いてきてくれているのには、感謝しかない。
人間と魔族の軍が散り散りに逃げ出し、谷には死体だけが転がっている。
「そろそろ頃合いか――? あれは?」
俺は立ち上がると、ふと目を細めて人間が逃げていった方角を見ると、そこに怪しい影をみた。
「まさか⁉ しまった。失念していたぜ」
すぐにヘラオたちを戻さないとヤバい、しかも、逃げた兵を吸収し大きくなってやがる。
「なんだ、戦意喪失したんじゃないのかよ⁉」
これだから人間は厄介だ、先ほどまで逃げていたのに、いざ心強い味方を得ると、また歯向かってくる。
全てではないが、きっと多く吸収されていた。
「ケトル様!」
「モルフィか⁉」
娘が敵の首をもって後ろに立っていた。
だが、俺と同じ光景をみたようで、首をぼとりと落としていしまう。
「急いで魔獣たちを戻してきます!」
「頼む」
くるっと向きをかえて、手勢の魔獣たちを集め始めたが、明らかに疲れが見えはじめていたり、傷ついている個体も多くみられる。
「主よ……あれは」
ヘラオも戻ってくるなり、俺の視線の先にいるものを見て驚く。
「どれぐらいだと思う?」
「おそらく、六百――いや、七百かと」
人間の軍勢がこちらに向かってきていた。
しかも、シルバータイガーの旗印に、白銀騎士団を表す爪の旗がバタバタと風に揺れている。
「あれが義勇軍?」
ヘラオが仕入れた情報の一つに、前回討ち取った人間の一部が仇討だと言って義勇軍を組織して、攻めてくるといった情報があったが、精々数十人程度と思っていたが、規模が違いすぎる。
「馬鹿な! あれは正規軍で間違いない、義勇兵たちの集まりなんて見えない」
分厚く、白銀の甲冑を身にまとい、武器を鳴らしながら進軍をしていた。
それに、左右には騎馬隊もいくつか見える。
「これは、正面衝突が避けられませんね」
「あぁ、ヤバい、数も質もかなり上だ」
こちらは、朝から戦闘を続けてきた疲弊しきった魔獣たちと、ヘラオとモルフィだけだ。
俺は、戦力に考えるだけ意味がない。
「急いで谷の入り口に魔獣たちを集結させます」
俺の返事を聞かずに立ち去るヘラオ、モルフィもベア型に乗り指示を出しながら魔獣たちを一か所に集めだしたが、かなり厳しい戦いになりそうだ。
いくら二人が一騎当千と言っても、条件が違いすぎる。
今までは奇襲がメインで、正面衝突ではない。
魔獣の特性を考えての行動であったが、敵はまっすぐに我々をすでに捕捉し、逃げ出している兵も率いつつ進軍していた。
「くそ、なにが思考の外だ、これはマズイ、勝てるのは勝てるかもしれないが、次がもたない」
もし、この戦闘で勝利しても、かなりの兵をこちらは失う、そうなれば次の戦闘で負けてしまう。
それでは意味がない。
「かといって、力を抜いて勝てる相手でもないよな」
現状を理解すればするほど、自陣が不利に思えてしかたがない。
ならば、いっそのこと逃げてしまう?
いや、それはダメだ。 杜の中に入りゲリラ戦を行っても、敵の増援が到着してしまえば、数で押し切られてしまう。
「やはり、ここで勝つしかないのか」
唯一生き長られるのは、ここでの勝利しかなかった。
「俺も出るか」
自ら先頭に立ち、指揮をとる覚悟をし準備をしようとしたとき、敵の影が大きく揺らぎ始めた。
「なんだ⁉ 突撃か? いや、遠すぎる」
慌てて崖の近くまで行くと、下ではヘラオも異変に気が付き、こちらを見つめていた。
「どうした、どうしたんだ?」
人間の軍が大きく陣形を変えると同時に、砂塵が舞い始めたる。
「あれは、魔法? しかも、かなり強力な……」
しかし、俺はこの魔法を知っていた。
まさか? 次の手はおそらく――砂塵に隠れての重装リザードマンによる強襲!!
「可能性はかなり低いが、今、どちらに攻められても未来は無い! ならば、行くぞ!!」
俺は崖を急いで降り、モルフィが乗っているベア型にまたがると、大声を出して伝える。
「突撃! 人間めがけて突撃を開始する!」
「えぇ⁉ よろしいので?」
「あぁ、少ない可能性に賭けてみるとするか」
俺の言葉が信じられないといった表情なモルフィに対し、ヘラオは高らかに笑うと、魔獣たちを率いて突撃を開始した。
「懐かしい香りがしますぞ!」
「本当に、懐かしいな!」
モルフィも、一瞬ためらったが、ヘラオたちを追うかたちで進軍を開始する。
どんどん近づく砂塵の中に、複数の完全武装したリザードマンたちが入り込んでいき、叫び声がこちらまで届いてきた。
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