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大軍くる

焦りと焦燥

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***

 岩が落ちるのを確認すると、内心ほっとした。

「さぁ! 踏ん張るよ!」

 魔獣たちに指示出しながら、カブトと一緒に敵と戦っていく。
 相手がいくらでも出てくる感覚は、軽く恐怖を感じてしまう。

 魔獣は強い、それにこの子たちは、私の部下でもとびきり強い個体を率いてきたのだが、それでも徐々に圧され、倒れてしまう子もいた。

「もう少し! もう少しだけ耐えるの!」
 
 斧が血糊でべっとりと濡れていくと、私は地面に突き刺し、ゴブリンが持っていた粗末な槍を引き抜き、ブンっと投げ後方から飛び出してきたリザードマンの喉を一撃で貫く。
 そして、オークの亡骸から棍棒を頂くと、ぶんぶんと振り回して相手を威嚇し、近づいくる魔族の頭蓋骨を粉砕していく。

「やっぱり、鈍器って便利ね、もう一つぐらい欲しいかも」

 混戦状態が続き、敵の武器も使いつつ、魔獣たちもよく戦っている。
 しかし、さすがにキツイ、数が違い過ぎる。 敵の質もどんどんと上がってきており、一体、また一体と周りの魔獣たちが倒れていく。

「キシャャッ! この半端モノ! お終いだ」

 リザードマンが私目掛けて剣を振り下ろすが、棍棒で弾くと、バランスを崩したことろをカブトが止めをさしていく。
 隊列に綻びがでかけたその瞬間、両側面の崖から魔獣たちが敵の本隊の真ん中に斬りこんでいく。

「間に合った!」

 ぎゅうぎゅうに真ん中に詰まった状態のところに身軽な魔獣を両方合わせて二十体が、突撃していった。
 敵は騒然とし、こみっとした軍の中心部は混乱が一気に増していく。

「さぁ! 正念場ね、私たちも突撃するわよ‼ 敵を押し込める‼」

 カブトの咆哮が、周りの魔獣たちをけしかけた。
 一気に走り出すと、後続から兵が送られてこない先頭集団は後ろを向き、本隊に向かって逃走を開始した。


***

 何が起きている……先ほどまで我が軍は、もう一歩で敵を突破できそうではなかったのか?
 相手はたった数十体の魔獣と半端モノだけなのに、八百の魔族が混乱の渦の中にいる。

「こら! 落ち着け、敵の数は少ない! 隊列を乱すな! 武器をむやみに振るうな、味方に当たる‼」

 しかし、練度の低い兵たちは一度乱れてしまうと収拾がつかない、各部隊長が激を飛ばしているが、まるで効果がない。

「ぐぬぬぬぬ! このような雑兵では無理か、精鋭部隊を集めろ、俺たちだけで敵を突破する!」

「む、無理です‼ これほど密集し身動きがとれません! 兵を集めると更に混乱を招く恐れがあります」

「ふざけるな! 俺は魔王軍直轄だぞ! 貴様らとは違う! なのに、なのに! なぜここまで苦戦するのだ! 我々は戦争に勝った英雄であるぞ!」

 自分でも意味のないことを叫んでいると理解していた。
 それほど、事態は切迫しており、先ほどから先頭集団も圧されているのが手に取るようにわかり、これ以上は屍を増やすだけだが、強行突破しかないと思い、周りの兵を一かっ所にまとめ一気に駆けようとしたとき、敵が暴れている場所とは別から悲鳴があがりだした。

「今度はなんだ⁉ また伏兵――⁇」

 ドンドンっと、あちらこちらに頭蓋ほどの岩が降ってくる。
 その落ちてくる方向をみると、岩の上に数体のモンキー型の魔獣が立っており、高い場所から岩を投げていた。
 
「クソが! 弓兵、あのモンキーどもを射殺せ!」

「無理です! 弓を引く場所もございませんし、これほどの混乱では当たりません!」

 岩で分断された後方の部隊と本体に断続的に岩が降り注いでくる。
 しかも投げるのは数体だが、岩を運ぶ個体もおり、止むときはない。

「ぐぬぬぬ! ひ、卑怯なり! 卑怯だぞぉぉぉ!」

 俺は振り返り、指揮している半端モノをにらみつける。
 これは、本気で味方を殺してでも突破しなければ、かなりの兵力を消費してしまうことが目に見えていた。
 勝てる。 勝つことはできるが、戦闘を継続していくためには、これ以上の犠牲はだせない。

「に、人間になめられしまう! 我らが魔族が負けるなどあり得ない! 大戦が教えてくれた。魔族は強い! あの人間の地を踏みにじった我らは強いのだぁ‼」

 自ら武器をとり突撃しようとしたとき、今まで兵の叫び声で溢れていた空間が、徐々に静けさを取り戻していく。

「ど、どうしたのだ?」

 慌てて状況を確認しようとすると、半端モノたちが反転し引き返していた。
 数体の魔獣の殿を残し、完全に撤退を始めていた。

「何があった?」

 岩を振らせていた個体も忽然と消えている。
 崖を下ってきた強襲部隊もいつの間に、元来た崖に向かって逃げていく。

「……いったい、どうしたというのだ? 敵は圧していたのではないのか?」

 周りを確認しながら、ゆっくりと進軍を再開した。
 あまたの味方の屍の中に、数体の魔獣の亡骸があり、敵が撤退するほどの被害を与えているのか不思議でならない。

「報告! 後続部隊の合流は不可能です。岩に阻まれ、迂回路もありません」
「報告! 我が軍の被害、種族ごとの詳細はこちらに」

 報告書を受け取ると、一気にそれを引き裂いてしまう。

「四十七体だと⁉ 杜に到着するまえにこれほどの兵を失ってしまうのか⁉ おのれ、半端モノーー! 敵はおそらく、ここで兵力を温存し、
本拠地で決戦にでるつもりだろう、敵を追うぞ! 後続部隊は置いていく、動けるヤツから動き出せ、敵の追撃を開始する‼」

 岩で分断された数が百体程度、戦闘不能が五十体以上、決戦を目前にかなりの兵を消費してしまった。
 これはマズイ、人間と途中で合流するつもりであったが、これではバカにされしまう。
 このままの勢いで突っ込んでいくしかない!

***

「うまくいったかな?」

 カブトを撫でると、嬉しそうに喉をならした。
 殿の子には悪いけれど、これも勝利のため私は次の作戦のために部隊を集結させつつ、場所へと向かっていく。

「でも、あの双頭の蛇、強いね。たぶん、個人技ならかなり強い、指揮するのには向いていないかも」

 あの美味しいそうな御馳走は殺さないでほしい、一番強い個体は私の得物、あの鱗と筋肉でできた体に、不規則に動く二本の蛇の頭、闘ってみると絶対楽しい。
 ぶるっと、大きく顔を横にふって思考を切り替える。

「今は、ケトル様の言う通りにしないと、さぁ、いくよ! 合流地点までみんな頑張って!」

 
 
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