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戦いの兆し

決着

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 自分の得体の知れない気持ちに神経を集中するよりも、目の前の戦に俺は思考を切り替えた。

「いかんな、どうも別の事を考えてしまう癖があるようだ」

 チラッと杜の方角を見ると、今まで騒いでいた木々が静まり返っている。
 どうやら、アチラは無事に片付いたと見て間違いない。

「そろそろ最終段階かな?」

 背丈の高い草の間からひょっと覗いてみると、戦況は刻一刻と変化している。
 魔獣たちも流石には無傷とはいかない。

「それにしてもモルフィは強いなぁ」

 俺の後ろに立っていたベア型の魔獣も合流し、その場を支配していた。
 魔獣は弱いわけではない。 元々身体能力が優れている獣が魔化する現象であり、単純な戦闘力では魔族とはなんら引けをとらない。

 しかし、個体としての身体能力は高いものの、指揮系統の伝達が伝わりにくく、群での行動を嫌う性質があったが、ヘラオはそれらをうまくまとめてくれていた。
 そして、モルフィもそれをしっかりと受け継いでくれている。

「うんうん、俺の出番ねぇなこれは」

 自分の戦闘力では、今飛び出しても真っ先に殺されてしまうのは分かりきっている。
 
「でも……。 この人間たち強いな、魔獣が押し返され始めている」

 全体の戦況は大きく変わっていないが、若干魔獣たちが押し返され始めており、それに伴いモルフィへの包囲も進んでいた。
 マズイな、もう少し乱れてくれると思ったが、想定以上に指揮官は優秀だということか……。

「ラビットたちは、複数人で囲め! 魔獣たちの懐に入るな! 弓で応戦しつつ、スキを狙え! あの鬼人を囲め、油断するな数ではこちらが圧倒的に有利なのだから」


 アイツか、この混戦でも的確に指示を出している。
 これが人間の強みであり、厄介なところなのだ。

「どれ、俺も出て撹乱ぐらいは――っと、必要ないか」

 一歩踏み出そうとしたとき、人間たちの背後がざわめき始めた。
 
「お待たせいたしましたモルフィ!」

 ヘラオ率いる魔獣たちが、烈火のごとく背後を強襲する。

「な⁉ 新手か?」

 今まで的確な指示を出していた司令官に焦りが現れる。
 そうだ、このタイミングだ‼

 ドンッ! 魔獣の先陣が人間の渦の中に斬りこんでいく。
 大きな隙間ができると、ヘラオが禍々しい形相に変わると、無残な殺戮ショーの開幕であった。

「ふぅ、高みの見物……と、まではいかないにしても、まぁまぁだったかな」

 自分の戦果と相手の損害を考えるならば、これ以上ないほどの勝利であるのは間違いない。
 しかし、自らの身を危険に晒し、少しモルフィの到着が遅れていれば、俺は死んでいた可能性すらある。

「失格だな、自分が死んでは元も子もないというのに」
 
 大きなため息を一つしている間に、モルフィの包囲は解け魔獣たちの勢いが復活していく。
 それに伴い、ヘラオの武力と周囲把握能力が合わさり、人間側の退路を塞ぎつつ、殲滅戦へと移行していた。

「さて、問題はこの後だ」

 ジャリっと、音をたてながらその場に座り込み、近くに落ちていた木の枝を拾うと湿った地面に大雑把な地図を描いてみた。

「魔族と人間の連合軍か……面倒だな、一気に双方を相手にするのは無理がある」

 この戦いの結果はすぐに上の連中に報告され、再度軍が編成されるだろうが、失敗は繰り返せない。
 再編成までかなりの時間を有してくるに決まっている。
 
「そう言っても、こっちの戦力と言えば、魔獣が……」

 自陣の兵力と地形を考慮しながら、どれぐらいの戦に耐えられる・・・・・かを計算していくも、あまり良いとは到底思えない。

「耐えられるが、勝てないのでは意味がない」

 この戦だって、単発で見ると『勝利』であることは間違いない、しかし、長期できに見ると敵は大きく数も圧倒的だ。
 結果としては、全体的な損失をみると我々側の損失が大きい。

「もう一度、もう一度だけ勝てれば」

 頭の中に浮かんだ作戦はとんでもない内容である。
 だが、それしか可能性は無いと思えた。

「よっし! そうと決まれば、戦力を温存だな」

 立ち上がり、戦況を確認するとヘラオの鋭利な爪が、敵の指揮官らしい人物の首を掲げていた。

「相変わらず、頼もしいな、よっし! 撤退開始! 逃げながら敵を倒しつつ、杜へ帰るぞ‼」

 後ろに控えていた一匹の魔獣に伝令を任せ、俺は背を戦場に向けて杜へ向かって歩き出した。
 背中には燃え盛る敵陣の熱と、湿った空気が運ぶ鉄分を含んだ香りが俺の歩みを速めていく。
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