上 下
1 / 1

しおりを挟む
    放課後の図書室は、テスト前でもなければだいたい無人だが、ぼくは帰りに時々寄る。運が良ければ好きな子に会える。これは、本当に運任せで決してストーカーまがいのことをしているわけじゃない。

    会えるといっても一方的に姿を見ているだけで、それ以上のことは、何にもないんだけど。

    今日は、運が悪かったのかもしれない・・・。

「ねぇ、図書室に行くんでしょう?」

    別館になっている図書室へ続く中庭を突っ切る通路で、1組のカップルに足止めされた。
    ギャル系美人の高山マミと、その彼氏の今井ユウトはK-POPアイドルのようなピンク色の髪をしていて、学年では知らない者はいないぐらいだ。

    この派手なカップルは目立つので僕みたいな、大人しく平穏にすごしている一般的な生徒でも知っている。

「そうだけど・・・」

「今、図書室、佐伯さんしかいないよ。」

   今井くんが僕の顔を覗き込むようして言ってくる。
この人、髪色だけじゃない・・・顔もアイドル並みだ。男なのに、良い匂いがする・・・。

「チャンスよ。」

「なっ、何が?」

「告白しなさい。」

    高山さんは、美人だけど大人びた少しキツめの顔立ちをしている。ばっちり化粧された目元で、睨むように言われて僕は少し寒気がした。

「えっ!?」

    確かに、僕は佐伯リコさんに憧れている。けれど、この二人が知ってるわけがない。
    下心があって図書室に通っている事がばれたのか?
    けれど、なんの理由があって告白を強制されなければならないのだろう。

「いや、何で?」

「告白すれば佐伯さんと両思いになれるんだよ?何か不満なの?」

    今井君が、当たり前のことをいうような感じで、絶対そうじゃないこと言う。
   いや、告白したって両思いにはなれないでしょ。振られるに決まってるし。
   
「いやいやいや、例え僕が告白したって両思いにはなれないよね!?」

「なれるわ。だから告白しなさい、今から。」

「ちゃんと入口で邪魔が入らないよう見張ってるから、安心していいよ。」

    そもそも、この二人って佐伯さんとどんな関係なの?友達?
    佐伯さんだって可愛いから学年で知らない人はいないだろうけど、この二人とはタイプが違う。佐伯さんは、少しお嬢様ぽい雰囲気の正統派美少女といった感じで、アイドルグループに一人はいそうなタイプ。
    僕は、まったく二人の話が理解出来ないのに、気迫というか空気に飲まれて、ジリジリと図書室に近づいて行ってしまっている。

「分かってると思うけど・・・間違っても、告白させられたなんて言うんじゃないわよ。」

   背の高い高山さんは、僕とさほど目線が変わらない。美人だから気が強いのか、気の強さが彼女をより美人に見せるのか・・・僕をチラリと見た彼女の目力は、決してアイメイクのせいだけではないはずだ。

   「ほら、早く行っておいで。」

    とうとう図書室の入口まで来てしまった僕は、今井くんに押し込むように背中を押され中に入らざるえなかった。
    今井君は、高山さんに比べ話し方や言葉は柔らかいのに強引だ。そういう所は、圧倒的スクールカースト上位者だ。

   僕は、これ、もしかしてイジメじゃないか?と学校生活に絶望しかかった。


    あの日、高山さんと今井君の二人に図書室での告白を強要され、僕はヤケクソで佐伯さんに告白した。
    すると、信じられないことにOKが貰えたのだ。

「私の読まないジャンルの棚にいつもいるのに、一回だけ私の読んだことのある本を返却してるのを見かけて、たったそれだけのことが頭から離れなくて、気がついたら好きになってた・・・だから、すごく嬉しい・・・」

    僕は、その一冊の本に心当たりがあった。佐伯さんが読んでいたのを知っていて借りた。わざと同じ本を借りるという変態じみた行為に罪悪感を感じ、一回だけで辞めた。  
    両思いになった今も、これは伝えていない。

    ちなみに、あのカップルは告白が終わって佐伯さんと二人で図書室を出たら、どこにもいなかった。
    見張ってるとか言ったけれど、図書室は元々ほとんど人がこないから、その約束が果たされたのかどうかは不明だ。

「佐伯さんって、高山さんと今井君と仲良いの?」

    両思いになって数日後、僕はとうとう佐伯さんに聞いた。

「マミちゃんと今井君?」

「えっ!!やっぱり友達なの?」

「うん!マミちゃんは、入学した次の日に違うクラスなのに話しかけてくれて、それから仲良くなったんだよね。今井君は、マミちゃんの彼氏だから・・・二人とも女の子アイドルとか少女漫画とか好きなの、ちょっと意外で可愛いって思っちゃった!!」

「あの二人、アイドルとか少女漫画好きなの!?」

    意外過ぎるんだけど!!
いや、だから佐伯さんに構っているのか?
それなら、すごく分かる。図書室に通う美少女なんて少女漫画の王道ヒロインだし。佐伯さんのルックスも、きっと好みなんだろう。

「よくオススメの漫画も借りてるんだけど、いつも面白くてハズレがないんだよ!!あっ、二人とも好きな漫画が同じでジ○リ映画の原作で、少し古い作品なんだけど・・・えっとぉ」

「もしかして、『耳を〇ませば』?」

「そう!!」

    ヒロインの相手、僕と同じ名前だ・・・。僕は少女漫画ファンでもジ〇リファンでもないが、有名な作品だから見たことはある。

「好きな人ができたってマミちゃん達に相談した時に、貸してくれた漫画なの!!」

「へぇ・・・。」

「名前も同じセイジ君でビックリしちゃった!!」

    少し顔を赤くして恥ずかしそうな佐伯さんが可愛い。すごく可愛い。
    けど、あの派手なカップルに対する情報が渋滞している。

「二人とも、絶対、両思いになれるから大丈夫ってよく励ましてくれて、だから、セイジ君と両思いになれたの二人のおかげかも・・・」

「そうなんだ・・・良い友達だね。」

    正直、僕の知ってる情報だけで良い友達かどうかの判定は難しいが、佐伯さんは何にも知らないだろうし・・・。
    あの二人が純粋に友人の恋の手助けをしたのか、好きな少女漫画に影響されていたのかは分からない。
    
    まぁ、佐伯さんと両思いになった今、それはもういい。
    あの二人が強引にお膳立てしてくれなければ、僕は告白しようなんて思わなかった。

「今度、四人で遊びに行こうって言ってたよ。」

    それは、もう少し待ってほしい・・・。
なんか、怖い・・・。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

物置小屋

黒蝶
大衆娯楽
言葉にはきっと色んな力があるのだと証明したい。 けれど私は、失声症でもうやりたかった仕事を目指せない...。 そもそももう自分じゃただ読みあげることすら叶わない。 どうせ眠ってしまうなら、誰かに使ってもらおう。 ーーここは、そんな作者が希望をこめた台詞や台本の物置小屋。 1人向けから演劇向けまで、色々な種類のものを書いていきます。 時々、書くかどうか迷っている物語もあげるかもしれません。 使いたいものがあれば声をかけてください。 リクエスト、常時受け付けます。 お断りさせていただく場合もありますが、できるだけやってみますので読みたい話を教えていただけると嬉しいです。

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

聖女戦士ピュアレディー

ピュア
大衆娯楽
近未来の日本! 汚染物質が突然変異でモンスター化し、人類に襲いかかる事件が多発していた。 そんな敵に立ち向かう為に開発されたピュアスーツ(スリングショット水着とほぼ同じ)を身にまとい、聖水(オシッコ)で戦う美女達がいた! その名を聖女戦士 ピュアレディー‼︎

高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!

ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。 しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
恋愛
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

おぴちょん様

ひでとし
大衆娯楽
時は昭和後期から平成の前半、舞台は北関東の架空の町「岩原」と東京都内。 岩原の土建屋のボンボンでお人好しの西田は呪われた運命に弄ばれ、ヤクザの組長の娘と結婚して死別し、苦渋の20代を過ごして人が変わってしまった。 西田は組を受け継ぐと悪辣な事業を行い、淫乱な娼婦と三度目の結婚をし、脱税のために新宗教を興して教祖に納まる。 西田は名家の美少年に魅入られて犯し、ゲイセックスにもはまり込むが、その美少年の不思議な治癒能力を利用して自らの新宗教で莫大な金を稼ぐ。 その金で東京都内に幾つもの風俗店をオープンさせ、妻と手下の暴力団員に経営させ、美女、ゲイ、ニューハーフとのセックスに溺れて、幾多の殺人にも手を染める。 やがて西田は妾の一人に殺害されるが、巨額の集金マシーンと化した教団とセックスまみれの悪縁は、残された者たちに引き継がれ、果てしない悲劇と殺人を巻き起こしていく。

完結・私と王太子の婚約を知った元婚約者が王太子との婚約発表前日にやって来て『俺の気を引きたいのは分かるがやりすぎだ!』と復縁を迫ってきた

まほりろ
恋愛
元婚約者は男爵令嬢のフリーダ・ザックスと浮気をしていた。 その上、 「お前がフリーダをいじめているのは分かっている! お前が俺に惚れているのは分かるが、いくら俺に相手にされないからといって、か弱いフリーダをいじめるなんて最低だ! お前のような非道な女との婚約は破棄する!」 私に冤罪をかけ、私との婚約を破棄すると言ってきた。 両家での話し合いの結果、「婚約破棄」ではなく双方合意のもとでの「婚約解消」という形になった。 それから半年後、私は幼馴染の王太子と再会し恋に落ちた。 私と王太子の婚約を世間に公表する前日、元婚約者が我が家に押しかけて来て、 「俺の気を引きたいのは分かるがこれはやりすぎだ!」 「俺は充分嫉妬したぞ。もういいだろう? 愛人ではなく正妻にしてやるから俺のところに戻ってこい!」 と言って復縁を迫ってきた。 この身の程をわきまえない勘違いナルシストを、どうやって黙らせようかしら? ※ざまぁ有り ※ハッピーエンド ※他サイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 小説家になろうで、日間総合3位になった作品です。 小説家になろう版のタイトルとは、少し違います。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

処理中です...