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㉞電話連絡

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 啓介はパジャマのままソファーで電話を始め、純也はキッチンでコーヒーを用意しながら様子を見ていた。

 安否確認の電話は、国生と手分けしたらしく思ったよりも随分早く終わった。

 「みなさん、大丈夫でした?コーヒーどうぞ!」

 「ありがとう。全員と連絡が取れた。これ以上、何もないといいんだが・・・。」   

 「そうですね。啓介さん達は?やっぱり予定通り仕事するの?」

 「仕事は予定通りだな・・・今は雨も小雨だし、水を逃がせるところは逃して、補強できるところはしておく。そっちは?レストランは開けないんだろ?」

 純也の中に、食洗機で無邪気にはしゃいでいた昨日の啓介の姿がよみがえった。

 本当に可愛かった・・・何度でも繰り返し見たい・・・でも・・・あんな、とんでもない可愛さを発揮するには、相当なエネルギーが必要なんじゃ・・・。

 大変だ・・・昨日のうちに気付けなかった!やばい!どうしよ!!夜は体力も使わせちゃった・・・今からでも好きなものを好きなだけ食べさせたい!!

 朝食は当然、昼食もだ!!職場だろうが関係ない。

 暴れ狂う情緒を顔にはださず、純也は柔らかい笑みを浮かべて啓介を見た。
 それにつられるように、啓介も柔らかく笑う。

 よく分からない理由をつけて推しに課金しまくる過激派レベルの純也の情緒のヤバさに、啓介が1ミリも気付かないことが円満な同棲生活の秘訣かもしれない。

 「お客さんはいないけど、今日も啓介さん達のご飯作りに行くよ♡タルタルにする?」

 いつから客を入れるかは、まったく決まっていないままだ。食材は、まだ残っているので今日も出勤予定だった。

 コース管理の従業員しかいないなら、もう毎回、啓介の好きなメニューでいいんじゃないかと思う。

 「俺は家でも、お前の料理食べてるから昼にまでリクエストするのは、なんか・・・気が引ける・・・。他の奴らもいるし・・・。」

 啓介さん、控えめすぎない!?そこも、啓介さんの可愛いところだけど、ここで迷いなくタルタルをリクエストされても、俺の愛は、まっったく揺るがないのにっっ!!

 「・・・国生さんなんて、めっちゃ言ってきますよ。家で料理長の料理食べてるのに。」

 純也は国生のことはある程度みとめているが、基本的に彼は啓介の部下なので、啓介に合わせろと思っている。

 啓介がタルタルソースを食べたいと言うなら、国生がハヤシライスを希望していても、啓介のためにタルタルソースに合うメインのおかずにしたい。

 上司の恋人より己の恋人優先だ。

 けれど啓介から言ってくることはないので、勝手に適当な頻度でタルタルソースのメニューを入れている。
 啓介から言われたのは、部下が喜ぶから月に何度かカレーにしてほしい、だけだった。
 
 「・・・お前は、そういう方がいいか?」

 「そういう方?」

 「その・・・なにが食べたいとかってちゃんと言う方が・・・。」

 年上・・・ということもあるのだろうが、啓介はあまり甘えるのが得意ではない。しかし、故意的に甘える等という計算高い媚びた真似は啓介に必要ない。

 あくまでも素で!!計算なしに!!純也をときめかせることができるのが啓介なのだ。

 
 「食べたいものがあるなら言ってほしいけど、国生さんみたいになって欲しいとかじゃないです!啓介さんは今のままで最高です!!」

 「・・・そうか・・・。」

 かわいいー!!待って!!かわいい!!不安そうな顔からの、照れ顔!!かわいい!!
 まだ朝ご飯食べてないのに!そんな、可愛くて大丈夫?

 一刻も早く、栄養補給させないと!!
  



 「辰巳さん、まだ心配してんの?何が不安?言って?」

 国生はベッドに寝転んだまま、胸元に倉本を抱き込んだ。

 啓介からの着信で国生が目覚めた時、すでに倉本は起きていた。
 
 その様子に、あまり寝られなかったのかと心配になった。
 
 傍からは、きっと何気ない毎日をすごしているように見えているだろうが、誰もよりもそばにいる国生は知っていた。

 倉本は、ずっと不安の種を抱えている。

 「・・・友緖の妹、見つかると思うか?」

 あの東雲という男が来てからだ。

 国生は、しばらく放っておいて様子を見ようと思っていた。東雲も彼の上司の篠原も、あれ以降、白花岳には来ていない。

 友緖に確かめたら、お互い連絡先は知らないと言っていた。行き先も告げずに姿を消すぐらいなのだから、東雲は友緖にとって大した存在ではないのだろう。

 けれど、倉本が不安に思うなら手を打たなければならない。

 「辰巳さんは、どっちがいい?」  
 
 「妹は・・・そうだな・・・どっちがいいんだろうな。妹が見つかったら・・・ここにいる理由はねぇし・・・でも、本当にここにいるかも分かんねぇしな・・・。」 

 友緖の妹のことなど、国生にとってはどうでもいい。

 友緖本人が、この場所にとどまってさえくれれば。 

 「大丈夫だよ、辰巳さん。一緒にしたじゃん。」

 倉本に友緖からの着信があったのは、その日の夕方だった。
 すぐそばにいた国生は、倉本の空いている片手を握った。
 
 スマホを持つ手が震えていた。友緖が何を話しているのかはわならないが、予想はつく。

 話を聞き終えてもスマホを握ったままの倉本を、後ろから強く抱きしめた。

 「辰巳さん、風見の妹、どうだって?」
 


 倉本には結婚歴がある。ほんの短い間で、あっという間に妻とは死に別れた。
 国生と出会うより、何年も前の話だ。

 倉本は身寄りがなく施設で育った。自立するため、手に職をつけ料理人になり、小さな料亭で働いていた時、世話になっている知人から持ってこられた見合いの相手が亡き妻だった。

 会ったその日に一目惚れをしたわけではない。家庭を持つということに憧れがあった。
 相手の女性を好きになれるかどうか分からないが、色恋に消極的な自分に、今後、結婚の機会があるとは思えない。

 見合いの後、話はとんとん拍子に進み半年後には入籍して一緒に暮らし始めた。
 式はあげたが、新婚旅行は先延ばしになっていた。

 そして結局、新婚旅行に行かないまま倉本の妻は事故で死んだ。

 わずか三ヶ月の結婚生活だった。
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