上 下
20 / 30

19.なんてベタな展開なのか

しおりを挟む
「飲みに行こうぜー!」

 とエルクに肩をがっしり抱かれて、俺は街の酒場にドナドナされた。

「僕も行くからっ!」

 リックが俺の手をぎゅっと掴み、一緒に向かうことになった。俺たちそんなに酒は強くなかったはずだけど、リックも飲みたい気分だったんだろうか。

「よぅ、カイエだっけ? 相変わらずいい顔してんなー」

 この酒場は北の森に行っていた奴がよく使っているらしい。エルクの仲間たちに声をかけられた。

「ははは……」

 俺の顔がカッコイイと言われるのはいつものことだ。見た目のよさだけじゃなくて、できれば性的にも強くなりたかったなと思う。敏感なのはもうどうしようもないけど。

「カイエ、最近どーよ?」
「最近? そうだな……」

 リックが騎士に昇進して、それからほぼ毎晩……。
 夜の性欲処理を思い出して俺は赤くなった。

「お? 恋人でもできたか? 会わせろよ!」
「え……いや、そんなんじゃ、ない……」

 少なくともリックは恋人なんかじゃない。毎晩いっぱい身体に触れられて、あらぬところまで舐めまくられてるけど。

「はーい! 毎日僕がカイエを口説いてまーす!」

 リックが手を上げて宣言した。やめてほしい。

「あー……確かにカイエの好みっぽいよな~」

 エルクがいいかげんなことを言う。俺は自分の好みを貴様に語ったことはないはずだぞ。

「でもまだ恋人じゃないんだ?」
「それはないしょです!」
「へー」

 リックも一応下手なことは言わないように考えているらしい。恋人じゃないと言いたくないだけかもしれないが。

「じゃあさ、俺がカイエを口説いてもいいってことだよな?」

 エルクが笑って言う。俺は顔をしかめた。

「お前なんかやだね。ぜってー勃たねー」
「何言ってんだ。俺がお前を抱くんだよ」
「はあっ!?」

 さらりと言われて俺は耳を疑った。

「俺はヤられるのはごめんだ!」
「そんなこと言わずに一度ヤッてみよーぜ? 案外ハマるかもしんねーし」
「お・こ・と・わ・り・だ!」

 残った酒を飲み干して俺は席を立った。

「そういう話をするなら帰る!」
「そう言うなよ~」

 エルクがそう言いながら俺の手を取り、そして撫でた。

「!?」

 くすぐったい、だけじゃない何かを感じて、俺はバッと自分の手を取り戻す。そして、何故か足が……。

「え? え? な、なに? なんだ?」
「ゆっくりしていけよ」

 エルクがニヤリとした。どういうことなのかと床に座り込んだ状態で周りを見回す。そしてやっと違和感に気づいた。
 この酒場の中には今、騎士団の、それも北の森に出向していた奴らと俺とリックしかいない。
 嵌められた、と思った。

「リックッ!」

 もしかしてリックも何か飲まされたのだろうか。椅子には腰掛けたままだが、顔が俯いていて見えない。

「リック、大丈夫かっ!? しっかりしろっ!」
「おいおい、自分じゃなくて同僚の心配かよ。安心しろ、そこのかわいいのも俺たちがたっぷりかわいがってやるからよ」

 エルクじゃない同僚が下卑た笑みを浮かべた。

「カイエには手を出すなよ」
「ああ、こっちのかわいいのに相手してもらうさ」

 エルクが俺を軽々と抱き上げた。同僚がリックに手を伸ばす。

「リックッ! だめだっ! 逃げろ、リック!」

 俺は今ものすごく後悔していた。同僚だからって軽々しく酒なんか付き合おうとしなければよかったと。俺だけなら別に何をされてもしょうがないが、リックを巻き込むのだけはだめだと思った。もちろんリック以外の奴だって巻き込んでいいはずはないけれど。

「おいおい……自分は何されてもいいってのか?」
「リックッ! リック、頼むからっ!」

 もしかしたらリックは睡眠薬でも盛られたのだろうか。それとも俺みたいに身体の力が抜ける薬でも……。

「……あー、もう。カイエってば本当にかわいい……」
「え?」

 低い、いら立ったような声がした。リックは俯かせていた顔を上げると、腕を掴もうとしていた同僚の手をばんっ! と跳ねのけた。

「いってええええっっ!!」

 同僚は跳ねのけられた手を持って叫ぶ。そんなに強かったのだろうか。俺はエルクの腕の中で目を丸くした。

「ねー、カイエ。僕カイエのこと本気で好きなんだよ」

 リックが立ち上がり、俺の目の前にきた。

「う、うん?」
「このままだとカイエ、ソイツにヤられちゃうよ?」
「そんなのやだっ!」

 俺は慌ててエルクの胸を押そうとしたけど全然身体に力が入らない。この薬、首から下の筋肉が弛緩するようなものらしい。なんなんだよその、いかにもいかがわしいことに使いますって薬はあ!

「カイエ、僕カイエを抱きたい」
「そ、そんなの、むり……」

 だってリックのでかいし、しかも長いし。

「てめえ、魔法使いか……」

 エルクが忌々しそうに呟く。

「違うよ。僕は騎士だよ。まぁ、魔法も使えるけどね」

 リックはそう言って、トン、とエルクの肩を押した、と同時ぐらいに俺を自分の腕の中に納めてしまった。

「え?」

 ズダーン! と激しい音がした方を反射的に見る。なんとエルクが椅子やらテーブルやらと一緒に酒場の隅でひっくり返っていた。

「え? え?」
「いやー、こんなとんでもない酒場だったなんて知らなかったなー。まさか薬入りの酒を飲まされるなんて誰も思わないよねー? ねえ、マスター?」

 にこやかにリックが言う。

「……え、あ……はい……」

 カウンターで目を見開いていた髭面のマスターが力なく返事をした。あ、この店終ったなって思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!

ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて 素の性格がリスナー全員にバレてしまう しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて… ■ □ ■ 歌い手配信者(中身は腹黒) × 晒し系配信者(中身は不憫系男子) 保険でR15付けてます

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...