76 / 117
本編
76.実践的意思
しおりを挟む
朝になっても、紅児はなかなか床から出ることができなかった。
それぐらい昨夜は衝撃的だったのである。
被子(掛け布団)の上から宥めるようにポンポンと叩かれるが、どうしても顔を出すことができない。
「……今日は休むか?」
苦笑するような嘆息交じりに聞かれ、紅児はようやく被子から少し顔を出す。
「……行きます」
いくら己にとっては人生変わるぐらいの衝撃を受けたとしても仕事は待ってくれない。ただでさえ客人という立場で甘やかされているのだ。与えられた仕事ぐらいきちんとしなくては、と紅児は被子(掛け布団)をはいだ。
ククッと喉の奥から音を発して笑う紅夏を睨む。
彼のせいなのに何故こんなに嬉しそうなのだろう。
「……起きずともよい。既に許可はとっておいた」
「え……?」
紅児はまじまじと紅夏を見た。床に片ひじをつき、その上に紅児の方を向いた顔を乗せ横になっているくつろいだ姿の彼は、いつ見てもほれぼれするほど美しい。
「でも……」
こうなることを見越して事前に申請しておいてくれたのだろうか。紅児はとても恥ずかしかった。
「……どちらにせよ今日花嫁様はまず部屋には戻られぬ」
「また呼び出されているのですか?」
「そこまでは知らぬが……人の社会というのはいろいろあるのだろう」
人の社会というより身分のある方々に限ってのような気がするが紅児は何も言わなかった。そういうことならば甘えさせてもらうことにしよう。今月の休みに何をするかも決めていなかったからそれが今日になってもかまわない。
「……わかりました。あの……私の髪の色って……」
昨夜のことを思い出し頬を真っ赤に染めながら尋ねる。すると紅夏は笑った。
「一度だけでは定着せぬ。それに……本来は熱を与えながら丸1日そなたを抱き続ける必要がある」
色を含む視線に全身を舐められているようだ。紅児は身震いする。
「まる、一日……」
十二時辰(24時間)も抱かれ続けるなんて、想像もできない。しかも昨夜のような狂おしいほどの熱を受けながら。
昨夜、あれから何が起こったのか。
あの時は全身を巡る熱に翻弄され何がなんだかわからなかったが、起きた今ありありと思い出された。
丹田から紅夏によって吹き込まれた熱は瞬く間に全身に広がった。カァッ! と上がった熱に目は潤み、身体がうずきはじめる。
「やっ、やああっっ……!!」
脳髄まで焼かれるような熱に紅児は何度も首を振った。
「エリーザ……」
宥めるように顔に何度も口付けられ、とうとう紅児は紅夏に縋りついた。
「紅夏さま……紅夏さまぁっ……!」
「大丈夫だ、すぐに慣れる」
そう言いながら紅児の体に触れる紅夏の顔はひどく嬉しそうだった。ただ抱き込まれているだけでは全く去らない熱に、紅児はどうにかしてほしいと懇願する。
熱い、つらい、どうしたらいいかわからない。
紅夏は優しく彼女の全身を愛撫した。
口づけを交わし、胸に触れ、直接恥ずかしいところにも顔を埋められた。
何度も絶頂に追いやられ紅児は泣きじゃくる。こんな追い詰められるような無理矢理な快感は初めてで。
でも。
「エリーザ……エリーザ……なんて愛しいのだ……」
そう囁かれて紅児は全てを許してしまった。
そしてどれほどの時間が経ったろうか熱がやっと去り、彼女は力尽きたように眠りについたのだった。
全てが怒涛のように思い出され、紅児は再び被子をかぶった。
あんなすごいことを、十二時辰も味わったら気がふれてしまうかもしれない。
けれど。
(花嫁様は……あの熱を受け続けたってことよね……)
花嫁と紅児ではくらぶべくもない。けれど身近に証明してくれる人がいるというだけで力強いものだ。
はっきりいってそこまでして紅夏と同じような赤い髪になりたいものなのか。
冷静に考えればバカバカしいことこの上ないのだが、紅児はなにか形になるものが欲しかった。それは紅夏と一緒にいることが必然なのだと誰かに納得させたかったのかもしれない。
被子をかぶりながらも紅児の手は紅夏の腕に触れていた。口にするのも恥ずかしくて心の中で語りかける。
〈……花嫁様はどうして赤い髪にこだわったのですか?〉
〈もともと赤が好きだとは言っていたな。それ以上はわからぬ〉
紅夏はよく付き合ってくれていると思う。それは”つがい”だからなのだろうが、いいかげん紅児の相手は面倒だと思わないのだろうか。
〈そうですか……〉
十二時辰も抱かれ続けて髪を紅夏と同じ赤にしたいのかと聞かれると難しい。
〈紅夏様……あの、髪の色を定着させることなのですが……ええと……〉
昨夜実践しただけでは髪の色は変わらなかった。
〈その……丸一日続けて抱かれなければ……〉
〈そんなことはない。最短で丸一日というだけで、合計で一日になればいいのだ。だが、継続しなければならない〉
紅児が何を聞きたいのかわかったようだった。
〈そして……最終的に我と交わる必要はある〉
〈……そうですか〉
それでは今熱を受け続けてもどうしようもないではないか。
紅児は落胆した。
最後まではまだするつもりはない。
それは早くても帰国できる目途が立ってからの話だ。だがそれには国からの返答を待たなければいけない。
(船は……すでに国についているかしら)
花嫁が問い合わせの為の書簡を持たせた船がこの国を出てから約3か月が経っていた。返答がくるまでの期限まであと半分である。
それを考えると今度は怒りが湧いてきた。
いくら理解できないにせよ別に実践することはなかったのではないか。
〈紅夏様……もしかして、私熱を受け損じゃないのでしょうか……?〉
怒りを抑えながら尋ねると、苦笑する気配が伝わってきた。
〈そんなことはない。我らは火をつかさどる朱雀の眷属、熱が必要なのは体毛の色を定着する為だけではない。そなたを我の正式な伴侶と成すにも、子を作るにもこの熱を受けられるかどうかが重要になる〉
目からウロコだった。
つまり”熱を受ける”ということは、紅児が紅夏の伴侶になる覚悟も試されている証拠である。
(いろいろあるのね……)
紅児は紅夏の腕をぎゅっと握った。
〈……ごめんなさい、私〉
〈かまわぬ。それよりもそろそろ顔を見せてくれぬか。腹が減っただろう〉
優しいテナーに紅児はまた泣きそうになった。
(面倒くさい子供でごめんなさい)
被子からおそるおそる顔を出すと、優しい口付けが降ってきた。
〈紅夏さま……好き……〉
心話で言った言葉のせいで、その後紅児が無事食堂に行けたかどうかはまた別の話である。
それぐらい昨夜は衝撃的だったのである。
被子(掛け布団)の上から宥めるようにポンポンと叩かれるが、どうしても顔を出すことができない。
「……今日は休むか?」
苦笑するような嘆息交じりに聞かれ、紅児はようやく被子から少し顔を出す。
「……行きます」
いくら己にとっては人生変わるぐらいの衝撃を受けたとしても仕事は待ってくれない。ただでさえ客人という立場で甘やかされているのだ。与えられた仕事ぐらいきちんとしなくては、と紅児は被子(掛け布団)をはいだ。
ククッと喉の奥から音を発して笑う紅夏を睨む。
彼のせいなのに何故こんなに嬉しそうなのだろう。
「……起きずともよい。既に許可はとっておいた」
「え……?」
紅児はまじまじと紅夏を見た。床に片ひじをつき、その上に紅児の方を向いた顔を乗せ横になっているくつろいだ姿の彼は、いつ見てもほれぼれするほど美しい。
「でも……」
こうなることを見越して事前に申請しておいてくれたのだろうか。紅児はとても恥ずかしかった。
「……どちらにせよ今日花嫁様はまず部屋には戻られぬ」
「また呼び出されているのですか?」
「そこまでは知らぬが……人の社会というのはいろいろあるのだろう」
人の社会というより身分のある方々に限ってのような気がするが紅児は何も言わなかった。そういうことならば甘えさせてもらうことにしよう。今月の休みに何をするかも決めていなかったからそれが今日になってもかまわない。
「……わかりました。あの……私の髪の色って……」
昨夜のことを思い出し頬を真っ赤に染めながら尋ねる。すると紅夏は笑った。
「一度だけでは定着せぬ。それに……本来は熱を与えながら丸1日そなたを抱き続ける必要がある」
色を含む視線に全身を舐められているようだ。紅児は身震いする。
「まる、一日……」
十二時辰(24時間)も抱かれ続けるなんて、想像もできない。しかも昨夜のような狂おしいほどの熱を受けながら。
昨夜、あれから何が起こったのか。
あの時は全身を巡る熱に翻弄され何がなんだかわからなかったが、起きた今ありありと思い出された。
丹田から紅夏によって吹き込まれた熱は瞬く間に全身に広がった。カァッ! と上がった熱に目は潤み、身体がうずきはじめる。
「やっ、やああっっ……!!」
脳髄まで焼かれるような熱に紅児は何度も首を振った。
「エリーザ……」
宥めるように顔に何度も口付けられ、とうとう紅児は紅夏に縋りついた。
「紅夏さま……紅夏さまぁっ……!」
「大丈夫だ、すぐに慣れる」
そう言いながら紅児の体に触れる紅夏の顔はひどく嬉しそうだった。ただ抱き込まれているだけでは全く去らない熱に、紅児はどうにかしてほしいと懇願する。
熱い、つらい、どうしたらいいかわからない。
紅夏は優しく彼女の全身を愛撫した。
口づけを交わし、胸に触れ、直接恥ずかしいところにも顔を埋められた。
何度も絶頂に追いやられ紅児は泣きじゃくる。こんな追い詰められるような無理矢理な快感は初めてで。
でも。
「エリーザ……エリーザ……なんて愛しいのだ……」
そう囁かれて紅児は全てを許してしまった。
そしてどれほどの時間が経ったろうか熱がやっと去り、彼女は力尽きたように眠りについたのだった。
全てが怒涛のように思い出され、紅児は再び被子をかぶった。
あんなすごいことを、十二時辰も味わったら気がふれてしまうかもしれない。
けれど。
(花嫁様は……あの熱を受け続けたってことよね……)
花嫁と紅児ではくらぶべくもない。けれど身近に証明してくれる人がいるというだけで力強いものだ。
はっきりいってそこまでして紅夏と同じような赤い髪になりたいものなのか。
冷静に考えればバカバカしいことこの上ないのだが、紅児はなにか形になるものが欲しかった。それは紅夏と一緒にいることが必然なのだと誰かに納得させたかったのかもしれない。
被子をかぶりながらも紅児の手は紅夏の腕に触れていた。口にするのも恥ずかしくて心の中で語りかける。
〈……花嫁様はどうして赤い髪にこだわったのですか?〉
〈もともと赤が好きだとは言っていたな。それ以上はわからぬ〉
紅夏はよく付き合ってくれていると思う。それは”つがい”だからなのだろうが、いいかげん紅児の相手は面倒だと思わないのだろうか。
〈そうですか……〉
十二時辰も抱かれ続けて髪を紅夏と同じ赤にしたいのかと聞かれると難しい。
〈紅夏様……あの、髪の色を定着させることなのですが……ええと……〉
昨夜実践しただけでは髪の色は変わらなかった。
〈その……丸一日続けて抱かれなければ……〉
〈そんなことはない。最短で丸一日というだけで、合計で一日になればいいのだ。だが、継続しなければならない〉
紅児が何を聞きたいのかわかったようだった。
〈そして……最終的に我と交わる必要はある〉
〈……そうですか〉
それでは今熱を受け続けてもどうしようもないではないか。
紅児は落胆した。
最後まではまだするつもりはない。
それは早くても帰国できる目途が立ってからの話だ。だがそれには国からの返答を待たなければいけない。
(船は……すでに国についているかしら)
花嫁が問い合わせの為の書簡を持たせた船がこの国を出てから約3か月が経っていた。返答がくるまでの期限まであと半分である。
それを考えると今度は怒りが湧いてきた。
いくら理解できないにせよ別に実践することはなかったのではないか。
〈紅夏様……もしかして、私熱を受け損じゃないのでしょうか……?〉
怒りを抑えながら尋ねると、苦笑する気配が伝わってきた。
〈そんなことはない。我らは火をつかさどる朱雀の眷属、熱が必要なのは体毛の色を定着する為だけではない。そなたを我の正式な伴侶と成すにも、子を作るにもこの熱を受けられるかどうかが重要になる〉
目からウロコだった。
つまり”熱を受ける”ということは、紅児が紅夏の伴侶になる覚悟も試されている証拠である。
(いろいろあるのね……)
紅児は紅夏の腕をぎゅっと握った。
〈……ごめんなさい、私〉
〈かまわぬ。それよりもそろそろ顔を見せてくれぬか。腹が減っただろう〉
優しいテナーに紅児はまた泣きそうになった。
(面倒くさい子供でごめんなさい)
被子からおそるおそる顔を出すと、優しい口付けが降ってきた。
〈紅夏さま……好き……〉
心話で言った言葉のせいで、その後紅児が無事食堂に行けたかどうかはまた別の話である。
10
お気に入りに追加
688
あなたにおすすめの小説
転生幼女の愛され公爵令嬢
meimei
恋愛
地球日本国2005年生まれの女子高生だったはずの咲良(サクラ)は目が覚めたら3歳幼女だった。どうやら昨日転んで頭をぶつけて一気に
前世を思い出したらしい…。
愛されチートと加護、神獣
逆ハーレムと願望をすべて詰め込んだ作品に…
(*ノω・*)テヘ
なにぶん初めての素人作品なのでゆるーく読んで頂けたらありがたいです!
幼女からスタートなので逆ハーレムは先がながいです…
一応R15指定にしました(;・∀・)
注意: これは作者の妄想により書かれた
すべてフィクションのお話です!
物や人、動物、植物、全てが妄想による産物なので宜しくお願いしますm(_ _)m
また誤字脱字もゆるく流して頂けるとありがたいですm(_ _)m
エール&いいね♡ありがとうございます!!
とても嬉しく励みになります!!
投票ありがとうございました!!(*^^*)
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?
yori
恋愛
*ノーチェブックスさまより書籍化&コミカライズ連載7/5~startしました*
コミカライズは最新話無料ですのでぜひ!
読み終わったらいいね♥もよろしくお願いします!
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
ふりふりのエプロンをつけたメイドになるのが夢だった男爵令嬢エミリア。
王城のメイド試験に受かったはいいけど、処女なのに、性のお世話をする、ご奉仕メイドになってしまった!?
担当する騎士団長は、ある事情があって、専任のご奉仕メイドがついていないらしい……。
だけど普通のメイドよりも、お給金が倍だったので、貧乏な実家のために、いっぱい稼ぎます!!
【R-18】イケメンな鬼にエッチなことがされたい
抹茶入りココア
恋愛
目を開けるとそこには美しい鬼がいた。
異世界に渡り、鬼に出会い、悩みながらも鬼に会いに行く。
そして、そこからエロエロな一妻多夫?生活が始まった。
ストーリーよりもエロ重視になります。タグなどを見て苦手かもと思われたら読まないことを推奨します。
*があるタイトルはエロ。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
私に構ってくる騎士団長が媚薬を盛られたので手助けした結果。
水無月瑠璃
恋愛
マイペースで仕事以外ポンコツな薬師のリゼット、女嫌いで「氷の騎士」の異名を持つテオドール。歯に衣着せぬリゼットと媚びる女が嫌いなテオドールは1年前から時折言葉を交わす仲に。2人の関係は友人とも、ましては恋人とも言えない。
2人の関係はテオドールが媚薬を盛られた夜に変わる。
予告なくR18描写が入りますので、ご注意ください。
ムーンライトノベルズでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる