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本編
44.為難(困る)
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逃げるように花嫁の部屋に入り、紅児はそっと嘆息した。
昼食の時間までにまた聞くことを頭の中で整理しておかなければならないだろう。
紅夏の言ったことが本当なら……。
とても重い荷を背負わされた気分だった。
長い年月を過ごしてきた紅夏のこと、以前結婚したことはないのだろうか。
問えば「したことはない」と返された。
結婚したいほどの相手と巡り合えなかったのか。
また疑問が顔に出ていたらしい。
「……眷族の中でも第一世代は特に”つがい”を探す。そして四神と気持ちを擦り合わせるのだ」
(擦り合わせる?)
”つがい”というのが眷族にとって大切な者だということはわかった。けれどやはり紅夏の説明は難しく感じる。
ここでわかったような顔をするのは簡単だが、それではいけない気がするのだ。
「……よく、わかりません」
紅夏は面倒臭がらずに答えてくれた。
「我ら第一世代の寿命は長い。子として産まれてくる第二世代よりも長く生きるのが普通だ。だがそれでは子を成す意味がない。”つがい”を探す時間はたっぷりある。自然と”つがい”以外には目が向かぬようになるのだ」
確かに自分の子が自分より先に亡くなるというのは嫌だと紅児は思う。
「そして”つがい”というのは四神にとっての花嫁のような存在だ。我らは”つがい”を得ることでかけがえのない存在に対する想いを初めて知る」
それが「四神と気持ちを擦り合わせること」なのだろうか。
四神のようにかけがえのない存在を得ることで、四神の気持ちがわかるようになる。確かにそれは仕える者として知っておいた方がいい感情だとは思う。
ただそれは自分が巻き込まれなければの話だ。
紅児はそれまでぐるぐる考えていた疑問を口にした。
「……どうして私なんですか?」
紅夏の”つがい”がどうして紅児なのか。
「わからぬ」
さらりとした答えに紅児は苛立った。
「じゃあ私が貴方の”つがい”ではないかもしれないでしょう」
「そなたは我の”つがい”だ」
一体なんの根拠があってそんなことを言うのか。
「……その証拠は? 納得できません!」
どうして自分なのか。
いろいろあって紅児はもう限界だった。
「証拠が欲しいのか」
対する紅夏はいつになく冷ややかで。
「欲しいです! 私が紅夏様の”つがい”だというなら証拠を見せてください!!」
紅夏は深く息を吐いた。そしてその身に壮絶な色香を纏う。
「……花嫁様との約束を破ることになるが、本当にいいのだな」
ゆらり、と立ち上るがごとくの色気に、紅児は思わず後ずさろうとした。だがもちろん腰を抱かれるようにして腰掛けている紅児が逃げられるはずもない。
「いったい……なにを……」
「今宵、迎えにいく」
紅児は頬を真っ赤に染めた。
やはりそういうことなのか。
「そ、それ以外に証明する方法はないんですか……」
「形のある証拠と言われればそれ以外にない。今宵は寝かせぬ。覚悟しておけ」
一気に全身がカーッと熱くなる。あまりの熱に目が潤んでき、紅児は狼狽した。
だがどうにか回避しなければいけない。なし崩しに今紅夏のものになるわけにはいかないのだ。
「あ、あああああのっ! それでどうやって証明するっていうんですかっ!?」
「我らは人の体内に精を注ぐことはできない。だがその相手が”つがい”であれば自然と精を注ぐのだ」
また紅児の頭がぐるぐるしてきた。
(精って何? 注ぐことができないって何? もーわけわかんないっ!)
身の危険にさらされ、わからないことが更に増え、もうどうしたらいいのかわからない。
「わかりませんっっ!!」
しまいには叫んでいた。
「わかんないっ! わかんないっ!! どうして!? どうして私なのっ!? 帰りたい、もうっ、本当に帰りたいよおぉっっ!!」
ぼろぼろと涙がこぼれる。
そんな紅児を、紅夏は顔を隠すようにして抱き寄せた。紅児はどうにかして首を振ろうとする。
周りの者たちはそんな彼らを固唾を飲んで見守っていたが、ちょうどそこにいた趙は目立たないように素早く食堂を出て行った。
泣いてばかりいる自分が嫌い。無茶なことばかり言う紅夏も嫌い。
(どうして私なの?)
美しく、素敵な紅夏。その黒い瞳はまっすぐ紅児にだけ向けられている。
愛しくて想いが溢れてたまらないというように。
それがどうしてもわからない。
(なんで? なんで私なの?)
胸がひどく苦しい。
こんな、人がいっぱいいるところで泣き叫んで自分はどうしたいのだろう。
「我は……そなたを追い詰めてしまったのか」
呟くような甘い声が耳元でし、紅児はそれにすら反応して震える体が嫌だった。
どうしてこんなに、紅夏とのことで胸が苦しいのだろう。
すんすんと鼻が鳴る。しゃくり上げるのも間隔が空き、やっと少し落ち着いたと思った頃。
「紅夏、花嫁様の命だ。紅児と共に来るように」
白雲の低い声が、食堂の入口の方からした。
また面倒をかけてしまったようだった。
昼食の時間までにまた聞くことを頭の中で整理しておかなければならないだろう。
紅夏の言ったことが本当なら……。
とても重い荷を背負わされた気分だった。
長い年月を過ごしてきた紅夏のこと、以前結婚したことはないのだろうか。
問えば「したことはない」と返された。
結婚したいほどの相手と巡り合えなかったのか。
また疑問が顔に出ていたらしい。
「……眷族の中でも第一世代は特に”つがい”を探す。そして四神と気持ちを擦り合わせるのだ」
(擦り合わせる?)
”つがい”というのが眷族にとって大切な者だということはわかった。けれどやはり紅夏の説明は難しく感じる。
ここでわかったような顔をするのは簡単だが、それではいけない気がするのだ。
「……よく、わかりません」
紅夏は面倒臭がらずに答えてくれた。
「我ら第一世代の寿命は長い。子として産まれてくる第二世代よりも長く生きるのが普通だ。だがそれでは子を成す意味がない。”つがい”を探す時間はたっぷりある。自然と”つがい”以外には目が向かぬようになるのだ」
確かに自分の子が自分より先に亡くなるというのは嫌だと紅児は思う。
「そして”つがい”というのは四神にとっての花嫁のような存在だ。我らは”つがい”を得ることでかけがえのない存在に対する想いを初めて知る」
それが「四神と気持ちを擦り合わせること」なのだろうか。
四神のようにかけがえのない存在を得ることで、四神の気持ちがわかるようになる。確かにそれは仕える者として知っておいた方がいい感情だとは思う。
ただそれは自分が巻き込まれなければの話だ。
紅児はそれまでぐるぐる考えていた疑問を口にした。
「……どうして私なんですか?」
紅夏の”つがい”がどうして紅児なのか。
「わからぬ」
さらりとした答えに紅児は苛立った。
「じゃあ私が貴方の”つがい”ではないかもしれないでしょう」
「そなたは我の”つがい”だ」
一体なんの根拠があってそんなことを言うのか。
「……その証拠は? 納得できません!」
どうして自分なのか。
いろいろあって紅児はもう限界だった。
「証拠が欲しいのか」
対する紅夏はいつになく冷ややかで。
「欲しいです! 私が紅夏様の”つがい”だというなら証拠を見せてください!!」
紅夏は深く息を吐いた。そしてその身に壮絶な色香を纏う。
「……花嫁様との約束を破ることになるが、本当にいいのだな」
ゆらり、と立ち上るがごとくの色気に、紅児は思わず後ずさろうとした。だがもちろん腰を抱かれるようにして腰掛けている紅児が逃げられるはずもない。
「いったい……なにを……」
「今宵、迎えにいく」
紅児は頬を真っ赤に染めた。
やはりそういうことなのか。
「そ、それ以外に証明する方法はないんですか……」
「形のある証拠と言われればそれ以外にない。今宵は寝かせぬ。覚悟しておけ」
一気に全身がカーッと熱くなる。あまりの熱に目が潤んでき、紅児は狼狽した。
だがどうにか回避しなければいけない。なし崩しに今紅夏のものになるわけにはいかないのだ。
「あ、あああああのっ! それでどうやって証明するっていうんですかっ!?」
「我らは人の体内に精を注ぐことはできない。だがその相手が”つがい”であれば自然と精を注ぐのだ」
また紅児の頭がぐるぐるしてきた。
(精って何? 注ぐことができないって何? もーわけわかんないっ!)
身の危険にさらされ、わからないことが更に増え、もうどうしたらいいのかわからない。
「わかりませんっっ!!」
しまいには叫んでいた。
「わかんないっ! わかんないっ!! どうして!? どうして私なのっ!? 帰りたい、もうっ、本当に帰りたいよおぉっっ!!」
ぼろぼろと涙がこぼれる。
そんな紅児を、紅夏は顔を隠すようにして抱き寄せた。紅児はどうにかして首を振ろうとする。
周りの者たちはそんな彼らを固唾を飲んで見守っていたが、ちょうどそこにいた趙は目立たないように素早く食堂を出て行った。
泣いてばかりいる自分が嫌い。無茶なことばかり言う紅夏も嫌い。
(どうして私なの?)
美しく、素敵な紅夏。その黒い瞳はまっすぐ紅児にだけ向けられている。
愛しくて想いが溢れてたまらないというように。
それがどうしてもわからない。
(なんで? なんで私なの?)
胸がひどく苦しい。
こんな、人がいっぱいいるところで泣き叫んで自分はどうしたいのだろう。
「我は……そなたを追い詰めてしまったのか」
呟くような甘い声が耳元でし、紅児はそれにすら反応して震える体が嫌だった。
どうしてこんなに、紅夏とのことで胸が苦しいのだろう。
すんすんと鼻が鳴る。しゃくり上げるのも間隔が空き、やっと少し落ち着いたと思った頃。
「紅夏、花嫁様の命だ。紅児と共に来るように」
白雲の低い声が、食堂の入口の方からした。
また面倒をかけてしまったようだった。
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