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26.魔王が何を見てきたかというと
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「はぁ……」
また尻穴を休ませろと怒って、魔王の腕の中に納まっている。
魔王は僕を少年の姿のまま、ベッドで横抱きにしてくれている。魔王は美少年だから、なんか悪いことをしているような気になってしまうんだけど、そんな魔王も嬉しそうだ。
「魔王の今回の仕事ってさ……」
「ん?」
「どういうのだったかって、聞いてもいいのかな?」
一日以上も離れたことはなかったから、ちょっとだけ気になった。そうは言っても僕がここに来てからまだ半月ぐらいしか経ってないんだけど。
「ああ……今回は特に介入はしていない」
「そうなの?」
そんなに長い間観察していたのだろうか。飽きなかったのかな? と首を傾げた。
「じゃあ、様子を見てたってこと?」
「ああ、なかなか興味深かったぞ。魔の国との境とはいっても、主に被害が出たのはあちら側だったからな。国に被害が出るようならば止めたが、そうはならなかった」
「そうなんだ」
ほっとした。
でもほっとしてから疑問に思った。
「国境で何があったんだ?」
「新しい勇者が現れたぞ」
魔王は楽しそうにそう言った。
「えええ?」
そういえば勇者の剣って、僕が魔族になってからなくなったんだっけ。あの台座みたいなところに勝手に戻ったのかな? それをまた誰かが抜いたのか。
「勇者ってことは、あの剣を持っていたの?」
「ああ、持っていたぞ。しかし不思議なものだ。勇者に付き従っている者たちの方が魔力は多かった。あの剣は女性というものが嫌いなようだな」
「んん?」
魔王の言っていることがよくわからなかった。
「魔王様、ご自身が見られた光景を見せるのでなければきちんと説明してあげてください。奥さまが困っていらっしゃいます」
イオールがため息をついて助け舟を出してくれた。なんだかんだいってイオールがいてくれるのは嬉しい。他の魔族たちや魔物も僕のことをかわいいかわいいって愛でてくれるけど、やっぱり魔王が一番だし、イオールはその次ぐらいに側にいてほしいって思う。
「ふむ……あの光景を見せた方が早いか」
魔王はそう言うと、僕の手を優しく握った。その途端、目の前に何やら争っているような場面が広がった。
「!?」
ビクッと震えた僕を魔王は抱きしめてくれた。魔王、大好きだよぉ。
「あ……これって……」
見ているうちに、それが魔王が見てきた光景だということに気づいた。人間の兵士とか、魔族たちが争っているのが見える。でも国境の壁を壊したのは勇者の剣だった。それ以上に驚いたのは……。
「えっ? ザーコっ!?」
勇者の剣をぶんぶんと振り回していたのは、かつて僕が一緒に修行をしていた初恋の青年だった。
「知っているのか?」
「は、はい……あの……一緒に剣の修行をしていて……」
僕は彼に出会った時は彼より体格が小さかったから、彼の子分みたいなかんじだった。小さい頃はけっこう小突かれたりもしたけど、僕は彼が好きで……。でもそれを言うことはできなかったから、せめて一緒にいたいって思って身体を鍛えたら彼よりでっかくなっちゃったんだよな。彼はそれでも僕を子分扱いしてたけど、それでもよかった。僕は彼がずっと好きだったから。
僕が勇者の剣を抜いたことで彼は僕から離れてしまったけど、僕がいなくなったことで勇者になれたのか。ちょっと複雑な気持ちだけど、よかったなと思った。
って、よくないよね?
彼が勇者になったってことは魔王は討伐されちゃう?
「旦那さまっ! ど、どうにかしないとっ!」
「何をだ?」
魔王は楽しそうな表情をして、百面相をしていたらしい僕を眺めていたみたいだった。
「だ、だって彼は勇者で……」
「それがどうした? この世界ではそなたが一番の魔力量を誇るのだぞ? その次は私だ」
「……単純に、魔力量が多い方が強いんでしたっけ……」
「そうだ」
「でも、勇者の剣が」
「あれはなまくらだ」
「えっ?」
初めて聞いた。
「あれは長く存在しているが故に魔剣とはなったが、元は見た目がいいだけの剣だ。あんなものでは力の弱い魔物を斬れる程度だろう。あとは魔力を乗せて力技でいくしかない。あの勇者にはそれほど魔力はないから、イオールにも傷一つつけられぬだろう」
「そ、そう、なんだ……」
ほっとした。みんなが斬られたりしたら嫌だし。
「彼はまた三年ぐらいかけてここまでくるのかな……」
「そこまではかからぬだろう。共にいる者たちに見覚えはないか?」
「えっ?」
言われて気づいた。そういえば僕と一緒に旅をした王女たちが戦っているのが見えた。
「彼女たちが一緒なんだ。それならそこまでかからないとは思うけど……」
彼女たちも結婚適齢期なのにまた戦いになんて身を置いたら結婚とかどうなるんだろう。ザーコがみんなを娶ってくれるのかな? それならいいけど。
自分に余裕ができたせいか余計なことを考えてしまった。
「まぁよい。そんなに時間がかからぬよう、正確な地図でも渡してやるとしよう。クルトの知り合いのようだしな」
「あ、ありがと……」
どこまでも余裕な魔王に首を傾げる。でも彼らが魔王城に来たら戦いになってしまうんじゃ? と僕は首を傾げたのだった。
また尻穴を休ませろと怒って、魔王の腕の中に納まっている。
魔王は僕を少年の姿のまま、ベッドで横抱きにしてくれている。魔王は美少年だから、なんか悪いことをしているような気になってしまうんだけど、そんな魔王も嬉しそうだ。
「魔王の今回の仕事ってさ……」
「ん?」
「どういうのだったかって、聞いてもいいのかな?」
一日以上も離れたことはなかったから、ちょっとだけ気になった。そうは言っても僕がここに来てからまだ半月ぐらいしか経ってないんだけど。
「ああ……今回は特に介入はしていない」
「そうなの?」
そんなに長い間観察していたのだろうか。飽きなかったのかな? と首を傾げた。
「じゃあ、様子を見てたってこと?」
「ああ、なかなか興味深かったぞ。魔の国との境とはいっても、主に被害が出たのはあちら側だったからな。国に被害が出るようならば止めたが、そうはならなかった」
「そうなんだ」
ほっとした。
でもほっとしてから疑問に思った。
「国境で何があったんだ?」
「新しい勇者が現れたぞ」
魔王は楽しそうにそう言った。
「えええ?」
そういえば勇者の剣って、僕が魔族になってからなくなったんだっけ。あの台座みたいなところに勝手に戻ったのかな? それをまた誰かが抜いたのか。
「勇者ってことは、あの剣を持っていたの?」
「ああ、持っていたぞ。しかし不思議なものだ。勇者に付き従っている者たちの方が魔力は多かった。あの剣は女性というものが嫌いなようだな」
「んん?」
魔王の言っていることがよくわからなかった。
「魔王様、ご自身が見られた光景を見せるのでなければきちんと説明してあげてください。奥さまが困っていらっしゃいます」
イオールがため息をついて助け舟を出してくれた。なんだかんだいってイオールがいてくれるのは嬉しい。他の魔族たちや魔物も僕のことをかわいいかわいいって愛でてくれるけど、やっぱり魔王が一番だし、イオールはその次ぐらいに側にいてほしいって思う。
「ふむ……あの光景を見せた方が早いか」
魔王はそう言うと、僕の手を優しく握った。その途端、目の前に何やら争っているような場面が広がった。
「!?」
ビクッと震えた僕を魔王は抱きしめてくれた。魔王、大好きだよぉ。
「あ……これって……」
見ているうちに、それが魔王が見てきた光景だということに気づいた。人間の兵士とか、魔族たちが争っているのが見える。でも国境の壁を壊したのは勇者の剣だった。それ以上に驚いたのは……。
「えっ? ザーコっ!?」
勇者の剣をぶんぶんと振り回していたのは、かつて僕が一緒に修行をしていた初恋の青年だった。
「知っているのか?」
「は、はい……あの……一緒に剣の修行をしていて……」
僕は彼に出会った時は彼より体格が小さかったから、彼の子分みたいなかんじだった。小さい頃はけっこう小突かれたりもしたけど、僕は彼が好きで……。でもそれを言うことはできなかったから、せめて一緒にいたいって思って身体を鍛えたら彼よりでっかくなっちゃったんだよな。彼はそれでも僕を子分扱いしてたけど、それでもよかった。僕は彼がずっと好きだったから。
僕が勇者の剣を抜いたことで彼は僕から離れてしまったけど、僕がいなくなったことで勇者になれたのか。ちょっと複雑な気持ちだけど、よかったなと思った。
って、よくないよね?
彼が勇者になったってことは魔王は討伐されちゃう?
「旦那さまっ! ど、どうにかしないとっ!」
「何をだ?」
魔王は楽しそうな表情をして、百面相をしていたらしい僕を眺めていたみたいだった。
「だ、だって彼は勇者で……」
「それがどうした? この世界ではそなたが一番の魔力量を誇るのだぞ? その次は私だ」
「……単純に、魔力量が多い方が強いんでしたっけ……」
「そうだ」
「でも、勇者の剣が」
「あれはなまくらだ」
「えっ?」
初めて聞いた。
「あれは長く存在しているが故に魔剣とはなったが、元は見た目がいいだけの剣だ。あんなものでは力の弱い魔物を斬れる程度だろう。あとは魔力を乗せて力技でいくしかない。あの勇者にはそれほど魔力はないから、イオールにも傷一つつけられぬだろう」
「そ、そう、なんだ……」
ほっとした。みんなが斬られたりしたら嫌だし。
「彼はまた三年ぐらいかけてここまでくるのかな……」
「そこまではかからぬだろう。共にいる者たちに見覚えはないか?」
「えっ?」
言われて気づいた。そういえば僕と一緒に旅をした王女たちが戦っているのが見えた。
「彼女たちが一緒なんだ。それならそこまでかからないとは思うけど……」
彼女たちも結婚適齢期なのにまた戦いになんて身を置いたら結婚とかどうなるんだろう。ザーコがみんなを娶ってくれるのかな? それならいいけど。
自分に余裕ができたせいか余計なことを考えてしまった。
「まぁよい。そんなに時間がかからぬよう、正確な地図でも渡してやるとしよう。クルトの知り合いのようだしな」
「あ、ありがと……」
どこまでも余裕な魔王に首を傾げる。でも彼らが魔王城に来たら戦いになってしまうんじゃ? と僕は首を傾げたのだった。
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