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29.王妃様に呼び出されまして

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 そうは言ってもクドトッシ王女がこちらの国にきた名目は特使として、である。
 なので勝手に王太子と会うことはできない。偶然を装って会おうにも、隣国の人間を自由に王城内で歩かせはしない。そんなわけで必然的にヴィクトーリア様とお茶をして、その席に王太子を伴わせるという方法をとることになった。
 おかげさまでクドトッシ王女の私への視線のきついことといったら。
 私はもうなんとも思っていませんし、現在は迷惑にも思っていますからとっとと王太子をモノにしちゃってください~。
 そしてそれはすぐに王妃の耳に入ったようだ。さっそくヴィクトーリア様は呼び出された。

「ねえ、ヴィクトーリア。最近は隣国の王女と仲がいいと聞いたけど、いったいどういうことなのかしら?」
「王妃様、クドトッシ王女は聡明な女性です。きちんと自分の立場を理解しておいでですわ」
「……そう。貴女がそれでいいというのならばいいのだけど?」

 王妃様は不満そうだ。でも王族に妾がいるのは当たり前だと私は思うんだけど。王妃様は側室がいることが不満なのかもしれない。
 ヴィクトーリア様は少し悲しそうな顔をした。

「私の不徳の致すところでございますが、王太子様は……」

 そう言って私をちら、と見やる。え? なに? そこは私が巻き込まれるところなの? 冷汗がだらだらと背を伝った。王妃は私を睨むとため息をついた。

「……そうね。男というのは本当にどうしようもないものよね。わかりました、明日には王女を連れていらっしゃい」
「ありがとうございます」

 どういうわけか王女を連れてくる許可が下りました。自ら人となりをみるとかそういうことなんだろう。でも失礼だけど王妃様にそういう判断ができるとはさっぱり思えないんだけどな。でもそれはヴィクトーリア様が特別なのか。
 翌日の昼食後、王妃の声掛けで庭園にてお茶会が催された。
 王妃の友人だという貴族のご夫人たちが来て席についた。さかなはヴィクトーリア様とクドトッシ王女である。クドトッシ王女は盛大な猫を被って現れた。私はいつも通り、ヴィクトーリア様の斜め後ろである。ヴィクトーリア様はとても友人思いなので私を保護しているということを前面に出していた。おかげで私の定位置を脅かす者はいない。まぁ視線だけはいかんともしがたいが。
 そう、ご夫人たちの視線はクドトッシ王女と何故か私に向けられているのだ。みなさま、私なんかを見ても面白くもなんともないですよ! 是非ヴィクトーリア様をご覧ください。ほら、こんなに輝くほど美しいじゃあーりませんか!

「本日は隣国のクドトッシ王女がいらしてくれたわ。みなさん、これを機に隣国への理解を深めましょう」
「とてもよい考えですわ」
「クドトッシ王女の髪はとても美しいわ。隣国ではみなそのような、美しい黒髪をしていらっしゃるの?」

 王女が王妃に茶会に誘ってくれたことの礼を延べると、王妃はそんなことを言ってご夫人たちにいろいろ話しかけさせた。もちろん貴族のご夫人たちも会話を通して王女を値踏みする。もうなんていうか、聞いてるだけで恐ろしい。またおうちに帰りたくなったが、そもそも私に帰りたくなるようなうちはない。つらい。(定期)
 そつなくご夫人たちと会話ができることといい、さりげなく相手を立てるところといい、クドトッシ王女は理想の側室候補だと私でも思う。実際は王太子ラブの独占欲が一際強い女性なわけなのだが。王太子さえ絡まなければと思わないでもない。でも恋心なんてどうにもならないものだと思うから、好きな人と一緒になろうと奮闘するのが間違っているとは思わない。ただ、毒殺はやりすぎだ。
 ヴィクトーリア様が言うには、王太子の筆おろしをしたであろう女性や、通ったことのある娼館の女性が姿を消しているらしい。私はそれを聞いて身震いした。隣国王女、こわい、こわすぎる。
 王妃はしばらく王女と友人だというご夫人たちの会話を聞いていたが、問題ないと判断したのか軽く頷いた。
 やっぱり王妃様の見る目はないのだなと思ってしまう。
 お茶会の最後の方になって、王太子が現れた。

「母上、お呼びと伺いましたが……」

 そこまで言ってから、集まっている面々を見て困ったような顔をした。

「ええ、クドトッシ王女から隣国のお話を聞いていましたのよ。貴方も王太子なのですから、隣国の話を聞いた方がいいわ」
「そういうことでしたか。母上の気遣い痛み入ります」

 クドトッシ王女の隣に王太子の席が用意された。王女は恥じらいながらもとても嬉しそうに王太子と話をしていた。これで王太子の気持ちが王女に向いてくれればいいのだけど。
 でもまだちらちらこっちを見るんだよね。いいかげん諦めてくれないかなとうんざりする。
 でも王太子からしたら私がいきなり手のひらを返したように思えるのかな。ただあの卒業記念パーティーはなとこちらも思ってしまう。あの時王太子は私の為に卒業記念パーティーに出る為の特別許可をとってはくれなかった。特別許可なしに下級生や部外者が足を踏み入れれば即牢屋行きだと知らなかったわけでもあるまいし。
 だからやはりあの場で私の気持ちが冷めてしまうのはしょうがないことだと思う。それを王太子が理解しているかどうかは別だけど。
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