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三四、理性

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 その晩は、湯浴みをした後偉仁の部屋に呼ばれた。
 基本的に偉仁は夕飯の時間までに帰ってくるが、遅くなる場合もある。その時はすでに明玲も湯浴みを終えていることが多い。なので湯浴みをした後に呼ばれることがなかったわけではないが、今夜は敢えてその時間に呼ばれたということが明玲の心を落ち着かなくさせていた。

(まだその時じゃないって哥は言っていたじゃないの。落ち着くのよ……)

 それでも胸の高鳴りは抑えられない。しかもそれだけでなく、周梨がわざわざ薄い絹のなまめかしい睡衣ねまきを用意したのだ。ちなみに曹梅花はすでにここにはいない。毎晩夕食の後は下がるよう言われている為である。

「ね、ねぇ周梨ジョウリー……これってちょっと……」
「なんですか? 閨に呼ばれたのですからそういうことでしょう」

 さらりと言われて明玲は絶句した。

(閨って……閨って……)
「で、でも哥はまだその時じゃないって……」

 周梨は半目になった。

「……どれだけ忍耐力があるのでしょうね。まぁ……試されるのもいいのではないでしょうか」
「でも……さすがにこれは……」
明玲ミンリン様」
「はい」

 改めて、というかんじで声をかけられたので明玲は居住まいを正した。

「妻は夫を癒すのが務めです。それは当然のことですが、身体を使って癒す方法が一番と伺っております。せいぜい愛らしく誘ってきてください」
「さ、誘うって……」

 明玲はもう全身真っ赤だった。周梨だってまだ未経験のはずなのになんでそんなことを知っているのだろうか。それは侍女の嗜みとして知っている必要があるのだろうかとか、明玲の頭の中をぐるぐる回る。そんなことをいったい誰が教えるのだろう。

「王は明玲様をこよなく愛していらっしゃいます。早く可愛いややこを私に見せてください」
「やや……ややって……」

 明玲はとうとう悶絶した。
 想像しただけでもう明玲は動けなくなった。
 

「明玲、大事ないか?」

 そんな明玲を促すでもなく、周梨は当たり前のように偉仁を呼んだ。なかなか部屋にこない明玲を心配して、偉仁が部屋を訪れる。

「だ、大丈夫です……参ります……」
「……周梨、これはさすがに……」

 偉仁は明玲の恰好を見て周梨を見やった。

「なんでしょうか。そろそろ昼も夜もなく睦み合ってしまえと奥様がおっしゃられていますのでご用意しました」
「……あれは……全く……」

 はーっと偉仁は嘆息した。なんだか呆れているようである。明玲は更に縮こまった。

「明玲、顔を上げてくれ」
「…………」

 明玲は俯いていた顔をおずおずと上げた。恥ずかしそうに目は伏せられているが、真っ赤になっているのは誰の目にも明らかだった。偉仁は無言で明玲に長袍を着せかけると、そのまま抱き上げた。

「っきゃっ……」
「……今宵は、朝まで私の部屋で過ごさせる」
「伺っております」
「……準備せよ」
「かしこまりました」

 偉仁が周梨に何を申し付けたのかはわからない。明玲はそっと偉仁の胸に手を添えた。この腕の中ひどく安心する。できることならずっと囚われていたいと明玲は心から思うのだった。
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