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二二、在皇城(皇城にて)
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風はまだ爽やかだが、陽射しは夏を思わせる比較的穏やかな日、明玲は皇城にいた。
皇帝に名指しで呼ばれたことで訪れたのだが、皇帝は明玲に会おうともしなかった。それは、この頃にはもう明玲が公主ではなくなり、偉仁と婚約したことが公になったのも関係しているだろう。きっと婚約を申し出ていた貴族との調整もあったに違いないが、それは明玲には直接関係ない。ともかく皇帝と顔を合わせずに済んで、明玲はほっとした。
ただもう明玲は公主ではなくなってしまったから、皇帝の後宮に足を踏み入れることはできなくなってしまった。前回来た時は趙山琴と一緒だったし、時間もなかったから謁見の間で会っただけだった。もっと落ち着いていろいろな話ができたならと思わないでもなかったが、謁見の間で会えるだけでもいいと明玲は思うようにした。
「蘇王と婚約したのですってね。おめでとう」
「ありがとうございます」
明妃は実母ではあるが、明玲は公主ではなくなったことで序列が下がる。これからは親子として会ったとしてもこのようによそよそしい話し方をしなければならない。来年成人するとはいえ、明玲はまだ十四歳の少女だ。内心は切なくてたまらなかった。
趙山琴は芳妃と何やら話をしている。
偉仁たち、皇帝の臣下とその皇子たちは歴代の皇帝の陵墓へと出かけていた。皇后以外の女性は伴ってはならないことから、妾妃である明妃や芳妃は自由なものである。ただし皇帝が戻れば晩餐会が開かれるので、それに供として参加はするようだった。
晩餐会には山琴、明玲も参加することになっている。それが終われば明玲はお役御免だ。後は来年嫁ぐまで館で花嫁修業をすればいい。学ぶべきことはたくさんあるので決して楽ではないが、穏やかに過ごせることが何よりも代えがたい。
「明妃娘娘、星雨公主はお元気ですか?」
「ええ、とても元気よ。もしまた皇城に来る機会があったら会ってやってちょうだい」
「四歳になられたと思いますが」
「可愛い盛りよ。貴女の小さい頃を思い出したわ」
「そうなのですか」
星雨は明玲の歳の離れた妹である。芳妃も二歳の息子がいる。皇帝はまだまだ性欲が尽きないようだった。それでも二人子を産むという妾妃はあまりいないことから、明妃と芳妃は後宮内でそれなりの地位にいるらしい。明玲からすると母は娘しか産んでいないし、明玲自身は皇帝の血を引いていない。だが芳妃が明妃から離れないので、二人で一つの派閥のような扱いを受けているという。明玲は母の苦労を忍び、内心手を合わせた。
芳妃が手招きする。明玲は明妃と共に近寄った。
「明玲、偉仁との婚約、おめでとう」
「ありがとうございます」
芳妃はとても機嫌がよさそうだった。
「明玲が偉仁に嫁いでくれることになって本当によかったわ。いろいろ至らないところもある息子だけど、見捨てないでやってちょうだい」
「そんな……私こそ蘇王にはとてもよくしていただいて……」
「あら、そんなこと当たり前じゃない」
芳妃がにこにこしながら言う。
「惚れた女を大事にするのは当然のことよ。明玲、貴女はもう少し自分に自信を持ちなさい」
「……っっ! ……は、はい……」
明玲は頬を染めた。
(惚れた女……惚れた女って……)
明玲はちら、と山琴を見た。山琴もまた笑顔だったが、目は何故か呆れているようだった。何かしてしまっただろうかと明玲は少し不安になった。
「芳妃娘娘、明玲にはまだそれほど愛されているという自覚がないようなのです」
「まぁ……それは偉仁がいけないわ。言葉を尽くさないのは男の悪い癖ね」
「妾にはそれだけが原因ではないと思いますが」
「いいのよ、明玲はそのままで。……でも、このまま何もなければいいのだけど」
「妾もそう願っています」
また山琴と芳妃がよくわからない会話を始めた。偉仁に愛されているという自覚はある。だがどうして自分がそこまで愛されているのか、理解できないのだった。
女心は複雑である。
皇帝に名指しで呼ばれたことで訪れたのだが、皇帝は明玲に会おうともしなかった。それは、この頃にはもう明玲が公主ではなくなり、偉仁と婚約したことが公になったのも関係しているだろう。きっと婚約を申し出ていた貴族との調整もあったに違いないが、それは明玲には直接関係ない。ともかく皇帝と顔を合わせずに済んで、明玲はほっとした。
ただもう明玲は公主ではなくなってしまったから、皇帝の後宮に足を踏み入れることはできなくなってしまった。前回来た時は趙山琴と一緒だったし、時間もなかったから謁見の間で会っただけだった。もっと落ち着いていろいろな話ができたならと思わないでもなかったが、謁見の間で会えるだけでもいいと明玲は思うようにした。
「蘇王と婚約したのですってね。おめでとう」
「ありがとうございます」
明妃は実母ではあるが、明玲は公主ではなくなったことで序列が下がる。これからは親子として会ったとしてもこのようによそよそしい話し方をしなければならない。来年成人するとはいえ、明玲はまだ十四歳の少女だ。内心は切なくてたまらなかった。
趙山琴は芳妃と何やら話をしている。
偉仁たち、皇帝の臣下とその皇子たちは歴代の皇帝の陵墓へと出かけていた。皇后以外の女性は伴ってはならないことから、妾妃である明妃や芳妃は自由なものである。ただし皇帝が戻れば晩餐会が開かれるので、それに供として参加はするようだった。
晩餐会には山琴、明玲も参加することになっている。それが終われば明玲はお役御免だ。後は来年嫁ぐまで館で花嫁修業をすればいい。学ぶべきことはたくさんあるので決して楽ではないが、穏やかに過ごせることが何よりも代えがたい。
「明妃娘娘、星雨公主はお元気ですか?」
「ええ、とても元気よ。もしまた皇城に来る機会があったら会ってやってちょうだい」
「四歳になられたと思いますが」
「可愛い盛りよ。貴女の小さい頃を思い出したわ」
「そうなのですか」
星雨は明玲の歳の離れた妹である。芳妃も二歳の息子がいる。皇帝はまだまだ性欲が尽きないようだった。それでも二人子を産むという妾妃はあまりいないことから、明妃と芳妃は後宮内でそれなりの地位にいるらしい。明玲からすると母は娘しか産んでいないし、明玲自身は皇帝の血を引いていない。だが芳妃が明妃から離れないので、二人で一つの派閥のような扱いを受けているという。明玲は母の苦労を忍び、内心手を合わせた。
芳妃が手招きする。明玲は明妃と共に近寄った。
「明玲、偉仁との婚約、おめでとう」
「ありがとうございます」
芳妃はとても機嫌がよさそうだった。
「明玲が偉仁に嫁いでくれることになって本当によかったわ。いろいろ至らないところもある息子だけど、見捨てないでやってちょうだい」
「そんな……私こそ蘇王にはとてもよくしていただいて……」
「あら、そんなこと当たり前じゃない」
芳妃がにこにこしながら言う。
「惚れた女を大事にするのは当然のことよ。明玲、貴女はもう少し自分に自信を持ちなさい」
「……っっ! ……は、はい……」
明玲は頬を染めた。
(惚れた女……惚れた女って……)
明玲はちら、と山琴を見た。山琴もまた笑顔だったが、目は何故か呆れているようだった。何かしてしまっただろうかと明玲は少し不安になった。
「芳妃娘娘、明玲にはまだそれほど愛されているという自覚がないようなのです」
「まぁ……それは偉仁がいけないわ。言葉を尽くさないのは男の悪い癖ね」
「妾にはそれだけが原因ではないと思いますが」
「いいのよ、明玲はそのままで。……でも、このまま何もなければいいのだけど」
「妾もそう願っています」
また山琴と芳妃がよくわからない会話を始めた。偉仁に愛されているという自覚はある。だがどうして自分がそこまで愛されているのか、理解できないのだった。
女心は複雑である。
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