4 / 73
四、在床上(ベッドの上で)
しおりを挟む
血の繋がりがなかったということを聞いた。
後宮の噂は、ただの噂ではなかったのだと明玲はようやく知った。でも母である明妃が、攫われてきて五か月で子を産んだなど誰も教えてはくれなかった。それならばどうして明玲は後宮にいられたのだろう。皇帝からしたら別の男の子供なのに、どうして明玲は殺されなかったのだろう。
疑問が次々と顔を出し、明玲は混乱した。そんな彼女の様子に偉仁は苦笑した。
「明玲、思い悩むのは後にしろ。大事な話の途中だ」
「……は、はい……」
目の前にとても秀麗な顔があって、明玲は何度も瞬きした。こんな至近距離で、しかも床の上で兄の顔を見たことなどなかった。みるみるうちに全身が熱くなる。おそらく今顔は真っ赤になっているのではないかと明玲は思った。
偉仁が機嫌よさそうに明玲の頬を撫でた。
「明玲」
「……ひゃ、ひゃいっ……!」
頬を撫でられた。頬を、頬を、その美しい手で! と明玲の頭の中は恐慌状態になっていた。そうでなくても明玲は偉仁を兄としてではなく、一人の男性として恋している。もっと小さい頃はただの憧れだったが、引き取られて近くで兄を知るにつけ、明玲はどんどん偉仁を好きになった。年が明けて十四歳になったと知り、誰かに嫁がなければいけないと考えただけで涙が溢れた。明玲とて兄に妻がいることはわかっているし、夜は決して部屋を出てはいけないと言われた理由もわかっていた。明玲の部屋は兄と妻たちの部屋の間にある。もし部屋を出て兄が妻たちの部屋に向かうところを見てしまったら、それだけで泣いてしまったに違いない。自分は兄やその妻たちに甘えているのだということは知っていたが、どうすることもできなかった。
「明玲、まだそなたを娶ることはできぬが、来年には私の妻になるのだと覚えておけ」
「……は、はい……はいいいいいいいっっ!?」
とんでもないことを言われ、明玲は更に混乱した。偉仁は苦笑した。
「全く……色気も何もないな……だが何度でも言おう。……そなたは私のものだ」
「え? あ、う? い?」
「もう黙れ」
混乱に拍車がかかり目を白黒させている明玲の頤を偉仁はクイ、と少し持ち上げた。
「~~~~~~っっ!!」
(何? なになになになに~~~~っっ!? これは口付け? 口吸い? えーーーーーー?)
秀麗な面が更に近づいてきたかと思うと、その薄い唇が明玲のそれに重なった。そして半開きになっていた唇をぺろりと舐められ、瞬く間にするりと偉仁の舌が口腔内に入ってきた。
「んっ、んんーーっ!」
戸惑って動けないでいる明玲の舌を偉仁の舌が捕らえた時、ぞくぞくするような感覚が背筋を辿り、明玲はびくびくと身を震わせた。その身体が逃げないようにと、片腕でがっしりと抱かれていることに明玲はようやく気付いた。
(哥の、もの? 私は最初から……)
生まれた時から側にいたと聞いていた。赤子の時から明玲は偉仁にべったりであったと。そして偉仁も明玲を邪険にすることなく、よく面倒を看てくれていたと。
偉仁の舌は何度も明玲のそれを舐めた。甘やかな感覚が何度も背筋を辿り首の後ろまで到達する。その度に明玲は身を震わせ、偉仁の漢服をぎゅうっと握っていることしかできなかった。
どれほど口腔内を愛撫されていたのだろう。やっと解放された時には、明玲の瞳は潤み、唾液が口端から垂れていた。
「……あ……は……」
偉仁はそんな明玲の様子を満足そうに眺めると、漏れた唾液をぺろりと舐めた。
「ひゃっ……!」
「そなたには色気が足りぬ。これからは毎晩身に着けさせてやろう」
「……え?」
とても楽しそうに偉仁がそんなことを言う。明玲にはわけがわからなかった。その日はそのまま何度か口づけを受け、湯浴みの時間には部屋に送ってもらった。なんだか夢を見ていたようだと明玲は思った。
後宮の噂は、ただの噂ではなかったのだと明玲はようやく知った。でも母である明妃が、攫われてきて五か月で子を産んだなど誰も教えてはくれなかった。それならばどうして明玲は後宮にいられたのだろう。皇帝からしたら別の男の子供なのに、どうして明玲は殺されなかったのだろう。
疑問が次々と顔を出し、明玲は混乱した。そんな彼女の様子に偉仁は苦笑した。
「明玲、思い悩むのは後にしろ。大事な話の途中だ」
「……は、はい……」
目の前にとても秀麗な顔があって、明玲は何度も瞬きした。こんな至近距離で、しかも床の上で兄の顔を見たことなどなかった。みるみるうちに全身が熱くなる。おそらく今顔は真っ赤になっているのではないかと明玲は思った。
偉仁が機嫌よさそうに明玲の頬を撫でた。
「明玲」
「……ひゃ、ひゃいっ……!」
頬を撫でられた。頬を、頬を、その美しい手で! と明玲の頭の中は恐慌状態になっていた。そうでなくても明玲は偉仁を兄としてではなく、一人の男性として恋している。もっと小さい頃はただの憧れだったが、引き取られて近くで兄を知るにつけ、明玲はどんどん偉仁を好きになった。年が明けて十四歳になったと知り、誰かに嫁がなければいけないと考えただけで涙が溢れた。明玲とて兄に妻がいることはわかっているし、夜は決して部屋を出てはいけないと言われた理由もわかっていた。明玲の部屋は兄と妻たちの部屋の間にある。もし部屋を出て兄が妻たちの部屋に向かうところを見てしまったら、それだけで泣いてしまったに違いない。自分は兄やその妻たちに甘えているのだということは知っていたが、どうすることもできなかった。
「明玲、まだそなたを娶ることはできぬが、来年には私の妻になるのだと覚えておけ」
「……は、はい……はいいいいいいいっっ!?」
とんでもないことを言われ、明玲は更に混乱した。偉仁は苦笑した。
「全く……色気も何もないな……だが何度でも言おう。……そなたは私のものだ」
「え? あ、う? い?」
「もう黙れ」
混乱に拍車がかかり目を白黒させている明玲の頤を偉仁はクイ、と少し持ち上げた。
「~~~~~~っっ!!」
(何? なになになになに~~~~っっ!? これは口付け? 口吸い? えーーーーーー?)
秀麗な面が更に近づいてきたかと思うと、その薄い唇が明玲のそれに重なった。そして半開きになっていた唇をぺろりと舐められ、瞬く間にするりと偉仁の舌が口腔内に入ってきた。
「んっ、んんーーっ!」
戸惑って動けないでいる明玲の舌を偉仁の舌が捕らえた時、ぞくぞくするような感覚が背筋を辿り、明玲はびくびくと身を震わせた。その身体が逃げないようにと、片腕でがっしりと抱かれていることに明玲はようやく気付いた。
(哥の、もの? 私は最初から……)
生まれた時から側にいたと聞いていた。赤子の時から明玲は偉仁にべったりであったと。そして偉仁も明玲を邪険にすることなく、よく面倒を看てくれていたと。
偉仁の舌は何度も明玲のそれを舐めた。甘やかな感覚が何度も背筋を辿り首の後ろまで到達する。その度に明玲は身を震わせ、偉仁の漢服をぎゅうっと握っていることしかできなかった。
どれほど口腔内を愛撫されていたのだろう。やっと解放された時には、明玲の瞳は潤み、唾液が口端から垂れていた。
「……あ……は……」
偉仁はそんな明玲の様子を満足そうに眺めると、漏れた唾液をぺろりと舐めた。
「ひゃっ……!」
「そなたには色気が足りぬ。これからは毎晩身に着けさせてやろう」
「……え?」
とても楽しそうに偉仁がそんなことを言う。明玲にはわけがわからなかった。その日はそのまま何度か口づけを受け、湯浴みの時間には部屋に送ってもらった。なんだか夢を見ていたようだと明玲は思った。
1
お気に入りに追加
609
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
伯爵閣下の褒賞品
夏菜しの
恋愛
長い戦争を終わらせた英雄は、新たな爵位と領地そして金銭に家畜と様々な褒賞品を手に入れた。
しかしその褒賞品の一つ。〝妻〟の存在が英雄を悩ませる。
巨漢で強面、戦ばかりで女性の扱いは分からない。元来口下手で気の利いた話も出来そうにない。いくら国王陛下の命令とは言え、そんな自分に嫁いでくるのは酷だろう。
互いの体裁を取り繕うために一年。
「この離縁届を預けておく、一年後ならば自由にしてくれて構わない」
これが英雄の考えた譲歩だった。
しかし英雄は知らなかった。
選ばれたはずの妻が唯一希少な好みの持ち主で、彼女は選ばれたのではなく自ら志願して妻になったことを……
別れたい英雄と、別れたくない褒賞品のお話です。
※設定違いの姉妹作品「伯爵閣下の褒章品(あ)」を公開中。
よろしければ合わせて読んでみてください。
【R-18】童貞将軍と三番目の妻
サバ無欲
恋愛
神殿で男たちの慰みものとして生きていたサラディーヤは、敵国に略奪され、将軍ウバドの三人目の妻に召し上げられた。ウバドは強く恐ろしく、もといたはずの二人の妻は行方不明。
サラディーヤは、戦々恐々としつつも初夜を迎えるが……
すぐ吠える童貞将軍
✕
すぐ泣く気弱な女奴隷
これはちぐはぐな二人の、初夜までのおはなし。
.*・゚ .゚・*.
・はこスミレ様主催の【#企画童貞祭り】参加作品です。
・シリアスの皮をかぶったコメディです。
どうぞお気軽にご覧下さい。
【R-18】逃げた転生ヒロインは辺境伯に溺愛される
吉川一巳
恋愛
気が付いたら男性向けエロゲ『王宮淫虐物語~鬼畜王子の後宮ハーレム~』のヒロインに転生していた。このままでは山賊に輪姦された後に、主人公のハーレム皇太子の寵姫にされてしまう。自分に散々な未来が待っていることを知った男爵令嬢レスリーは、どうにかシナリオから逃げ出すことに成功する。しかし、逃げ出した先で次期辺境伯のお兄さんに捕まってしまい……、というお話。ヒーローは白い結婚ですがお話の中で一度別の女性と結婚しますのでご注意下さい。
雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う
ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。
煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。
そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。
彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。
そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。
しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。
自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。
【R18】国王陛下に婚活を命じられたら、宰相閣下の様子がおかしくなった
ほづみ
恋愛
国王から「平和になったので婚活しておいで」と言われた月の女神シアに仕える女神官ロイシュネリア。彼女の持つ未来を視る力は、処女喪失とともに失われる。先視の力をほかの人間に利用されることを恐れた国王からの命令だった。好きな人がいるけどその人には好かれていないし、命令だからしかたがないね、と婚活を始めるロイシュネリアと、彼女のことをひそかに想っていた宰相リフェウスとのあれこれ。両片思いがこじらせています。
あいかわらずゆるふわです。雰囲気重視。
細かいことは気にしないでください!
他サイトにも掲載しています。
注意 ヒロインが腕を切る描写が出てきます。苦手な方はご自衛をお願いします。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~
如月あこ
恋愛
宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。
ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。
懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。
メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。
騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)
ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。
※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる