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8.約束は守らないとね
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なんだか知らないけど、友人には不動産屋も紹介しなくてよくなった。
やたらめったら機嫌よさそうだったから、レポートも無事出せたのだろう。
で、二週間後、反対隣に友人は引っ越してきた。
「なんで教えてくれなかったの?」
「驚かせたくて?」
「なんで疑問形」
ここに引っ越してきたということはそういうことなんだろうけど、友人の部屋に住んでいる神様はなんの神様なんだろう? ちょっとだけ興味が湧いた。でも確か部屋の中のこととか詮索しちゃいけないようなこと不動産屋さんに言われてるもんね。
ちゃんとルールは熟読してますよー。
「うちでお茶飲んでかない?」
と言われたけど遠慮した。
「誰も入れちゃいけないって言われてないの?」
「ええ? それってお隣さんもなの? それぐらいいいんじゃない?」
と友人は言うけど、なんとなく童話の青ひげを髣髴とさせたので(約束を破るとひどい目に遭う的な意味で)きっぱりと断って部屋に戻った。
「茶々さん~」
「さや、よかった」
猫の部屋に行ったら、珍しく猫が自分の部屋で人型になっていた。
「? どうかしたんですか?」
「いや、さやが彼女の誘いに乗らなくてよかったな、と」
「ああ……やっぱり茶々さんにはわかるんですね」
「うん。やっぱり約束が守れるとか、口が堅い子でないと困るからね。一応……そういう話はできないようにはなってるんだけど」
「そうなんですか」
じゃあ私が話そうとしたりしたら何か起こったりするんだろうか。一度でアウトってことはないかもしれないけど、守るにこしたことはない。
「彼女とは普通に大学で顔を合わせるから、家に上げてまではって思ってしまいます。それに、家には誰も上げないってルールはお隣だって変わらないはずでしょう?」
猫はにっこり笑んだ。
「さやがしっかりしてる子でよかった……」
「あ、でも」
「ん?」
私は嫌なことを思い出した。
「そういうことを守らされるのはわかるんですけど、茶々さんが私の貞操を奪ったことについては……」
ゲフンゲフンと猫が咳ばらいをした。
「そ、それについては本当にすまないことをしたと思っている。責任を取って……」
私は猫の顔をぱしんと両手で挟んだ。
「責任を取って私を嫁にもらうんですか? そうじゃないでしょう? 茶々さんは私を気に入ったんじゃなかったんですか?」
「そ、そうだ! わしはさやに惚れたから……」
そう言ったかと思うと、猫は大きな猫の姿に戻ってしまった。茶色と白の毛並みのいい大きな猫。尻尾でぱしんぱしんと床を叩き、私を誘っている。
なー、と猫がだみ声で鳴いた。
「くっ……うまく言えないからってごまかすなんてずるいですよ!」
でもこのもふもふの誘惑には逆らえない。このこのー! と思いながら、私は猫を堪能した。ううう、この極上の毛、たまらない!
「……いっそのことこの毛を全部刈って私の布団にでもしちゃおうかしら……」
にゃにゃっ!? と猫が慌てた。
「だってすんごく毛が抜けるから掃除とかたいへんなんですよー。今は猫アレルギーじゃなくても、こんなに毎日掃除してたらそのうちアレルギーとかなっちゃいそうじゃないですか」
にゃにゃにゃっ、にゃあっ! と慌てたように猫が何か言っているがやっぱり何を言っているのかはさっぱりわからない。ま、いっかと思いながら私はまたもふもふを堪能した。
友人はあれから大人しくなった。
もう部屋に誘われることもない。また誘われると困るので私もそれについては触れなかった。
ある日友人がポツリと言った。
「羽村ちゃんの彼って優しい?」
「? うん、優しいよー」
「だよねー。ノロケ話とかはどうなんだろうね?」
「うーん、それはルールに書いてなかった気がするけど……気になるなら不動産屋さんに聞いてこようか?」
「そうしよー」
で、不動産屋さんのところへ顔を出したら、
「仲が良さそうで何よりです。ノロケや愚痴ぐらいなら構いませんよ。ただし否定だけは決してしないようにお願いします。お相手が人ではないということだけは忘れないようしてください」
とにこにこしながら言われた。
そんなわけで外でノロケとか愚痴は言うようになった。そういうことを話せる相手がいるって貴重だなって思った。
ーーーーー
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やたらめったら機嫌よさそうだったから、レポートも無事出せたのだろう。
で、二週間後、反対隣に友人は引っ越してきた。
「なんで教えてくれなかったの?」
「驚かせたくて?」
「なんで疑問形」
ここに引っ越してきたということはそういうことなんだろうけど、友人の部屋に住んでいる神様はなんの神様なんだろう? ちょっとだけ興味が湧いた。でも確か部屋の中のこととか詮索しちゃいけないようなこと不動産屋さんに言われてるもんね。
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「うちでお茶飲んでかない?」
と言われたけど遠慮した。
「誰も入れちゃいけないって言われてないの?」
「ええ? それってお隣さんもなの? それぐらいいいんじゃない?」
と友人は言うけど、なんとなく童話の青ひげを髣髴とさせたので(約束を破るとひどい目に遭う的な意味で)きっぱりと断って部屋に戻った。
「茶々さん~」
「さや、よかった」
猫の部屋に行ったら、珍しく猫が自分の部屋で人型になっていた。
「? どうかしたんですか?」
「いや、さやが彼女の誘いに乗らなくてよかったな、と」
「ああ……やっぱり茶々さんにはわかるんですね」
「うん。やっぱり約束が守れるとか、口が堅い子でないと困るからね。一応……そういう話はできないようにはなってるんだけど」
「そうなんですか」
じゃあ私が話そうとしたりしたら何か起こったりするんだろうか。一度でアウトってことはないかもしれないけど、守るにこしたことはない。
「彼女とは普通に大学で顔を合わせるから、家に上げてまではって思ってしまいます。それに、家には誰も上げないってルールはお隣だって変わらないはずでしょう?」
猫はにっこり笑んだ。
「さやがしっかりしてる子でよかった……」
「あ、でも」
「ん?」
私は嫌なことを思い出した。
「そういうことを守らされるのはわかるんですけど、茶々さんが私の貞操を奪ったことについては……」
ゲフンゲフンと猫が咳ばらいをした。
「そ、それについては本当にすまないことをしたと思っている。責任を取って……」
私は猫の顔をぱしんと両手で挟んだ。
「責任を取って私を嫁にもらうんですか? そうじゃないでしょう? 茶々さんは私を気に入ったんじゃなかったんですか?」
「そ、そうだ! わしはさやに惚れたから……」
そう言ったかと思うと、猫は大きな猫の姿に戻ってしまった。茶色と白の毛並みのいい大きな猫。尻尾でぱしんぱしんと床を叩き、私を誘っている。
なー、と猫がだみ声で鳴いた。
「くっ……うまく言えないからってごまかすなんてずるいですよ!」
でもこのもふもふの誘惑には逆らえない。このこのー! と思いながら、私は猫を堪能した。ううう、この極上の毛、たまらない!
「……いっそのことこの毛を全部刈って私の布団にでもしちゃおうかしら……」
にゃにゃっ!? と猫が慌てた。
「だってすんごく毛が抜けるから掃除とかたいへんなんですよー。今は猫アレルギーじゃなくても、こんなに毎日掃除してたらそのうちアレルギーとかなっちゃいそうじゃないですか」
にゃにゃにゃっ、にゃあっ! と慌てたように猫が何か言っているがやっぱり何を言っているのかはさっぱりわからない。ま、いっかと思いながら私はまたもふもふを堪能した。
友人はあれから大人しくなった。
もう部屋に誘われることもない。また誘われると困るので私もそれについては触れなかった。
ある日友人がポツリと言った。
「羽村ちゃんの彼って優しい?」
「? うん、優しいよー」
「だよねー。ノロケ話とかはどうなんだろうね?」
「うーん、それはルールに書いてなかった気がするけど……気になるなら不動産屋さんに聞いてこようか?」
「そうしよー」
で、不動産屋さんのところへ顔を出したら、
「仲が良さそうで何よりです。ノロケや愚痴ぐらいなら構いませんよ。ただし否定だけは決してしないようにお願いします。お相手が人ではないということだけは忘れないようしてください」
とにこにこしながら言われた。
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