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2.長に挨拶をした
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震えそうになる身体をどうにか抑えようとした。それでもすぐにがたがたと震えしまいとても困った。
俺はキールに抱き上げられたまま大きな建物の中に入った。広い建物の中に仕切りはないようで、その大きな広間の奥に何人もの鬼がいるのを見て泣きそうになる。
「こちらで履き物をお脱ぎください」
秀麗な面の鬼に促されたがキールはどうしたものかと困ったようだった。俺を抱き上げていたから。
「天使さまはこちらへ。なに、攫うようなことはいたしませんから」
その鬼が手を伸ばしてきた。なにか恐れのようなものを感じて、俺はキールに縋りついた。
「おや? 怖いのですか?」
「こ、怖くなんか……」
その鬼は眉を一瞬上げた。
「ではこちらへ。大事な天使さまのおみ足を床に付けるわけには参りません」
「ジュン様」
「……わかったよ」
俺はしぶしぶその鬼に手を伸ばし、その腕の中に収まった。どういうわけか、すっぽりと収まってしまいキールの腕の中にいた時よりも落ち着くのが不思議だと思った。
「天使さま、私はカヤテと申します。そうお呼びください」
にっこりと笑んでいるのに目が笑っていない。腕の中は落ち着くのになんだかとても怖いと思った。
「あ、ああ……」
「カヤテ、何ぐずぐずしてやがる! とっとと連れてこい!」
「ひっ……!?」
部屋の奥から怒鳴り声がして、俺はびくっとしてしまった。
「はいはい。そんなに気が短いと嫌がられますよ。そういうことですから私が連れて行きますね」
カヤテはキールを待たず、俺を抱いて部屋の奥へと進んだ。
それはとてもでかく、恐ろしい顔をした鬼だった。
「天使さま、こちらが長様です。ご挨拶を」
「……は、はい。あ、あのぅ……」
抱き上げられたままでいいのだろうかと俺はカヤテを窺った。
「カヤテ、下ろしてやれ」
「嫌です」
長だという鬼が恐ろしい声で言ったが、カヤテは拒否した。この会話はなんなのだろうと俺は混乱した。
「あー……」
長はがしがしと頭を掻いた。
「まだ天使じゃねえんだよな?」
「は、はい……」
「なんか、世話係みたいなのがいんだろ? ソイツとこのカヤテがお前付きになる。なんかあったら他の奴に訴えろ。わかったな?」
「? はい……」
長がひらひらと手を振った。どうも下がれと言っているようだった。でもまだ挨拶もろくにしていないのに。
「長様、失礼します」
なのにカヤテは俺を抱いたまま踵を返そうとした。
「あ、あのっ! 俺、ジュンと言います! これからよろしくお願いします!」
一瞬怖さを忘れ、慌てて長に声をかけた。
「わかった。カヤテ、泣かせんじゃねーぞ」
「……保証はできかねますが、善処します」
善処しますって、結局聞く気がないってことだよな。俺は内心冷汗をかきながら、カヤテに抱かれたまま他の場所へ連れて行かれた。キールがその後を追いかけてきてくれたからほっとした。
「カヤテ殿、勝手なことをされては……」
「ここが天使さまの部屋です。天使さまの世話は基本そちらの聖職者殿と私で行います」
そう言いながらカヤテは俺を離してくれなかった。先ほどの部屋よりは狭いが、それでもかなりの広さがある部屋に通されたが、カヤテの腕からは下ろしてもらえない。とても困ってしまったのだけれど、もしかして鬼はこうしているのが当たり前なのだろうか。
それよりも「天使さま」と呼ばれていることを訂正しなくてはと思った。
「あのぅ……」
「なんでしょう?」
「俺は、その……まだ天使にはなっていないので……」
「ああ! そうでしたね。天使になられる前の候補の方をとろとろにして差し上げたくてお願いしたのでした」
「……え?」
今この鬼は何と言ったのか。
俺は顔を上げてカヤテを見た。笑んでいるのに、その目がとても怖い。
「我々鬼の中でも人を伴侶としたい者がいるのですよ。ですがどうしても手加減がうまくいきませんから……その練習も兼ねてジュン様をお呼びしたのです。もちろん天使になられましたら私の妻として末永く可愛がって差し上げますので」
この鬼は何を言っているのか。
「れ、練習って……」
「触れさせるだけです。触れて貴方をとろとろにして私たちなしではいられなくさせるのですよ。大丈夫、痛いことは絶対にしません。大事に大事にしますから……」
「そんな……」
どういうことなのだろう。ウイはどうしているんだろうか。
「あの、ウイは……」
カヤテは一瞬眉を寄せた。
「ジュン様が天使さまになられましたら会わせて差し上げましょう。天使さまは長に毎日甘く愛されて暮らしていますよ」
あの巨大な長に毎日?
俺は蒼褪めた。いくら天使だからってあんなにでかい鬼を受け入れても大丈夫なのだろうか。
「きっとジュン様も天使になればわかります。まずはお食事を。そして休まれてから、身体をほぐしていきましょうね」
「……え?」
「それとも怖いですか?」
揶揄するように言われてムッとした。
「こ、怖くなんてっ!」
「ならばいいですね?」
「も、もちろんっ……!」
視界の隅でキールがこめかみに指を当てているのが見えたが、口から出た言葉はもう戻らなかった。
ーーーーー
胡散臭い鬼が口八丁手八丁で囲い込んでいきます。なんて奴だ!(ぉぃ
俺はキールに抱き上げられたまま大きな建物の中に入った。広い建物の中に仕切りはないようで、その大きな広間の奥に何人もの鬼がいるのを見て泣きそうになる。
「こちらで履き物をお脱ぎください」
秀麗な面の鬼に促されたがキールはどうしたものかと困ったようだった。俺を抱き上げていたから。
「天使さまはこちらへ。なに、攫うようなことはいたしませんから」
その鬼が手を伸ばしてきた。なにか恐れのようなものを感じて、俺はキールに縋りついた。
「おや? 怖いのですか?」
「こ、怖くなんか……」
その鬼は眉を一瞬上げた。
「ではこちらへ。大事な天使さまのおみ足を床に付けるわけには参りません」
「ジュン様」
「……わかったよ」
俺はしぶしぶその鬼に手を伸ばし、その腕の中に収まった。どういうわけか、すっぽりと収まってしまいキールの腕の中にいた時よりも落ち着くのが不思議だと思った。
「天使さま、私はカヤテと申します。そうお呼びください」
にっこりと笑んでいるのに目が笑っていない。腕の中は落ち着くのになんだかとても怖いと思った。
「あ、ああ……」
「カヤテ、何ぐずぐずしてやがる! とっとと連れてこい!」
「ひっ……!?」
部屋の奥から怒鳴り声がして、俺はびくっとしてしまった。
「はいはい。そんなに気が短いと嫌がられますよ。そういうことですから私が連れて行きますね」
カヤテはキールを待たず、俺を抱いて部屋の奥へと進んだ。
それはとてもでかく、恐ろしい顔をした鬼だった。
「天使さま、こちらが長様です。ご挨拶を」
「……は、はい。あ、あのぅ……」
抱き上げられたままでいいのだろうかと俺はカヤテを窺った。
「カヤテ、下ろしてやれ」
「嫌です」
長だという鬼が恐ろしい声で言ったが、カヤテは拒否した。この会話はなんなのだろうと俺は混乱した。
「あー……」
長はがしがしと頭を掻いた。
「まだ天使じゃねえんだよな?」
「は、はい……」
「なんか、世話係みたいなのがいんだろ? ソイツとこのカヤテがお前付きになる。なんかあったら他の奴に訴えろ。わかったな?」
「? はい……」
長がひらひらと手を振った。どうも下がれと言っているようだった。でもまだ挨拶もろくにしていないのに。
「長様、失礼します」
なのにカヤテは俺を抱いたまま踵を返そうとした。
「あ、あのっ! 俺、ジュンと言います! これからよろしくお願いします!」
一瞬怖さを忘れ、慌てて長に声をかけた。
「わかった。カヤテ、泣かせんじゃねーぞ」
「……保証はできかねますが、善処します」
善処しますって、結局聞く気がないってことだよな。俺は内心冷汗をかきながら、カヤテに抱かれたまま他の場所へ連れて行かれた。キールがその後を追いかけてきてくれたからほっとした。
「カヤテ殿、勝手なことをされては……」
「ここが天使さまの部屋です。天使さまの世話は基本そちらの聖職者殿と私で行います」
そう言いながらカヤテは俺を離してくれなかった。先ほどの部屋よりは狭いが、それでもかなりの広さがある部屋に通されたが、カヤテの腕からは下ろしてもらえない。とても困ってしまったのだけれど、もしかして鬼はこうしているのが当たり前なのだろうか。
それよりも「天使さま」と呼ばれていることを訂正しなくてはと思った。
「あのぅ……」
「なんでしょう?」
「俺は、その……まだ天使にはなっていないので……」
「ああ! そうでしたね。天使になられる前の候補の方をとろとろにして差し上げたくてお願いしたのでした」
「……え?」
今この鬼は何と言ったのか。
俺は顔を上げてカヤテを見た。笑んでいるのに、その目がとても怖い。
「我々鬼の中でも人を伴侶としたい者がいるのですよ。ですがどうしても手加減がうまくいきませんから……その練習も兼ねてジュン様をお呼びしたのです。もちろん天使になられましたら私の妻として末永く可愛がって差し上げますので」
この鬼は何を言っているのか。
「れ、練習って……」
「触れさせるだけです。触れて貴方をとろとろにして私たちなしではいられなくさせるのですよ。大丈夫、痛いことは絶対にしません。大事に大事にしますから……」
「そんな……」
どういうことなのだろう。ウイはどうしているんだろうか。
「あの、ウイは……」
カヤテは一瞬眉を寄せた。
「ジュン様が天使さまになられましたら会わせて差し上げましょう。天使さまは長に毎日甘く愛されて暮らしていますよ」
あの巨大な長に毎日?
俺は蒼褪めた。いくら天使だからってあんなにでかい鬼を受け入れても大丈夫なのだろうか。
「きっとジュン様も天使になればわかります。まずはお食事を。そして休まれてから、身体をほぐしていきましょうね」
「……え?」
「それとも怖いですか?」
揶揄するように言われてムッとした。
「こ、怖くなんてっ!」
「ならばいいですね?」
「も、もちろんっ……!」
視界の隅でキールがこめかみに指を当てているのが見えたが、口から出た言葉はもう戻らなかった。
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胡散臭い鬼が口八丁手八丁で囲い込んでいきます。なんて奴だ!(ぉぃ
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