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72.智紀、三学期をまったり過ごす

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 一月往ぬる二月逃げる三月去るという通り、三学期はなんか早いなと思う。
 中間テストがないからかもしれない。中間テストがないせいか緒方が調子こいているのだが稲村と山根にツッコまれていた。

「緒方~、期末しかないからちゃんと勉強しないとたいへんだよー?」
「稲村の言う通りだぞ」
「親みたいなこと言ってんじゃねーよ!」

 緒方もうまいこと言うなと思ったがそれは事実だ。

「……落第はさすがにしたくないな」

 ぼそっと呟くと、緒方はギギギと音が鳴るように首を動かして俺を見た。

「落第……」
「高校は義務教育じゃないから落第はありだろ? 前にも先生とか言ってなかったっけ?」
「あー! なんでこの世に勉強なんてものがあるんだー!」
「緒方うるさーい」

 稲村と山根が耳を塞ぐ。楽しそうで何よりだ。

「大林!」
「え?」

 矛先が何故かこっちにきた。

「稲村はお前のカレシだろう! 止めさせろ!」
「はい?」

 なんで稲村が俺のカレシ。つーかカレシってなんだ。俺も男なんだけど?
 稲村がどこから出したのかわからないハリセンで緒方をスパーンと叩いていた。けっこうでかい。いつ作ってたんだろう。後で作り方を教えてもらおう。

「いてえっ! 事実だろっ!」
「なんてこと言うんだよっ! トモ君は初心なんだからそういうこと勝手に言うなってのっ!」

 初心とかそういう問題じゃないと思う。

「カレシって……俺も稲村も男だろ?」
「男子校あるあるだっ!」
「あってたまるかっ!」

 とりあえずあほなことを言う緒方は軽くペシンと叩いておいた。

「いてっ!」

 視線を感じて窓の外を見たら、ピー太が近くの木の枝に留まっているのが見えた。まだ休み時間は5分残っている。窓を少しだけ開けるとピー太がトンットンッと入ってきた。

「ピー太」

 ピー太は何故かまっすぐ緒方に向かって飛ぶと、緒方をつつき始めた。

「うわっ! なんで俺がつつかれるんだー!?」

 みんなの目が冷たくなる。ピー太がつつくということは何か悪さをしたのかも? という風に考えてしまうからだろう。実際そうでなくてもピー太は気軽につつくんだけどな。つーかそんな気軽につつくなっての。

「ピー太、どうしたんだ? 止めろって」
「ピータッ、トモーノリー、イッショー!」
「ああ……窓の外にいたのに緒方の戯言が聞こえたのか……」

 山根がぼそっと呟く。とりあえずピー太に緒方をつつくのを止めさせ、また授業があるからと教室の外へ出てもらった。

「ピー太、そんなところに留まってたら寒いだろ? 見回りもいいけど、ほどほどにな」
「トモーノリー」
「うん。また後でなー」

 ピー太があんまりかわいくてにまにましてしまう。緒方のあほな発言についても、おかげでとっとと忘れてしまったのだった。
 三学期は特に行事らしい行事もなかった。
 新年度の部費も二学期のうちに決まっていたからそれほど切実さもない。でも寒さは敵だった。鳥たちが快適に過ごせるようにと、餌を補充したり小屋の様子や付けている暖房の確認は小まめに行った。
 今日ぐらいいいやってやらなかったら、凍死してしまうかもしれない。生き物を飼っているわけではないが、できるだけ快適に過ごさせてやりたかった。
 でも世話をするにあたってのルール決めはした。餌をあげたり暖房をつけてやったりしたけど、寿命には抗わないということだ。病院に連れて行ったりするのならば、個人的に飼うようにと言われた。きちんと鳥籠を用意し、部屋から出さないようにと嵐山さんには言われた。
 怪我については応相談だ。野生動物に襲われた場合や、自分で木にぶつかって怪我をしたりしたかどうかわからないからである。人に危害を加えられることも0ではない。何せ困ったことをする生徒をつついたりなんてことはしているのだから。逆恨みされてもしょうがないんだよな。逆恨みするぐらいならするなよってのが正論なんだけどさ。
 それは鳥たちも理解しているみたいで、スズメやカケスも見張りをつけているらしい。優秀である。
 飛山さんは嵐山さんの直属なのでユーリを見回りの為によく飛ばしている。

「つつくなって言ったってワルイコトしてるのを見逃したりできないよね~」

 嵐山さんがため息混じりに言っていた。なので俺たちも極力見回りには出ていた。
 ひょろ長先輩たちは、

「僕たち……」
「かなり……」
「……逞しく」

 体力がそれなりについたらしい。
 とはいえ、ひょろ長先輩のうち三年の金子先輩は卒業していった。卒業式には三人でわんわん泣いていたのが印象的だった。それぐらい楽しく過ごせたのだろう。

「……ピー太君、本当にありがとう。君のおかげで楽しく過ごせた。大林君も、仲間に入れてくれてありがとう」

 最後に金子先輩はそう言った。
 つーかアンタまともに話せたのかと絶句した。ピー太は俺の腕に留まってふんすとしていた。そんなことを当然だッとか言い出しそうである。かわいいけどふてぶてしい。
 二年の先輩たちももう少し口数を増やしてくれるそうだ。そうしてもらえると助かる。


 新学期はどうなるだろうか。新入部員が来てくれたらいいなとわくわくしたのだった。
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