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58.智紀、冬休みのことを考える
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親としては年末年始で国内旅行に行きたいらしい。もちろん俺も連れて。
それを聞いてげっと思った。
「……それは遠慮したい」
ちょっと会うだけなら、と返したらこれだった。親と旅行するぐらいならピー太と過ごしていたいというのが本音だ。今更家族旅行って歳でもないし。
「うーん……」
羽田空港でちょっと会って撤収してくるという方がいい気がする。というわけでまた国際電話はかかってきてしまったが、旅行は遠慮させてもらった。
「親が金出して旅行に行けるのなんて今だけじゃない! 一緒に行きましょうよ!」
「……こっち楽しいから遠慮させて」
すごい剣幕だったけどもう親離れしたってことにさせてほしかった。寮の入口の電話でしか国際電話は受けられないから嵐山さんにはしっかり聞こえていただろう。電話を切った後、
「大林君、後悔しないようにしてね」
とだけ声をかけられた。俺は頷くに留めて部屋へ戻った。
嵐山さんが言いたいことはわかるが、うるせえよという気持ちだ。
よっぽどヘンな顔をしていたのか、村西に「どうした?」と珍しく声をかけられてしまった。
「あー、うん……まぁ、親がさー……」
言葉を濁す。なんつーか、家庭の事情とか言うのもなんだかなぁと思う。
村西がここに来た事情はぼちぼち聞いている。あまり話す奴ではないが、話を総合すると弟たちが反抗期で一緒にいたくなかったのだという。元々仲がいい兄弟でもなく、弟たちは小学校高学年になってから生意気度が増し、村西が家にいるといちいち文句を言ってくるようになったそうだ。
それは確かにいづらいかもしれない。弟は二人いるらしく、双子らしい。今は中学二年生なのだという。二人して攻撃(口撃というのだろうか)してくるから、離れた方がいいと思ったらしい。
村西の方が家族のことでたいへんそうなのに、うちの家族の愚痴なんか言ってはいけないように思えたのだ。
「……愚痴ぐらいは聞くぞ。聞くだけだが」
村西の方がよっぽど大人である。
「聞いてくれるだけってのが一番いいって」
稲村もそうだけどみんな優しいよな。ニカッと笑ったらコツコツと窓を叩くような音がした。
「開けていいぞ」
「あんがと」
窓の外にいたのはピー太だった。なんか、愚痴を聞いてほしいなとか、ちょっと寂しいなと思った時に来てくれるのが嬉しい。ピー太って相当なイケメンなんじゃないだろうか。
「寒いからすぐ入れよー」
ピー太を入れて窓を閉める。さすがに開けておくのが寒い季節だ。
そんなわけで寒くなる前にピー太用のトイレとしてダンボールの箱を浅く切り、そこに新聞紙を敷いている。ピー太は必ずそこに飛んで行って用を足すからかなり頭がいいと思う。
たまにピコーがやってきて村西と仲良くしている。ピコーもピー太を真似てトイレに飛ぼうとするのだが、間に合わないことが多い。元々鳥にトイレの躾なんてできると思っていないから、村西もにこにこしながら掃除している。ベッドにはフンをされないからそれでいいのだ。
「ピー太、聞いてくれよ~」
ピー太は俺の腕に移動してコキャッと首を傾げた。この首を傾げる姿がたまらなくかわいいんだよな。
「うちの親がさー、俺も一緒に旅行に行きたいとか言うんだよ。でも絶対一泊じゃ終わらないし、弟は生意気だから絶対喧嘩になると思うんだよな。だから空港で少し会えたらって思ったんだけど文句言われてさー……」
別に会わないって言ってるわけじゃないんだからいいじゃないかなーとピー太に愚痴を聞いてもらった。ピー太はコキャッと首を傾げたり、羽づくろいしたりしていた。なんでこう羽づくろいをしているピー太はかわいいんだろう。インコの首ってどこまで曲がるんだよいったい。
ピー太は俺にすりっとすると暗くなる前に帰っていった。夜もここで過ごしてもいいと思うんだけどな。
明日の朝はまた暖房の確認とかしに行こう。一応布は何枚も置いてきてあるが、やはり心配ではある。
「……大林もたいへんだな」
「うん、まぁな……」
村西のその一言で不満が少し解消された気がした。聞かせてごめん。
とりあえずは期末テストだ。これをパスしないと始まらない。
そして相変わらず緒方がうるさい。
「緒方ってさ、勉強しないの? それともできないの?」
稲村がなかなかに毒舌だ。
「したくないんだっ!」
「ってことはやればできるの?」
「失礼なっ!」
山根はそっぽを向いていたが、笑いをこらえているのがわかる。俺もそっぽを向いた。
「やればできるならやろうよー。また補習とかやじゃない?」
「嫌に決まってるだろう!」
「赤点いくつもあると部活に参加できなくなるんじゃなかったっけ?」
「俺からバスケを取ったら何が残るっていうんだああああ!」
なんか会話がかみ合っているようでかみ合っていない。
「バスケ部の先輩たちと勉強会みたいなのはしないのか?」
疑問に思って聞いてみた。
「……んなものあるわけないだろ」
そのワリには談話室を通りかかるとよく姿を見かけるけど。多分一緒にいる奴らはバスケ部の連中だよな?
ま、いっかと考えないことにした。
俺のことじゃないし。
それを聞いてげっと思った。
「……それは遠慮したい」
ちょっと会うだけなら、と返したらこれだった。親と旅行するぐらいならピー太と過ごしていたいというのが本音だ。今更家族旅行って歳でもないし。
「うーん……」
羽田空港でちょっと会って撤収してくるという方がいい気がする。というわけでまた国際電話はかかってきてしまったが、旅行は遠慮させてもらった。
「親が金出して旅行に行けるのなんて今だけじゃない! 一緒に行きましょうよ!」
「……こっち楽しいから遠慮させて」
すごい剣幕だったけどもう親離れしたってことにさせてほしかった。寮の入口の電話でしか国際電話は受けられないから嵐山さんにはしっかり聞こえていただろう。電話を切った後、
「大林君、後悔しないようにしてね」
とだけ声をかけられた。俺は頷くに留めて部屋へ戻った。
嵐山さんが言いたいことはわかるが、うるせえよという気持ちだ。
よっぽどヘンな顔をしていたのか、村西に「どうした?」と珍しく声をかけられてしまった。
「あー、うん……まぁ、親がさー……」
言葉を濁す。なんつーか、家庭の事情とか言うのもなんだかなぁと思う。
村西がここに来た事情はぼちぼち聞いている。あまり話す奴ではないが、話を総合すると弟たちが反抗期で一緒にいたくなかったのだという。元々仲がいい兄弟でもなく、弟たちは小学校高学年になってから生意気度が増し、村西が家にいるといちいち文句を言ってくるようになったそうだ。
それは確かにいづらいかもしれない。弟は二人いるらしく、双子らしい。今は中学二年生なのだという。二人して攻撃(口撃というのだろうか)してくるから、離れた方がいいと思ったらしい。
村西の方が家族のことでたいへんそうなのに、うちの家族の愚痴なんか言ってはいけないように思えたのだ。
「……愚痴ぐらいは聞くぞ。聞くだけだが」
村西の方がよっぽど大人である。
「聞いてくれるだけってのが一番いいって」
稲村もそうだけどみんな優しいよな。ニカッと笑ったらコツコツと窓を叩くような音がした。
「開けていいぞ」
「あんがと」
窓の外にいたのはピー太だった。なんか、愚痴を聞いてほしいなとか、ちょっと寂しいなと思った時に来てくれるのが嬉しい。ピー太って相当なイケメンなんじゃないだろうか。
「寒いからすぐ入れよー」
ピー太を入れて窓を閉める。さすがに開けておくのが寒い季節だ。
そんなわけで寒くなる前にピー太用のトイレとしてダンボールの箱を浅く切り、そこに新聞紙を敷いている。ピー太は必ずそこに飛んで行って用を足すからかなり頭がいいと思う。
たまにピコーがやってきて村西と仲良くしている。ピコーもピー太を真似てトイレに飛ぼうとするのだが、間に合わないことが多い。元々鳥にトイレの躾なんてできると思っていないから、村西もにこにこしながら掃除している。ベッドにはフンをされないからそれでいいのだ。
「ピー太、聞いてくれよ~」
ピー太は俺の腕に移動してコキャッと首を傾げた。この首を傾げる姿がたまらなくかわいいんだよな。
「うちの親がさー、俺も一緒に旅行に行きたいとか言うんだよ。でも絶対一泊じゃ終わらないし、弟は生意気だから絶対喧嘩になると思うんだよな。だから空港で少し会えたらって思ったんだけど文句言われてさー……」
別に会わないって言ってるわけじゃないんだからいいじゃないかなーとピー太に愚痴を聞いてもらった。ピー太はコキャッと首を傾げたり、羽づくろいしたりしていた。なんでこう羽づくろいをしているピー太はかわいいんだろう。インコの首ってどこまで曲がるんだよいったい。
ピー太は俺にすりっとすると暗くなる前に帰っていった。夜もここで過ごしてもいいと思うんだけどな。
明日の朝はまた暖房の確認とかしに行こう。一応布は何枚も置いてきてあるが、やはり心配ではある。
「……大林もたいへんだな」
「うん、まぁな……」
村西のその一言で不満が少し解消された気がした。聞かせてごめん。
とりあえずは期末テストだ。これをパスしないと始まらない。
そして相変わらず緒方がうるさい。
「緒方ってさ、勉強しないの? それともできないの?」
稲村がなかなかに毒舌だ。
「したくないんだっ!」
「ってことはやればできるの?」
「失礼なっ!」
山根はそっぽを向いていたが、笑いをこらえているのがわかる。俺もそっぽを向いた。
「やればできるならやろうよー。また補習とかやじゃない?」
「嫌に決まってるだろう!」
「赤点いくつもあると部活に参加できなくなるんじゃなかったっけ?」
「俺からバスケを取ったら何が残るっていうんだああああ!」
なんか会話がかみ合っているようでかみ合っていない。
「バスケ部の先輩たちと勉強会みたいなのはしないのか?」
疑問に思って聞いてみた。
「……んなものあるわけないだろ」
そのワリには談話室を通りかかるとよく姿を見かけるけど。多分一緒にいる奴らはバスケ部の連中だよな?
ま、いっかと考えないことにした。
俺のことじゃないし。
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