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37.どうしてこうなったのか教えてほしい
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いくら思いっきりとはいえ、頬を張られただけで失神するとかどうなんだ?
頭はぐらぐらしたが一応十分程度で復帰したらしい。生きててよかった。
目が覚めた時、猫紙と美鈴が俺の顔をとても心配そうな顔で覗き込んでいた。とりあえず猫紙は邪魔だったので顔を押しやり、美鈴にキスをした。
で、両頬を思いっきり引っ張られた。
「みへいっ! ひはひっ、ひはひっへっ!」
「この大馬鹿者ぉっ! なんでアンタまで死んじゃうのよぉおっ!」
そう叫んだ美鈴の目にぶわっと涙が浮かんだ。そしてそれが、滂沱という表現よろしく流れ落ちてきた。俺の顔中に落ちてきた涙の雨が、美鈴の心情を表しているようでひどく胸が痛んだ。
そういえば、美鈴は間違って死んでこちらの世界に来て、俺のことをずっと案じていたって聞いた。
「みへひっ! みへひっ!」
俺は両手を伸ばして美鈴を力いっぱい抱きしめた。
俺には美鈴しかいなかった。だから異世界に飛ばされなくたってどちらにせよどっかで事故って死んでいたはずだ。
「ばかばかばかばかっ! なんでよぉおっ、ひぃいーーんっ、わぁあーーーんっ、あぁーーっ!」
美鈴が子どもみたいに泣く。俺はろくでもない男だったけど、美鈴が俺の前でこんな風に泣くのを今まで見たことはなかった。
「みへひっ、みへひっ、ほへんっ! へほっ……!」(ごめんっ! でもっ)
いいかげん頬を引っ張るのを止めてほしい。
美鈴は泣くだけ泣くと、ぐすぐすと鼻を啜った。そうしてやっと俺の頬を解放してくれた。すごく痛いし熱い気がするから、きっと俺の頬は真っ赤になっているに違いない。でもそんなことはどうでもいいのだ。大切なのは美鈴が今俺の腕の中にいることだった。
「みれい……」
「鼻水、かみたい……」
本当に締まらねえなと思った。とりあえず美鈴を離して、鼻をぢーん! とかんでもらった。
「この世界の紙固い。鼻痛い……」
美鈴が機嫌悪そうに呟いた。確かに鼻が赤くなっていた。柔らかいティッシュがあるといいよな。
猫紙がトンッと俺が寝かされている床の上に上がった。
「落ち着いたかのぅ……。あやつらが随分困っている様子じゃが」
「え?」
「ええ?」
猫紙が頭を動かした方向を見ると、衛士たちがバツの悪そうな顔で部屋の外からこちらを覗いていた。
「あー……ええと……場所を移しましょうか? って、今竜樹はどちらでお世話になっているの?」
「あ、今はヨウシュウ商会に……」
「とりあえずここを出ましょ? 竜樹、立てる?」
「うん……」
美鈴が床を下りる。俺も彼女のように下りようとしたのだが、さっき頬を張られて脳が揺れたせいなのかくらりとした。
「竜樹っ!?」
美鈴がすぐに気づいて俺を支えた。そして俺を一度床に座らせたかと思うと、それから抱き上げた。
「はぁっ!?」
「危ないから動かないでっ! さぁ、行くわよっ!」
どゆこと? なんで俺美鈴に抱き上げられてるワケ? 俺実はヒーローじゃなくてヒロインだったのかっ?
混乱した頭のまま俺は美鈴に抱かれて移動することになった。さすがにあの狭い階段では下ろしてくれるかと思ったのに、美鈴は当たり前のように二階から一階に跳んだ。そして堂々と王子の宮の扉から表へ出た。
「み、美鈴……あの、そろそろ……」
「なぁに?」
下ろしてほしいなーと思ったけど、にーっこり笑んで聞き返され、俺は黙った。だって目が笑ってないいいい。美鈴さん怖すぎです。猫紙様どうにかしてっ!
〈……無理じゃの〉
〈そんなああああ!〉
足元にいた猫紙に拒否られたああああ!
「み、美鈴っ! 私はそなたをっ……!」
ん? 誰だ? と思ったら、衛士たちに身柄を拘束されているらしい王子がいた。うお、まだここにいたのか。ってここが王子の宮だっけ。
「フン王子、私の伴侶が迎えにきてくれたのでこれで失礼します。お世話になりました」
美鈴は目が笑っていない笑顔を王子に向けると、俺を抱いたまま王子の横を通り過ぎた。
「美鈴っ、伴侶だとっ!? わ、私は認めんぞっ! そんなっ、そなたに抱かれているような弱き者などっ!」
だよなぁと俺自身も自分の情けなさに涙がちょちょ切れそうだ。でも俺泣かないっ! だって男の子だもんっ!
美鈴が門を出る手前で足を止めた。そしてゆっくりと振り返る。
「私の伴侶は私が決めます。私の伴侶は竜樹しかいない。王子、貴方は違うのです」
「いいやっ、私は運命に抗ってみせるっ!」
「さようなら」
「美鈴っ!」
王子の叫びを背にして、美鈴は俺を抱いたまま宮の門を出た。
「美鈴様、王子ともあろう者が貴方を監禁したことをお詫びいたします」
厳つい人が膝を付き、頭を石畳に付けた。え? これってもしかして叩頭ってやつ?
「……お詫びっていったい何がいただけるのかしら? そんなことよりも早く王城を出たいわ。竜樹、ヨウシュウ商会の人はどこにいるの?」
「……え? さっきは……謁見の間みたいなところにいたけど……」
「失礼ながら、パンズ殿はすでに王城を出る準備をしていらっしゃいます」
衛士の一人が膝をついて教えてくれた。
「ならそちらへ案内してくれる?」
「はっ!」
ところで、俺はいつまでこの状態でいればいいんでしょうか。なんでそれなりの重さがあるはずの俺を、美鈴は軽々と抱き上げているんだとかいろいろツッコミどころはあるのだが、頼むからいいかげん下ろしてほしかった。
「み、美鈴、そろそろさ……俺……」
「なぁに?」
「な、なんでもない、デス……」
美鈴が怖いよー。
俺はそのままパンズと合流するまで抱き上げられて王城内を移動した。もうなんつーか、SAN値がごりごり削られるかんじだった。
美鈴さん、いいかげん下ろしてえっ!
ーーーーー
SAN値 正気度を表すパラメーター(あるゲームで使われいたパラメーターである。竜樹もやってた)
頭はぐらぐらしたが一応十分程度で復帰したらしい。生きててよかった。
目が覚めた時、猫紙と美鈴が俺の顔をとても心配そうな顔で覗き込んでいた。とりあえず猫紙は邪魔だったので顔を押しやり、美鈴にキスをした。
で、両頬を思いっきり引っ張られた。
「みへいっ! ひはひっ、ひはひっへっ!」
「この大馬鹿者ぉっ! なんでアンタまで死んじゃうのよぉおっ!」
そう叫んだ美鈴の目にぶわっと涙が浮かんだ。そしてそれが、滂沱という表現よろしく流れ落ちてきた。俺の顔中に落ちてきた涙の雨が、美鈴の心情を表しているようでひどく胸が痛んだ。
そういえば、美鈴は間違って死んでこちらの世界に来て、俺のことをずっと案じていたって聞いた。
「みへひっ! みへひっ!」
俺は両手を伸ばして美鈴を力いっぱい抱きしめた。
俺には美鈴しかいなかった。だから異世界に飛ばされなくたってどちらにせよどっかで事故って死んでいたはずだ。
「ばかばかばかばかっ! なんでよぉおっ、ひぃいーーんっ、わぁあーーーんっ、あぁーーっ!」
美鈴が子どもみたいに泣く。俺はろくでもない男だったけど、美鈴が俺の前でこんな風に泣くのを今まで見たことはなかった。
「みへひっ、みへひっ、ほへんっ! へほっ……!」(ごめんっ! でもっ)
いいかげん頬を引っ張るのを止めてほしい。
美鈴は泣くだけ泣くと、ぐすぐすと鼻を啜った。そうしてやっと俺の頬を解放してくれた。すごく痛いし熱い気がするから、きっと俺の頬は真っ赤になっているに違いない。でもそんなことはどうでもいいのだ。大切なのは美鈴が今俺の腕の中にいることだった。
「みれい……」
「鼻水、かみたい……」
本当に締まらねえなと思った。とりあえず美鈴を離して、鼻をぢーん! とかんでもらった。
「この世界の紙固い。鼻痛い……」
美鈴が機嫌悪そうに呟いた。確かに鼻が赤くなっていた。柔らかいティッシュがあるといいよな。
猫紙がトンッと俺が寝かされている床の上に上がった。
「落ち着いたかのぅ……。あやつらが随分困っている様子じゃが」
「え?」
「ええ?」
猫紙が頭を動かした方向を見ると、衛士たちがバツの悪そうな顔で部屋の外からこちらを覗いていた。
「あー……ええと……場所を移しましょうか? って、今竜樹はどちらでお世話になっているの?」
「あ、今はヨウシュウ商会に……」
「とりあえずここを出ましょ? 竜樹、立てる?」
「うん……」
美鈴が床を下りる。俺も彼女のように下りようとしたのだが、さっき頬を張られて脳が揺れたせいなのかくらりとした。
「竜樹っ!?」
美鈴がすぐに気づいて俺を支えた。そして俺を一度床に座らせたかと思うと、それから抱き上げた。
「はぁっ!?」
「危ないから動かないでっ! さぁ、行くわよっ!」
どゆこと? なんで俺美鈴に抱き上げられてるワケ? 俺実はヒーローじゃなくてヒロインだったのかっ?
混乱した頭のまま俺は美鈴に抱かれて移動することになった。さすがにあの狭い階段では下ろしてくれるかと思ったのに、美鈴は当たり前のように二階から一階に跳んだ。そして堂々と王子の宮の扉から表へ出た。
「み、美鈴……あの、そろそろ……」
「なぁに?」
下ろしてほしいなーと思ったけど、にーっこり笑んで聞き返され、俺は黙った。だって目が笑ってないいいい。美鈴さん怖すぎです。猫紙様どうにかしてっ!
〈……無理じゃの〉
〈そんなああああ!〉
足元にいた猫紙に拒否られたああああ!
「み、美鈴っ! 私はそなたをっ……!」
ん? 誰だ? と思ったら、衛士たちに身柄を拘束されているらしい王子がいた。うお、まだここにいたのか。ってここが王子の宮だっけ。
「フン王子、私の伴侶が迎えにきてくれたのでこれで失礼します。お世話になりました」
美鈴は目が笑っていない笑顔を王子に向けると、俺を抱いたまま王子の横を通り過ぎた。
「美鈴っ、伴侶だとっ!? わ、私は認めんぞっ! そんなっ、そなたに抱かれているような弱き者などっ!」
だよなぁと俺自身も自分の情けなさに涙がちょちょ切れそうだ。でも俺泣かないっ! だって男の子だもんっ!
美鈴が門を出る手前で足を止めた。そしてゆっくりと振り返る。
「私の伴侶は私が決めます。私の伴侶は竜樹しかいない。王子、貴方は違うのです」
「いいやっ、私は運命に抗ってみせるっ!」
「さようなら」
「美鈴っ!」
王子の叫びを背にして、美鈴は俺を抱いたまま宮の門を出た。
「美鈴様、王子ともあろう者が貴方を監禁したことをお詫びいたします」
厳つい人が膝を付き、頭を石畳に付けた。え? これってもしかして叩頭ってやつ?
「……お詫びっていったい何がいただけるのかしら? そんなことよりも早く王城を出たいわ。竜樹、ヨウシュウ商会の人はどこにいるの?」
「……え? さっきは……謁見の間みたいなところにいたけど……」
「失礼ながら、パンズ殿はすでに王城を出る準備をしていらっしゃいます」
衛士の一人が膝をついて教えてくれた。
「ならそちらへ案内してくれる?」
「はっ!」
ところで、俺はいつまでこの状態でいればいいんでしょうか。なんでそれなりの重さがあるはずの俺を、美鈴は軽々と抱き上げているんだとかいろいろツッコミどころはあるのだが、頼むからいいかげん下ろしてほしかった。
「み、美鈴、そろそろさ……俺……」
「なぁに?」
「な、なんでもない、デス……」
美鈴が怖いよー。
俺はそのままパンズと合流するまで抱き上げられて王城内を移動した。もうなんつーか、SAN値がごりごり削られるかんじだった。
美鈴さん、いいかげん下ろしてえっ!
ーーーーー
SAN値 正気度を表すパラメーター(あるゲームで使われいたパラメーターである。竜樹もやってた)
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