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無人駅
おじさん
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「それは黒ユリですよね?」
私は露骨に嫌な顔をした。
確かに、黒ユリを不気味な花言葉で意味もなく嫌うのは間違いだとは思います。
が、良い意味と言っても、恋の告白の伝説をもつ花を、知らないおじさんに渡されるのだって、私からしたらホラーでしかありません。
嫌な顔で察して欲しかったのです。
おじさんは私の顔を見て理解したように黒ユリを引っ込めた。
「言っておくけど、許可をもらって雑草の中から一輪咲いていたのを、つみ取った花だから。
珍しい花なんだけれど…そうだね、黒ユリの花言葉は『復讐』こちらのほうが有名なんだね。
でも、この花は『恋』と言う花言葉も持ってるんだ。」
おじさんは、言い訳がましくそう言いました。
私は笑って頷きながら、それよりも小説を完結したいとヤキモキしていました。
あと少しで物語が完成するのです。
知らないおじさんにかまっている暇なんて無いんです。
私はスマホに視線を戻したとき、おじさんもスマホで黒ユリの検索をはじめました。
「黒ユリ…花言葉は『呪い』。君はこの花言葉を連想したんだね。
黒ユリの花を『呪い』のイメージで染めたのは、信州の戦国武将だったね。
彼は 美しい側室の不義を疑って、側室とその一族をころしてしまう。
罪もなく殺された女は、男に呪いの言葉をかける。
立山に黒ユリが咲いたら、家が滅ぶ…と。
でも、そんな伝説は嘘だと思うのですよ。
私は、やはり、アイヌの恋の言い伝えがこの花に似合っていると思うのです。」
おじさんは、国語の先生のように低く響く穏やかな声で私に話しかけました。
私は小説を書く気力を無くしてしまいました。
あと数分もすれば電車が来てしまいます。
私は、チャンスを掴み損なったのでした。
「恋の花…ですか。
でも、黒ユリってくさいんですよね。
外国では、便所花なんて呼ばれているんですよ。
黒ユリが受粉に呼ぶのはハエだって聞いたことがありますもの。
漫画なら、蝿の王、ベルゼブブとの恋愛ものでヒットするかもしれませんけど。」
おじさんに絡まれて嫌味ったらしく言ってしまいましたが、
しまった。と、思いながら私は立ち上がりました。
蝿の王とか、漫画とか、まるでオタクだと自己紹介しているように感じたからです。
どちらにしても、私はホームへと向かうことにしていました。
もうすぐ、電車が来るのです。
知らないおじさんの相手なんて、する義務は私にはありません。
立ち上がり、バックを持ったとき、あのピンクのガラケーが床に転がり落ちました。
それを私は拾おうとして、おじさんに腕を捕まれたのです。
おじさんは、荒々しく私の腕に掴みかかる手とは違う穏やかな通る声で
「この携帯はどうしたの?」
と聞いてきました。
「落とし物です。これから車掌さんに届けます。」
私は恐怖で心臓をバクバクさせながら、それでも必死で睨み付けて携帯を拾い上げ、ホームへと向かいました。
本当は走って逃げたいところですが、そんなことをして逆上されたら。
私は、そう考えると背中に汗が流れて行くのを感じました。
おじさんは、自分の荷物を担ぎ、私に近づいてきます。
ホームの長さは200メートルはあるとおもうのですが、日頃は長く感じるホームも、近づく不審者を前にしては、金魚鉢の魚のような心もとさを感じてしまうのです。
「ま、まって、その携帯、もしかしたら、僕のものかもしれない。」
「うそっ。ピンクの携帯なんて、おじさんがもつわけないでしょ。」
心拍数が上がり、夏の日差しのなかで私は真っ赤になって叫びました。
あと数分、
そうしたら、電車が到着するのです。
おじさんだって襲いかかったりはしない、私は勇気をふり絞り睨み付けたのです。
おじさんは目を大きく見開いて私を見て、それから、大笑いをしたのです。
「あ、すまない。確かに、僕が使っていた携帯じゃない。
それは、僕の恋人のものなんだ。」
おじさんの声が少し粗っぽくなるのを感じて私は後ろにひきました。
あと少し…
電車が来るまで何とかしようと私は自分を励ましました。
長い、ながい数分が私たちを包みます。
「とにかく、車掌さんに携帯を渡すので、そちらで話をして下さい。」
「そんな面倒な事をしなくても、僕の彼女の携帯なんだよ?」
おじさんの執拗な携帯への執着に疑惑が湧いてきます。
「そんな事、知りません。私は車掌さんに渡します。」
私は思わず喧嘩腰に叫び、携帯をバックにしまう。
次の瞬間、おじさんは、穏やかな仮面を剥いで本性を現したように私に掴みかかってきたのです。
力の限り叫びました。
私は、抵抗も虚しくホームに倒されて両手を捕まれたまま馬乗りにされたのです。
その時、バックの中身が飛び散ったと思いますが、私も、おじさんも構っていません。
おじさんは、私の叫び声に興奮したように私の両手をコンクリートに押し付けながら
熱に浮かされたように何かを叫んでいました。
き…だったのに。
すきだったのに。
好きだったのに。
私は、オジサンの顔の汗を顔面に受けながら、
無人駅と言う言葉の意味を恐怖と共に腹の底から味わいながら、私はただ、ただ、壊れた人形のように叫びあげていました。
昼間の駅のホームだと言うのに、
ホームに仰向けに倒されて、男に馬乗りにされ、
声の限りに叫んでも、それは夏の日差しのように、静かに駅の風景に飲み込まれて行くのです。
人がいない駅と書いて
無人駅…
私は、ここで理不尽に殺される自分の未来が見えた気がしました。
私は露骨に嫌な顔をした。
確かに、黒ユリを不気味な花言葉で意味もなく嫌うのは間違いだとは思います。
が、良い意味と言っても、恋の告白の伝説をもつ花を、知らないおじさんに渡されるのだって、私からしたらホラーでしかありません。
嫌な顔で察して欲しかったのです。
おじさんは私の顔を見て理解したように黒ユリを引っ込めた。
「言っておくけど、許可をもらって雑草の中から一輪咲いていたのを、つみ取った花だから。
珍しい花なんだけれど…そうだね、黒ユリの花言葉は『復讐』こちらのほうが有名なんだね。
でも、この花は『恋』と言う花言葉も持ってるんだ。」
おじさんは、言い訳がましくそう言いました。
私は笑って頷きながら、それよりも小説を完結したいとヤキモキしていました。
あと少しで物語が完成するのです。
知らないおじさんにかまっている暇なんて無いんです。
私はスマホに視線を戻したとき、おじさんもスマホで黒ユリの検索をはじめました。
「黒ユリ…花言葉は『呪い』。君はこの花言葉を連想したんだね。
黒ユリの花を『呪い』のイメージで染めたのは、信州の戦国武将だったね。
彼は 美しい側室の不義を疑って、側室とその一族をころしてしまう。
罪もなく殺された女は、男に呪いの言葉をかける。
立山に黒ユリが咲いたら、家が滅ぶ…と。
でも、そんな伝説は嘘だと思うのですよ。
私は、やはり、アイヌの恋の言い伝えがこの花に似合っていると思うのです。」
おじさんは、国語の先生のように低く響く穏やかな声で私に話しかけました。
私は小説を書く気力を無くしてしまいました。
あと数分もすれば電車が来てしまいます。
私は、チャンスを掴み損なったのでした。
「恋の花…ですか。
でも、黒ユリってくさいんですよね。
外国では、便所花なんて呼ばれているんですよ。
黒ユリが受粉に呼ぶのはハエだって聞いたことがありますもの。
漫画なら、蝿の王、ベルゼブブとの恋愛ものでヒットするかもしれませんけど。」
おじさんに絡まれて嫌味ったらしく言ってしまいましたが、
しまった。と、思いながら私は立ち上がりました。
蝿の王とか、漫画とか、まるでオタクだと自己紹介しているように感じたからです。
どちらにしても、私はホームへと向かうことにしていました。
もうすぐ、電車が来るのです。
知らないおじさんの相手なんて、する義務は私にはありません。
立ち上がり、バックを持ったとき、あのピンクのガラケーが床に転がり落ちました。
それを私は拾おうとして、おじさんに腕を捕まれたのです。
おじさんは、荒々しく私の腕に掴みかかる手とは違う穏やかな通る声で
「この携帯はどうしたの?」
と聞いてきました。
「落とし物です。これから車掌さんに届けます。」
私は恐怖で心臓をバクバクさせながら、それでも必死で睨み付けて携帯を拾い上げ、ホームへと向かいました。
本当は走って逃げたいところですが、そんなことをして逆上されたら。
私は、そう考えると背中に汗が流れて行くのを感じました。
おじさんは、自分の荷物を担ぎ、私に近づいてきます。
ホームの長さは200メートルはあるとおもうのですが、日頃は長く感じるホームも、近づく不審者を前にしては、金魚鉢の魚のような心もとさを感じてしまうのです。
「ま、まって、その携帯、もしかしたら、僕のものかもしれない。」
「うそっ。ピンクの携帯なんて、おじさんがもつわけないでしょ。」
心拍数が上がり、夏の日差しのなかで私は真っ赤になって叫びました。
あと数分、
そうしたら、電車が到着するのです。
おじさんだって襲いかかったりはしない、私は勇気をふり絞り睨み付けたのです。
おじさんは目を大きく見開いて私を見て、それから、大笑いをしたのです。
「あ、すまない。確かに、僕が使っていた携帯じゃない。
それは、僕の恋人のものなんだ。」
おじさんの声が少し粗っぽくなるのを感じて私は後ろにひきました。
あと少し…
電車が来るまで何とかしようと私は自分を励ましました。
長い、ながい数分が私たちを包みます。
「とにかく、車掌さんに携帯を渡すので、そちらで話をして下さい。」
「そんな面倒な事をしなくても、僕の彼女の携帯なんだよ?」
おじさんの執拗な携帯への執着に疑惑が湧いてきます。
「そんな事、知りません。私は車掌さんに渡します。」
私は思わず喧嘩腰に叫び、携帯をバックにしまう。
次の瞬間、おじさんは、穏やかな仮面を剥いで本性を現したように私に掴みかかってきたのです。
力の限り叫びました。
私は、抵抗も虚しくホームに倒されて両手を捕まれたまま馬乗りにされたのです。
その時、バックの中身が飛び散ったと思いますが、私も、おじさんも構っていません。
おじさんは、私の叫び声に興奮したように私の両手をコンクリートに押し付けながら
熱に浮かされたように何かを叫んでいました。
き…だったのに。
すきだったのに。
好きだったのに。
私は、オジサンの顔の汗を顔面に受けながら、
無人駅と言う言葉の意味を恐怖と共に腹の底から味わいながら、私はただ、ただ、壊れた人形のように叫びあげていました。
昼間の駅のホームだと言うのに、
ホームに仰向けに倒されて、男に馬乗りにされ、
声の限りに叫んでも、それは夏の日差しのように、静かに駅の風景に飲み込まれて行くのです。
人がいない駅と書いて
無人駅…
私は、ここで理不尽に殺される自分の未来が見えた気がしました。
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