夏の夜話 短編集

のーまじん

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男同士

オフライン

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  久しぶりの東京だった…正確には千葉だけど、北陸の田舎からやって来た我々には同じようなものだ。

  私には連れがいる。
  連れ…と言うか、グループのメンバーで、一応、代表者、であるが。

  私は駅の改札から私を追ってきた少し太めの中年男を観察する。
  奴の名前は『ゴロウ』ネットではそう呼ばれていた。
  中年独身。気ままな男だ。

  「ふぅ。やっとついたね。」
ゴロウは、のっそり…と私のところへ来てぼやいた。
「でしょ?黄色い電車に乗って正解でしょ?」
私は秋葉原駅からの言い合いを思い出して、どや顔をした。
「そうだね。ちゃんと着いたね。」
ゴロウは笑った。
「全く…東京駅まで行ったら駄目だったでしょ?
  黄色い電車に乗らないといけないのよ。」
私は、とり憑かれたように東京駅を目指そうとして文句を言ってきたゴロウを見つめた。

  やはり、ここからはタクシーで向かうしかないか。
  携帯のメールを見つめた。
  それはオフラインミーティングの招待状だった。
  私とゴロウはネットで小説を書いていた。
  今日は…恥ずかしながら初のファンミーティング。
  千葉の某所の小さな喫茶店が会場である。

  会場と言っても…たぶん、その小さな喫茶店のテーブル1つ埋まるかどうか、だとは思うが。

  「山田さんは、本当に東京に来たことがあるんだね。」
ゴロウは、少し納得したように笑った。
「千葉よ、千葉!ここはね。で、私の今日の名前は『アキコ』アキコなんだからっ。」
私は初のオフラインミーティングに緊張しながら文句を言う。

  初対面なのだ。
  確かに、5年…ネットで小説を書きはじめてからずっと、ファンでいてくれた人だとしても。
  個人情報は、極力教えたくはない。

「アキコ…なんか、変な感じ。」
ゴロウは難しい顔をし、私を不安にさせた。
  その時、ポケットでスマホが鳴り、慌てる私に知らない中年男性が声をかけてきた。

  「失礼ですが、アキコさん…でしょうか?」


  その男は、50代を越えているだろうか?
  細身の長身の男で、ロマンスグレーと言う言葉が似合う短い髪を撫で付けていた。

  「はい…あきこ…はい、私がそうです。」
私は少し赤面しながら早口で言った。

  ネットでの名を…リアルな世界で発した事と、日頃の閲覧数やいいねが、ちゃんと人がくれたものだった事に興奮しながら。

「そうですか…ああ。申し遅れました。
  私が『ガニメデ』です。今日は宜しくお願いします。」
ルートと名乗った人物は、とても親しげな笑顔を向ける。
「はい。ありがとうございます。あの、この人が…メンバーの『ゴロウ』です。」
私の言葉にゴロウは反応しなかった。腕を引っ張っられて奴は自分がゴロウだと思い出し、頭をかきながら軽く会釈をした。
  ルートは、そんなゴロウに楽しそうに挨拶をして、それから、思い出したように我々を急かせた。

  「すいません。車できているので、急いでもらってもよろしいですか?」
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