夏の夜話 短編集

のーまじん

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貧乏神と私

ビギナーズラック

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 ビギナーズラック。

 賭けなどで、初心者がバカ勝ちする事を言う。

 これはフリマにもある。
 多分、はじめに集める不用品は、フリマ慣れせずに新鮮に客にうつるからかもしれない。

 それは私も同じだった。
 私は、タオルで悠々と3000円を手にした。

 大したこと無いように見えるだろうが、3000円はでかい。
 フリマは地方イベントのはしっこで行われていたために、イベントを特等席で見て、不用品を売った金で飲み食いできる…
 楽しいイベントだった。
 皆、個人で購入するときは、100円とか、気軽に出してくれるから、web小説を売るのも甘く考えることになる。

 まあ、それはともかく、初回の私は、とても機嫌が良かった。
 母の遺物を片付ける道が見えたからだ。

 生前、母が楽しませてもらったフリマに、母の宝物を返す…
 それが一番スッキリする解決方法に思えた。

 剛は、はじめは客として来た。
 客…というか、ひやかしなんだけれど、イベントの勢いと、儲かってテンションが上がっていた私は、フリマ終わりの反省会件、昼飯に剛を誘った。

 剛は、土木関係の仕事をしていて、数年前にリストラされてからフリーになり、両親がいるので、こずかいも小学生並みでやりくりしていた。

 剛は、屈託なく何でも話した。
 私は、剛に貧乏で友達も出来ないと家族に八つ当たりしていた父を見た。

 父にも…私のように声をかける友人がいたら、家は穏やかだったに違いない…

 なんて、思ってしまい、そんな事を言ったのだ。



 我々は、良くあるハンバーガーチェーンに行くことにした。

 剛は、嬉しそうにそれに従い、当時、ワンコインだったハンバーガーとコーヒーを買っていた。

 「もっと、いいもの頼めばいいじゃん。」
私は、年上の剛に強気でそう言った。

 が、剛は、少し、疑わしそうにそれを断った。

 「俺、こんな所、始めてきたから、これでいい。」
40代の剛は、サラリとぶっ飛んだ告白をした。

「はぁ?来たこと無いって…地元にも出来たじゃん。
 もう、10年はたってるよね?」
私が驚いて聞くと、
「うちで3食食べるから。」
と、40代らしい全うな答えが返ってきた。


 皆でテーブルを囲み、
 私は、紗耶香ちゃんの叔母、萩原さんと話していた。

 萩原さんは、同い年で数少ない独身仲間になっていた。

 私と萩原さんは、熱心にフリマの話をした。

 元は、萩原さんがフリマ好きで、紗耶香ちゃんがそれに付き合った形のようだ。

 「ね、面白かったでしょ?」
萩原さんは、嬉しそうに話しかける。
「うん。思ったより簡単だったし、楽しかったです。」
私は感謝を込めてそう言った。
 私が簡単にフリマが出来たのは、手続きや、テントの設営を萩原さんがしてくれたからだ。
「また、一緒にいこうね。」
と、嬉しそうな萩原さんに私は困り顔になる。
「でも…私、出展できるものがあまり無いから。」

 そう、売れる不用品なんて、そうそう家にあるわけではない。

 だから、毎週、フリマをするとなると、品物が不足する。
 行っても、あと、数回だろうと思った。

 そんな私に、萩原さんは苦笑した。
「たぶん…大丈夫だと思うよ。」
「え?」
「何て言うのかな?物って、欲しいと思ってくれる人のところに集まるから。」

 え、(;゜∀゜)


 私は、萩原さんの説明にオカルト風味の怪しさを感じて躊躇した。

 物が自然に集まるって…そんな超自然現象があるわけがない。
 この人…大丈夫なんだろうか?



 しかし、彼女の言葉は正しかった。

 2回目のフリマの終わり、隣のブースのおばあさんが、家しまいだからと、売れ残りの不用品を我々にくれたのだ。

 私は、段ボールいっぱいのタオルを消費し、
 代わりに昭和の良さげな古着を長持ち一杯にゲットした。

 物がなくなるのが、貧乏神の効果だと信じていた。
 が、物が溢れる…のも、貧乏への道であることを私は、その後、しみじみと味わうことになる。
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