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パラサイト

ミイラ

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  「長山さんっ。」
私はガラス窓から離れた場所で叫んだ。
  恐怖で一瞬、長山を入れたくないと考えた事を恥ながら。

  長山は、私の気持ちなど知る気もないらしく、目を見開いて叫んでいた。

  おもに、私への恨み言を。

  私は怖かった。が、その恐怖を飲み込んだ。
  興奮している長山が暴れないかも心配だし、集まった虫が大量に温室に突進してくるのも怖い。

  が、仕方ない。

  開けなきゃ、長山が虫に覆われてしまう。

  私は決心してドアに向かう。が、北川に止められた。

  「止めなさい。今、開けたら虫が入って、収拾がつきませんよ。」
北川は冷静だった。
冷静と言うより、無感情な感じがした。
「でも、このままでは長山さんがっ。」
私は叫んだ。叫びながら、北川が正しいと考えていた。
  パニック環境で、彼の行動は正しい。
  が、人としては間違ってる!

  震える手を落ち着かせながら、私がドアに手を伸ばすのを北川の右手が阻止した。
  北川は、日頃、肉体労働をしている私の動きを軽々と力で止めて、尚且つ、穏やかにこう、諭してきた。
  「今は夏だし、生存可能な温度だよ。
  それに…」
「それに?」
「シデムシは生きてる生物は襲わないよ。
  そして、温室には鍵はかかっていない。
  長山さんがそこにいるのは、彼の自由意思からだよ。」
北川の言葉に息をのんだ。
  確かに、温室には鍵がかかっていない。
  そう、彼は、いつでも温室に侵入できるのだ。

  「自由意思…ガラスの壁に白目を向いて叫ぶのは…自由意思と言えるのでしょうか?」
私は口から飛び出した丁寧語と裏腹に手が汗ばみ、震えるのを感じた。

  彼を助けなければいけない。
  が、彼が『自由意思』でこの中に入ってくるのも怖い。

  何度となく、頭に現れるアメリカ映画のクリーチャーを払拭しながら、なすすべもなく息をした。

  

  落ち着いた私を見て、北川は私から離れて雅苗の死体に近づく。
  私もそれに続いた。

  もう、なんでもアリな気がしてきた。
  頭の中で叫んでいた雅苗は、気がつくと消えていた。

  こんにゃくの精やら
  若葉溶生、
  そして、ミイラにまで変身する雅苗。

  私は壁の長山をみた。

  そんな中で、こうして正気を保っている私の方が、むしろ、異常な気がした。
  北川は、干からびた…ミイラと思われるものをみて、ポケットからゴム手袋を取り出した。

  用意がいいな(゜-゜)

  あまりの北川の手際のよさに、逆に嘘臭さを感じた。

  が、北川の違和感より、ミイラの方に一気に度肝を抜かれた。

  それは乾燥した死骸ではなかった…

  それは…巨大な植物の…葉っぱのようなモノだったのだ。
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