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パラサイト
蝿の王
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チグリス川の豊かな緑を見ながら、山のようにそびえるジグラットの中腹で、神官王が日の出を見つめていた。
その光景は、オリエントと言うより、マヤ文明のように思われた。
それほど豊かなジャングルが世界を覆っていた。
彼は、生け贄の子やぎをほふり、風(エンリル)の神の使いを待っていた。
夏至の日が昇る…
生け贄の腐臭を乗せて、神官王が風神とうたう。
誠実な眷族をねぎらうために。
しばらくすると、一匹、2匹と、せわしない羽音を撒き散らしながらハエがやって来る。
現代、ハエは嫌われものであるが、この時代では神の使いである。
寄生虫と病気をばら蒔く昆虫として嫌われてしまったが、ハエ目の生活環境は広く、飛翔能力も高い。
植物の少ない、昆虫も姿を見せない高山帯にでも飛んでいる彼らを、この時代の人達は神の眷族として扱っていた。
しかし、そんなファンタステックなイメージで神官王は彼らを見てはいなかった。
そう、ハエ目でまとめてしまったが、生け贄に群がるものにはアブなども混ざり、目の色や姿の違う虫も混ざっている。
神官王は、それらを自らの几帳面さで正確に分別、集計をしていた。
夜じゅう星を追い、数える彼にしてみれば、ジグラットの中腹の子羊の死体にに群がるハエを数えるのは、それほどの苦行ではなかった。
が、何枚かの粘土版に葦で文字を打ち込み続けた彼は、少しだけ手を止めて、一匹のハエを注視する。
足の間接の動かし方が少し、ぎこちないのだ。
彼は、それらのハエを布袋を使って採取した。
そして、足の付け根に不思議なデキ物を見つけ、そして、生理的嫌悪感に身震いした。
そのデキ物は…目だった
神官王は、その目に神々の伝説を思い、
私は、ショウショウバエとスイスの学者を思い出していた。
ウォルター・ゲーリング。
彼は発生生物物理学者だ。
彼は、昆虫の足の細胞にeyと言う遺伝子に入れると、そこから目が出てくることを発表して、世間の度肝を抜いた。
私も…抜かれた一人ではあるが、そんな事もあり、神官王のように、この世の終わりを思って恐怖を感じる事は無かった。
が、ゲーリング氏がこの発表をした1990年代ですら、この発見には強く嫌悪感のある人物があらわれた。
20世紀ですらそうなのだから、メソポタミアの古代文明の神官王は、撲殺されるほどの大事件に発展する。
彼と彼の研究は、禁忌として闇に消えていった。
まあ、しかし、研究を続けられたとしても、その後の悲劇を止めることは出来なかったに違いない。
神官王が処刑され、
天の川のように流れる雨は消え、
森林は静かに姿を消していった。
人々は、恐怖した。
そして、忌み神として奉ることにした。
ベール・ゼブル…蠅の王と、呼ばれながら。
近代に入り、彼らの残した粘土版は、お洒落な模様のインテリアではなく、文章だった事が再認識される。
そうして、1924年、万博を前に盛り上がるパリで、紙袋を手にした『私』が、ホテルのラウンジにやって来る。
太田に依頼された資料を渡すために。
太田は『私』を見ると嬉しそうに笑った。
私は、遠くから会釈を返して、いそいそと彼の席へと向かった。
「まあ、カフェでも飲みなさい。それとも、ブランデーがいいかな?」
太田は気前よくそう言って、ブランデーを頼もうとして『私』に止められた。
「これが資料です。そして、まだ、仕事があるので戻ります。」
『私』の生真面目な返事を、太田は少し苦笑しながら流し、ウエーターにコーヒーを1つ頼んだ。
「まあ、少し座って落ち着きなさい。それに、これも仕事なのだよ。」
太田の言葉に困惑しながら『私』は席に座る。
「どう言う事でしょうか?」
『私』は、太田に質問する。
『私』は、太田の私用として学生街の本屋に言っただけだ。
『私』から封を渡された太田は、中から和綴じされた一冊の本を取り出した。
ページをひらくと、そこには横文字で、フランス語と日本語で対訳された文章が載っていた。
「なんなのですか?その本は。」
『私』は聞いた。
太田は、一瞬、煩わしそうに目をほそめ、次にはうって変わって楽しそうに返事をした。
「(西条)八十先生の翻訳集だよ。」
「やそ…先生?」
「ああ、君も『かなりあ』は知ってるだろ?」
太田に言われて『私』は、頷いた。
「ああ、西条八十先生ですね。留学されてたのですね。」
『私』は、ほのぼのとした気持ちで太田を見た。
文学をたしなむ太田は、日本国の国際化の為に、良質なフランスの詩でも探しているのだろう。なんて思いながら。
「やはり、ノストラダムスの詩についても翻訳されている。」
太田はそう言って笑った。「ノストラダムスですか。西洋の服部半蔵と言うとこなんですかね?
子供たちが大好きですよね。」
『私』は呑気に笑っていた。西洋では移動遊園地が人気で、そこには人形劇の劇場があり、子供向けの物語が上演される。
ノストラダムスもまた、超絶占い師として、スーパーナイスな物語のヒーローをしていた。
黒死病から町を守ったり、夕飯の食材を当てたり、美容石鹸を売ってみたり、多彩なじいさんだ。
『私』も幼い頃の祭りを思い出す
流行りと言えばチャンバラもので、忍者が登場した。
大体は服部半蔵で、芝居が終わると敵役の浪人と都会から持ってきた珍しいものを売っていた。
「ドイツとイギリスの諜報部が研究しているらしいよ。私もこれから、研究を始めることになった。」
太田は、日本語でそう話して深いため息をついた。
諜報部…
暗号の研究だろうか?
『私』は、先の大戦を思い出しながら、不安な気持ちになった。
いい大人が真剣に『聖杯』探したり、蠅の王やら終末論を検証するなんて、思いもよらずに。
その光景は、オリエントと言うより、マヤ文明のように思われた。
それほど豊かなジャングルが世界を覆っていた。
彼は、生け贄の子やぎをほふり、風(エンリル)の神の使いを待っていた。
夏至の日が昇る…
生け贄の腐臭を乗せて、神官王が風神とうたう。
誠実な眷族をねぎらうために。
しばらくすると、一匹、2匹と、せわしない羽音を撒き散らしながらハエがやって来る。
現代、ハエは嫌われものであるが、この時代では神の使いである。
寄生虫と病気をばら蒔く昆虫として嫌われてしまったが、ハエ目の生活環境は広く、飛翔能力も高い。
植物の少ない、昆虫も姿を見せない高山帯にでも飛んでいる彼らを、この時代の人達は神の眷族として扱っていた。
しかし、そんなファンタステックなイメージで神官王は彼らを見てはいなかった。
そう、ハエ目でまとめてしまったが、生け贄に群がるものにはアブなども混ざり、目の色や姿の違う虫も混ざっている。
神官王は、それらを自らの几帳面さで正確に分別、集計をしていた。
夜じゅう星を追い、数える彼にしてみれば、ジグラットの中腹の子羊の死体にに群がるハエを数えるのは、それほどの苦行ではなかった。
が、何枚かの粘土版に葦で文字を打ち込み続けた彼は、少しだけ手を止めて、一匹のハエを注視する。
足の間接の動かし方が少し、ぎこちないのだ。
彼は、それらのハエを布袋を使って採取した。
そして、足の付け根に不思議なデキ物を見つけ、そして、生理的嫌悪感に身震いした。
そのデキ物は…目だった
神官王は、その目に神々の伝説を思い、
私は、ショウショウバエとスイスの学者を思い出していた。
ウォルター・ゲーリング。
彼は発生生物物理学者だ。
彼は、昆虫の足の細胞にeyと言う遺伝子に入れると、そこから目が出てくることを発表して、世間の度肝を抜いた。
私も…抜かれた一人ではあるが、そんな事もあり、神官王のように、この世の終わりを思って恐怖を感じる事は無かった。
が、ゲーリング氏がこの発表をした1990年代ですら、この発見には強く嫌悪感のある人物があらわれた。
20世紀ですらそうなのだから、メソポタミアの古代文明の神官王は、撲殺されるほどの大事件に発展する。
彼と彼の研究は、禁忌として闇に消えていった。
まあ、しかし、研究を続けられたとしても、その後の悲劇を止めることは出来なかったに違いない。
神官王が処刑され、
天の川のように流れる雨は消え、
森林は静かに姿を消していった。
人々は、恐怖した。
そして、忌み神として奉ることにした。
ベール・ゼブル…蠅の王と、呼ばれながら。
近代に入り、彼らの残した粘土版は、お洒落な模様のインテリアではなく、文章だった事が再認識される。
そうして、1924年、万博を前に盛り上がるパリで、紙袋を手にした『私』が、ホテルのラウンジにやって来る。
太田に依頼された資料を渡すために。
太田は『私』を見ると嬉しそうに笑った。
私は、遠くから会釈を返して、いそいそと彼の席へと向かった。
「まあ、カフェでも飲みなさい。それとも、ブランデーがいいかな?」
太田は気前よくそう言って、ブランデーを頼もうとして『私』に止められた。
「これが資料です。そして、まだ、仕事があるので戻ります。」
『私』の生真面目な返事を、太田は少し苦笑しながら流し、ウエーターにコーヒーを1つ頼んだ。
「まあ、少し座って落ち着きなさい。それに、これも仕事なのだよ。」
太田の言葉に困惑しながら『私』は席に座る。
「どう言う事でしょうか?」
『私』は、太田に質問する。
『私』は、太田の私用として学生街の本屋に言っただけだ。
『私』から封を渡された太田は、中から和綴じされた一冊の本を取り出した。
ページをひらくと、そこには横文字で、フランス語と日本語で対訳された文章が載っていた。
「なんなのですか?その本は。」
『私』は聞いた。
太田は、一瞬、煩わしそうに目をほそめ、次にはうって変わって楽しそうに返事をした。
「(西条)八十先生の翻訳集だよ。」
「やそ…先生?」
「ああ、君も『かなりあ』は知ってるだろ?」
太田に言われて『私』は、頷いた。
「ああ、西条八十先生ですね。留学されてたのですね。」
『私』は、ほのぼのとした気持ちで太田を見た。
文学をたしなむ太田は、日本国の国際化の為に、良質なフランスの詩でも探しているのだろう。なんて思いながら。
「やはり、ノストラダムスの詩についても翻訳されている。」
太田はそう言って笑った。「ノストラダムスですか。西洋の服部半蔵と言うとこなんですかね?
子供たちが大好きですよね。」
『私』は呑気に笑っていた。西洋では移動遊園地が人気で、そこには人形劇の劇場があり、子供向けの物語が上演される。
ノストラダムスもまた、超絶占い師として、スーパーナイスな物語のヒーローをしていた。
黒死病から町を守ったり、夕飯の食材を当てたり、美容石鹸を売ってみたり、多彩なじいさんだ。
『私』も幼い頃の祭りを思い出す
流行りと言えばチャンバラもので、忍者が登場した。
大体は服部半蔵で、芝居が終わると敵役の浪人と都会から持ってきた珍しいものを売っていた。
「ドイツとイギリスの諜報部が研究しているらしいよ。私もこれから、研究を始めることになった。」
太田は、日本語でそう話して深いため息をついた。
諜報部…
暗号の研究だろうか?
『私』は、先の大戦を思い出しながら、不安な気持ちになった。
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