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パラサイト
メッセージカード
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ヒィエステリア…90年代に全米を震撼させた渦鞭毛藻(うずべんもうそう)だ。
1995年雅徳さんは、アメリカでこの奇妙な生物について調べていたのだろうか…
私は、秋吉から聞いた話を思い出した。
「1995年、溶生さんと雅徳さんがアメリカで会談をしたらしいんだ。
溶生さんはゲームミュージックを製作するようになって、海外でも知られていたようだし、あの頃は、ウイルスについて、興味を持たれていたから。」
「HIVについて、色々とわかってきた時代だからな。あの頃は、まだ、ウイルスについて、怪しげな噂と共にモンスター扱いされていたから、オカルトネタにされていたな。
しかし、叔父と若葉さんの会談は知らないな。」
北城は少し考えてそう言うと、財布から1ドル札を取り出した。
「この1ドル札も、色々と噂があったな。裏面のアメリカの国璽(こくじ)は…」
と、ここで北城は話すのを止めて1ドル札を見いる。
何か、鉛筆で書いてあるのを見つけたようだ。それはラテン語らしかった。
「ウェルギリウスの一節か。」
北城は小バカにしたようにあきれながら言う。
「なんだ、それは。」
1人だけ物知顔の北城にイライラしながら聞く。
「古いギリシアの詩人、ウエルギリウスの詩の一節だよ。『牧歌』この詩から1ドル札の文言は生まれたんだ。
よくわからんが、昔の西洋人は、この詩にイエスの降臨を予感したらしい。
私にはよくわからないが
1ドル札に書かれているわけだから、『天から、メシアが降臨する』とでも解釈するべきかな?」
北城は混乱したようにまばたきをした。
「メシアかぁ…なんか、よくわからないな。雅苗さんが書いたのだろうか?」
私は北城から1ドル札を借りて見た。
『トミノの地獄』の次は『メシア降臨』
なんとも、現実離れした話である。
そして、少し前に『アルカディアの牧童』の話をしたことを思い出した。
なんだか知らないが、ギリシアの牧場がよく登場する(-_-;)
天国にいるだの、神の降臨だの、普段使わない話が目白押しだ。
少し前に金の羊の話をしたことも思い出した。
『トミノの地獄』では、地獄に案内する役割の金の羊。
北城は、それを金羊毛騎士団の事ではないかと話していた。
金羊毛騎士団とは、1430年ブルゴーニュ公フィリップ3世が創立した騎士団だ。
20世紀初頭にブルゴーニュを旅した吉江 喬松(たかまつ)が、この騎士団について耳にして無いとは思えないし、その事を西条八十に手紙で記さないとも言えないわけで、『トミノの地獄』の金の羊のイメージにそれが入ったと考えるのは、自然な気がした。
西条八十の気持ちは分からないが、雅苗はそんな事も考えたかもしれない。
吉江喬松は、早稲田大学の教師ではあるが、第一次世界大戦の時代、日本政府の関係者から、欧州の植物や動物に関しての調査も頼まれていたかもしれない。
実家は養蚕業、林業、農業などに携わり、それに詳しかったろう彼が、小牧近江とプロバンスを旅しながらファーブル昆虫記の翻訳をするのには、それなりの意味があるような気がする。
20世紀初頭の世界では、産業に役立つ新種の動植物を発見するのに躍起(やっき)になった時代だ。
当時、南方の植物を育てるための温室がより大きく進化したのは、市民の憩いの為だけではない。
戦争が当たり前の時代、国力を強める為に重要な事柄だったに違いないからだ。
雅苗さんは…プロバンスに何を見てきたのだろう?
大正時代の文豪を思い返す何があったのか、私は不思議に思う…
しかし、そんな物思いにいつまでも浸ってもいられなかった。
「もう1枚出てきたぞ。」
引き出しの薄い紙の額を開いて北城は、もう1枚の1ドル札を私に見せた。
額には少し褪(あ)せたカラー写真が入っていて、パンタロンにTシャツ姿の若者が数人笑っていた。開いたページにはメッセージが添えられている。
メリークリスマス!
暑中見舞の代わりに、夏のクリスマスカードを送ります。
万博はどうですか?僕の友人を宜しく頼みます。
雅徳。
それは、1970年の雅徳さんからのメッセージカードのようだった。
1995年雅徳さんは、アメリカでこの奇妙な生物について調べていたのだろうか…
私は、秋吉から聞いた話を思い出した。
「1995年、溶生さんと雅徳さんがアメリカで会談をしたらしいんだ。
溶生さんはゲームミュージックを製作するようになって、海外でも知られていたようだし、あの頃は、ウイルスについて、興味を持たれていたから。」
「HIVについて、色々とわかってきた時代だからな。あの頃は、まだ、ウイルスについて、怪しげな噂と共にモンスター扱いされていたから、オカルトネタにされていたな。
しかし、叔父と若葉さんの会談は知らないな。」
北城は少し考えてそう言うと、財布から1ドル札を取り出した。
「この1ドル札も、色々と噂があったな。裏面のアメリカの国璽(こくじ)は…」
と、ここで北城は話すのを止めて1ドル札を見いる。
何か、鉛筆で書いてあるのを見つけたようだ。それはラテン語らしかった。
「ウェルギリウスの一節か。」
北城は小バカにしたようにあきれながら言う。
「なんだ、それは。」
1人だけ物知顔の北城にイライラしながら聞く。
「古いギリシアの詩人、ウエルギリウスの詩の一節だよ。『牧歌』この詩から1ドル札の文言は生まれたんだ。
よくわからんが、昔の西洋人は、この詩にイエスの降臨を予感したらしい。
私にはよくわからないが
1ドル札に書かれているわけだから、『天から、メシアが降臨する』とでも解釈するべきかな?」
北城は混乱したようにまばたきをした。
「メシアかぁ…なんか、よくわからないな。雅苗さんが書いたのだろうか?」
私は北城から1ドル札を借りて見た。
『トミノの地獄』の次は『メシア降臨』
なんとも、現実離れした話である。
そして、少し前に『アルカディアの牧童』の話をしたことを思い出した。
なんだか知らないが、ギリシアの牧場がよく登場する(-_-;)
天国にいるだの、神の降臨だの、普段使わない話が目白押しだ。
少し前に金の羊の話をしたことも思い出した。
『トミノの地獄』では、地獄に案内する役割の金の羊。
北城は、それを金羊毛騎士団の事ではないかと話していた。
金羊毛騎士団とは、1430年ブルゴーニュ公フィリップ3世が創立した騎士団だ。
20世紀初頭にブルゴーニュを旅した吉江 喬松(たかまつ)が、この騎士団について耳にして無いとは思えないし、その事を西条八十に手紙で記さないとも言えないわけで、『トミノの地獄』の金の羊のイメージにそれが入ったと考えるのは、自然な気がした。
西条八十の気持ちは分からないが、雅苗はそんな事も考えたかもしれない。
吉江喬松は、早稲田大学の教師ではあるが、第一次世界大戦の時代、日本政府の関係者から、欧州の植物や動物に関しての調査も頼まれていたかもしれない。
実家は養蚕業、林業、農業などに携わり、それに詳しかったろう彼が、小牧近江とプロバンスを旅しながらファーブル昆虫記の翻訳をするのには、それなりの意味があるような気がする。
20世紀初頭の世界では、産業に役立つ新種の動植物を発見するのに躍起(やっき)になった時代だ。
当時、南方の植物を育てるための温室がより大きく進化したのは、市民の憩いの為だけではない。
戦争が当たり前の時代、国力を強める為に重要な事柄だったに違いないからだ。
雅苗さんは…プロバンスに何を見てきたのだろう?
大正時代の文豪を思い返す何があったのか、私は不思議に思う…
しかし、そんな物思いにいつまでも浸ってもいられなかった。
「もう1枚出てきたぞ。」
引き出しの薄い紙の額を開いて北城は、もう1枚の1ドル札を私に見せた。
額には少し褪(あ)せたカラー写真が入っていて、パンタロンにTシャツ姿の若者が数人笑っていた。開いたページにはメッセージが添えられている。
メリークリスマス!
暑中見舞の代わりに、夏のクリスマスカードを送ります。
万博はどうですか?僕の友人を宜しく頼みます。
雅徳。
それは、1970年の雅徳さんからのメッセージカードのようだった。
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