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パラサイト

お前はもう死んでいる

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  夜が更けて行くのを感じた。
  昭和初期に建造された屋敷の書斎で中年オッサンが二人で聖杯伝説を語る…

  痛い光景だ。

  北城のクールどや顔が目に染みる(>_<。)

  私は、次の言葉を考える。
  雅苗は、モルゲロンズ病の研究をしていた。
  それは夫、若葉溶生の持病でもある。

  が、モルゲロンズ病は、2012年に寄生虫妄想と結論をつけられた。

  時を同じくして、シケイダ3301と言う謎の組織がインターネットで求人の謎かけをする。

  それに、何を感じたのか…雅苗は、彼らと複数の人間に対して何かのメッセージを残そうとしていた。

  そして、気がつくと、ダ・ヴィンチコードと聖杯伝説を語るおっさん…

  「確かに、ラングドックとモルゲロンズ病の話は面白かった…。
  2019年が、ダ・ヴィンチ没後500年なんて偶然、出来すぎてるし、それが、2012年から次のショクダイオオコンニャクの開花する7年後にあたるなんて…それは、ビックリだけど。
  そもそも、ダン・ブラウン氏の『ダ・ヴィンチコード』の情報は、間違ってるとも…聞いたぞ。」
と、言いながらスマホ検索する。

  ほらな(* ̄ー ̄)

  私は、画面を印籠のように見せつけたくなる。

  そう、レオナルド・ダ・ヴィンチは、怪しげな秘密組織の総長などしていないと、後に内容を否定されている。

  そんな物語を引き合いにだして、いい歳の雅苗が謎など残すだろうか?

  が、北城は呆れた顔で私を見る。

  「本の内容の真偽は、今は関係ない。
  雅苗が、何を考えて行動したか?それが問題だ。

  ラングドック地方、カルソンヌに、『ダ・ヴィンチコード』でも有名になったレンヌ・ル・シャトーがある。
  聖杯伝説と共に語られるこの地は、かつて、ケルト、ローマ、チュートン人の町として栄える。
  そして、そこには、聖杯の謎が隠されたと言われている。

  『ダ・ヴィンチコード』では、『アルカディアの牧童』と言う絵画が謎として登場する。
  フランスの画家、ニコラ・プッサンの描いたその絵の石碑にはドクロと、
  《ET IN ARCADIA EGO(エト・イン・アルカディア・エゴ)》と、描かれている。
  
  エト・イン・アルカディア・エゴ…基本的な読み方だと、《我、アルカディアにあり》と読むようだが、これは、生きている現在の自分もまた、天国(アルカディア)にいるようなものである。と、言う意味になり、

  死は常に隣り合わせに存在する

  と、言う意味とも解釈される。

  我々世代的に、平たく言うなら、

  『お前はもう、死んでいる。』と、訳すのだろうな。」
北城は、軽く目を細めて笑ったが、私には、ついて行けなかった。

  レンヌ・ル・シャトーの謎とか、プッサンの絵とか、『お前はもう死んでいる』なんて昔のヒーローの決め台詞をいわれても、ちんぷんかんぷんだ。

  「で、次は、カンフーでも登場するのか?」
私は、そう言って深くため息をつく。
  そんな私を北城は、少し寂しそうに見つめながら話す。

  「中世のヨーロッパにカンフーはない。
  ここで、問題になるのは、生ける死…。寄生を想像させないか?」
北城は、何かを考えるようにそう言った。
「寄生虫…か。」
私は、モルゲロンズと呼ばれた奇病を思い起こした。
  しかし、ブッ飛び過ぎた話の根拠は、よくわからなかった。
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