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パラサイト

オーデション

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「お、音無先生…本当か?それ。」
私は温室で見た北川を思い出した。
その答えに、私は、漠然とした納得感を感じた。
温室で話したときの知的な感じ、そして、泉での狂気を含んだ彼…
と、同時に、昔、秋吉に聞いた不思議なオーデションの話を思い出した。

秋吉は、『シルク』のオーデションの最終先行で不気味なオーデションを受けたと言っていた。
それは音無不比等による即興芸のような形式で、彼は、その時『なにか』を飲まされそうになったと言った。

「わかりません。なんとなく、俺がそう感じるだけで。実際、俺、まだ、音無先生と正式には、御会いしてないんですよ。」
秋吉はそう言って苦笑する。
「そうなのか…。」
私は、秋吉のその苦悶の笑顔に前に質問された事を思い出した。

肉食の…繭蛾なんて存在するのでしょうか?

あの時、私は、私の知る範囲では居ないと説明した。
が、時代は変化をしている。特に、70年代を皮切りに、遺伝子組み替えの技術は進んでいる。

1972年スタンフォード大学から歴史を変える論文が発表された。
ポール・バーグ教授が、遺伝子組み替えの実験で、動物のDNAの一部を切り取って、大腸菌などの微生物に移植出来ることを発見したのだった。

これは、とても画期的な発見だった。
何しろ、全く種の違う生物のDNAが組み替えられる…漫画の変身のような事が本当に出来ると人類が知ることになった出来事だからだ。

この発見から現在、絹糸を生産するだけの蚕の役割についても飛躍的に変わってきている。
糸と言うだけなら、蚕の遺伝子に蜘蛛の遺伝子を掛け合わせて、より強靭な糸を作る研究が日本で成功している。

「どうかしましたか?」
秋吉にそう聞かれて、私は秋吉を見た。いけない、また、余計な事を考えてしまった( 〃▽〃)

「すまん、秋吉に前に聞かれた、肉食の蚕について考えていた。」
私は慌ててあやまると、秋吉は少し驚いた顔をしてから、怖い顔で問いかけてくる。
「居ないって…そう、言ってましたよね?
まさか…何が、思い当たる虫がいるんですか?」
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