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パラサイト

寄生蜂

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アオムシサムライムシコバチ……
北宮 雅苗が、寄生バチと呼ばれるこの虫の研究をはじめたのは、雅徳さんの影響らしい。

寄生バチとは、ハチ目の昆虫の中で、幼虫の時代に他の生物…植物や昆虫に寄生し、その生物の栄養を貰うことで成長する生物の事だ。

不気味と言われれば、不気味ではあるが、
キャベツなどの葉もの野菜を食い荒らす紋白蝶などの幼虫を駆除してくれる、益虫という一面があり、
雅苗は、その分野で活躍していたと記憶している。

雅苗が、ムシコバチなどの寄生バチに興味を持ったのは、父、雅徳さんの影響のようで、
彼は、1995年、その研究の為に訪れたアメリカで命を落としていた。
雅苗がまだ、少女の時の事だ。そんな悲劇もあって、寄生バチに対する思いも強かったのかもしれない。
ここで、雅苗の回想文にドキリとした。

その年、雅苗が父親の訃報を聞いたこの年に、ショクダイオオコンニャクが赤黒い花序(かじょ)を広げ、開花を迎えたのである。

阪神大震災と地下鉄サリン事件があった、不気味で不安な年であった。

そんな年の夏、この不気味な奇花の開花を雅苗は見ていた。

この花の香りに誘われてやって来る虫を見つめながら、彼女は自然のサイクルと輪廻転生について思い描いた。
全ての生物は、個別の意思を持つが、ある大きな生物のサイクルの統治の元の自由であるのだと。

例えば、人間の腸に住む大腸菌は、それ自体のサイクルを持つが、宿主の人間の生命のサイクルに影響を受けることになる。

滅亡とは、寄生する宿主の死であり、
それは、幼虫から成虫へと移り変わる、新しいサイクルへの転換である。

失踪間近の彼女が、少女時代の自分への回答のようだった。

私には、よく理解できなかったが、なんとなく、雰囲気だけは飲み込めるような気もした。
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