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パラサイト

死体花

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死体花…この花の別名である。
1m立法より大きな鉢にその花は颯爽とした立ち姿を現している。


「凄いですね。」
思わず言葉がこぼれた。
「今日…、事件が起こってから丁度、7年目なんですよね。」
長山が真剣な顔つきで花をみる。
「失礼ですが、もしかして、当時の第一発見者のマスコミ関係者というのは…」
「私です。私は北宮家と懇意がありましたし。製作主任を任されたんです。新人を一人連れて来ました。」
長山の言葉に、今朝の夢がフラッシュバックする。
「裏口から入って…開花するこの花を…目撃したのですよね?」
今朝の夢のまま、長山に聞いてみる。長山は、私を見て非難するような困り顔をした。
「ネット…ですか。そうです。当時、温室の扉が少し開いていまして、裏門を少し歩いたところで、スルメを思わせる生臭い臭いがしました。
温室まで走ると、そこには、この子…失礼、この花が、深紅の苞葉を広げて咲いていました。」
長山は、まるで娘の話でもするように目を細めて蕾を見つめる。
「この花の世話を…あなたがしていたと聞きました。」
私は、昼に秋吉と話したことを思い出した。
「今年、咲かせる事が出来て本当に…良かったです。
ご存じですよね?この花の花粉を運ぶ虫について。」
長山は何故か悲しそうだった。
「甲虫…糞虫とかシデムシですよね?」
私は、まだ、漂わないこの花の臭いを想像する。
シデムシは、動物の死体を餌にする甲虫で、死体から出てくる事が多いので『死出虫』とも書く。
名前から不気味に思われがちだが、捕食した餌を肉団子状にし、子供に与える…子育てをする家族思いの一面がある。
「そうです。シデムシ。仮に雅苗さんが亡くなっていたとしたら…これから、この花に集まる虫たちは、雅苗さんを埋葬した子孫かもしれません。」
長山は辛そうだった。
私は、何も言えずに隣に立っていた。
「私と北宮家の人達で、今夜、虫葬をしようと言うことになっているのです。」長山は淡々と話す。
「虫葬…ですか。」
私は、それ以上何も言えなくなった。
7年…長い年月を経て、一度、人生の区切りをつけようと考える人たちの気持ちを、私に分かるとは、とても言えない。

しかし、南の島で現地でそれを選んだ尊徳先生を思うと、こんな区切りも悪くはない気がした。
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