上 下
47 / 208
パラサイト

完全防備

しおりを挟む
  我々はしばらく温室の整備をし、20分は経過したところで、私は長山が心配になってきた。

  北川は、テキパキとカメラのセッティングをしている。
  なんだか、パソコンも扱って、北川は手慣れているのが不思議に感じた。

  「草むしりと整理は終わりましたよ。」
と、私は北川に声をかける。
「そうですか。」
と、北川は私に笑顔を向けて時計を見た。
「20分は経過しましたし、地下室にいきましょうか?」
北川の問いかけに嬉しくなる。が、その気持ちを押さえる。
  長山が来ない事が気になった。

  10分たっても来ないようなら、部屋へ戻ってください。

  長山の言葉が耳に残る。
  20分経過しても来ない時は…どうしたらいいのだろうか?

  「すいません、私、長山さんが心配なので池にいってみます。」
私はジャンパーを羽織った。
  もうすぐ5時になるが、日はまだ高い。
  心配するような場所では無かったが、怪しい伝説も気になった。
「それでは私もいきましょう。」
北川が穏やかにそう言った。

  我々は、軽く装備をして池へと向かう。忌避材やカメラ、手袋、ロープ、鉈(ナタ)等をリュックに詰める。

  近くの池とはいえ、人が二人も消えるとなると用心はするに越したことはない。

  北川は、私の慎重さを少し困り顔で見てはいたが、文句は言わなかった。

  7年前、人が一人、この場所で消えたのだ。
  最悪をいくつか考える。
  一般の人は、淡水の池や湖、川を海より軽く考えがちだが、淡水には、多用な水棲生物、植物、細菌がいる。
  雨季の砂漠が一瞬で花畑に変わるように、
  池が突然できるとしたら…まあ、そこまで行かなくとも、地面の水分が増えるとしたら、菌類…キノコなどの繁殖が考えられる。
  スエヒロタケなどは、希ではあるが、人間の肺に寄生する。
  
  スエヒロダケなら、何とか対処が出来るとして、この林には、新種の何かが潜んでいるかもしれない。
  夕暮れが近くなり、キノコが胞子を飛ばしていたのかもしれない。

  ふと、雅苗のしおりを思い出した。
  素数ゼミ…素数の年に大量繁殖するセミの事だが、7年にこだわるのは、セミだけではあるまい。
  事実、ショクダイオオコンニャクは、7年たった現在、大輪の花を開こうとしていた。

  それは甲虫…なのだろうか?

  不謹慎に胸が踊る。
  長山の黄金虫の話が頭をめぐった。

  新種の…スカラベ…尊徳先生のスカラベを生きた姿で見ることが出来るかもしれない。

  私の歩みが早くなる。が、池よりずいぶん手前で、私は、マスクと保護眼鏡をした上で、ロープを腰のベルトに装着した。

  「すいませんが、10分経過して戻らなかったら、消防署に連絡して頂けますか?」

  北川は私の完全装備に、何か言いたげな顔をしていたが、黙ってロープの端を持ち、スマホのタイマーをセットする。
「カメラ、いりますか?」北川はポケットからカメラを取り出した。
「え?」
「記録になりますし、これ、ズーム機能が凄いんです。短時間でも、広範囲の情報が集められると思いますよ。」
北川の顔を見て、私は混乱しながら頷いた。
  完全装備の私をバカにしているのか、受け入れているのか…よくわからない。
  それでも、私はカメラを受け取って池へと向かう。
しおりを挟む

処理中です...