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パラサイト

ミヤマ

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   しばらくすると池が見えてきた。
  「思ったよりも大きい池ですね。」
秋吉は少し驚いたようにそう言った。
「そうだね、自然の地形を利用した谷池の分類になるのかな?」
私は池の生物を想像した。
  ため池には、皿池と谷池と呼ばれるものがある。
  人里に近いところを人工的に掘って作るのが皿池。
  山などの高低差がある場所を使って池を作るのが谷池と呼ばれる。
  
  この池は、大雑把に分けるなら、谷池に分類されるものだと思った。
  ため池は、水棲生物の宝庫だ。
  人気のあるところではトンボ…ヤゴが池にいるに違いない。
  上手くすれば、珍しいマメゲンゴロウなどの幼虫にも出会えるかもしれない。

  「ため池って、もっと小さいイメージがありましたよ。」
25mプール二つ分はありそうな池をみて秋吉は感想を言う。
「そうだね、人造湖もため池に分類されたりもするから…長野県の白樺湖、あれだってため池の仲間になるらしいよ。」
私がそう言うと、秋吉は少し上の空で「それは凄いですね。」と返事をした。
  それから、呆れたようにため息をついてこう言った。
  「池上さんは、本当に虫とか自然が好きなんですね。」

  一瞬の間があった。

  私は、どう答えて良いのか分からずに秋吉を見た。
  私の事を呆れているのだろうか?
  「うるさかった、かな?」
少し心配になりながら秋吉を見た。
  秋吉は私をみて、とても親しげな笑みを浮かべた。
「大丈夫です。と、言うか…勉強になりますっ。」
「また…それかい?」
私は、嬉しそうに私を見つめる秋吉に照れながらボヤく。
  私は、虫学者と言われるほど、詳しいと言うわけではないし、名前も通ってない。
  それなのに、芸能人の美形の青年に、こんな風に尊敬されながら見つめられると、嘘をついているような変な罪悪感すらわいてくる。

  「ええ…俺、今度の役にかけているんです。
  確かに、昭和のような凄い影響力は、今の深夜アニメでは無いけれど、でも、初めての主役なんで、ファンの記憶に残るような、そんな修二郎を演じたいです。」
秋吉はふと、真面目な顔で力強く言った。
  その美しい横顔にうっすらと不安の影を見つけて、私の胸を締め付けた。

  「ああ…、うまくいくといいな。」
私は低い声でそれだけ言った。
  ここまで来れば、あとは秋吉だけの孤独な闘いでしかない。
  私に出来ることと言えば…私の知り得る情報を伝えるくらいか。

  ふと、高校時代に聴いた尊徳先生の話を思い出した。
  「秋吉、私なんかより、尊徳先生の事を参考にしたらどうかな?
  ここは、北宮家の夏の避暑地で、小学生の尊徳先生の遊び場で、教室だったはずだ。
  『シルク』の修二郎とも時代は近しいし、その辺りから話を広げてみたらどうかな?」
私の話に秋吉は同意した。
「ええ、そうですね。今回の番組のために俺も少し調べてみたんです。
  物語は大正から昭和にかけてが舞台です。
  修二郎は虫学者で、いや、生物学者で、政府の意向もあり、新種の益虫を探していました。
  主に、輸出し、外貨が稼げる『絹』を作るカイコのような虫を、ね。
  その為に、人があまり入らない山奥に調査に行ってました。」
と、ここで秋吉は何かを思い出したように私に微笑みながら謎かけをする。
「よく虫の名前に『ミヤマ』とつくでしょ?」
「ああ。」
「普通、虫や新種の生き物や鉱物を発見した場合、発見者の名前をつけますが、この『ミヤマ』の意味は深い山と書いて『深山』、人の名前ではないんですよ。」
秋吉が、テレビのレポーターのようにマメ知識を披露する。
  私は、一瞬言葉を失った。
「ああ…凄いな。」
思わず口をついた言葉に、秋吉が絶句して私を見、そして、女好きするような甘すぎる笑い声をあげた。
  「すいません。そんな事、愚問でしたね。」
秋吉は少し照れた顔をして、私の少し前を歩き出した。

  いや、確かに、凄かったよ。

  私は、タイミングを失って伝えられなかった言葉を秋吉の背中に投げ掛ける。
  実際、秋吉の説明は凄かった。
  よく通る綺麗な声で、一瞬、テレビの中に迷いこんだような錯覚に陥ったのだから。

  「池上さん!あと少しで丘につきますから、そこで飯にしましょう。」
秋吉は早足で先を進みながら声をかけてきた。
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