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パラサイト

入眠

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 どうしたものか…

私はあてがわれた雅苗の書斎のソファーに座り、答えの出ない思案にくれた。

 雅苗が失踪したのは2012年、それから7年の歳月が流れていた。

今頃、こんな物を探す事になったのは、昨年、2018年のスカラベのミイラの発見が影響したようだ。

 それまでは、ただの夢物語だと思われた、雅苗の不思議な研究について、長山も学問としての興味をもったらしかった。

 長山の両親は、北宮家のこの別荘の管理人をしていたのだそうだ。
 だから、雅苗の家族とも親しいらしい。

失踪から7年。

 雅苗の夫、若葉溶生わかば ときおが、急に正気に戻って、音楽活動を始めるのも、怪しげな番組の企画をする事も、私には不可解にしか思えないが、まあ、マスコミとはそんなものなのかもしれない。

 不信感を抱く私に長山はこう説明した。

「確かに、不可解おかしな企画ですよね?
 でも、おかしいと言うなら失踪宣告をだせる7年目に正気に戻る、溶生さんも出来すぎていませんか?

 とはいえ、この7年、彼の治療に当たっていた医師は、若葉さんが詐病なんかじゃないと言うのですよ。何かの衝撃で、意識が一時的に正常に戻ったのでは無いかと、医者はそう、予想しています。

 でも、親族はそれに納得出来てないようで、こんな形で様子をみる事にしたのです。」
長山はそう言って、何かに向かってやれやれとため息をつく。
「確かに。でも、溶生さんが、財産目当てに7年もそんな事をするでしょうか?7年もあれば、それなりに稼げた気がします。」
そう話ながら、私は思った。
そうだ、仕事が少なくなったとは言え、腐っても若葉溶生。80年代のJポップシンガーなのだ。
そんなおかしな行動をしなくても、ギターと歌声があれば、今の時代、動画サイト等からも収益をあげられたに違いない。

「そうですね。何にしても、今は溶生さんの記憶だけが真実を知っているのです。
 何らかのきっかけで、雅苗さんの行方がわかるのではないか?と言う仮説に行き着きまして、こうして、若葉さんの希望に添うように最低限の予算で番組を作成することになったのです。」
長山は、普段の仕事と同じように淡々と、この不可思議な番組について説明をした。

 雅苗さんが見つかるのなら、彼女に黄金虫について聞いたらいいのに。

ふと、そんな考えが頭をよぎり、それをしない長山に、彼や親族が雅苗さんの骸を探していることを感じて胸が痛んだ。

「それで、私は、ここでモニターの監視と探し物をすればよいのですね?」
私は仕事の確認をした。
夜、南棟の1階で撮影が始まった時に私は北棟の2階のこの部屋から仕掛けられたカメラを観察し、ついでにスカラベ探しをする。

「そうです。当時、何がおこったのか、まだ、正確に解明されていませんから、万一の事を考えて、少し離れたところで見守る人が必要なのです。」
長山の眉に少し緊張が走った。
それを見つめながら、私も言い知れない不安が込み上げてくる。
 長山は、溶生さんの殺害を疑っているのだろうか?

「わかりました。」
私は最低限の返事だけをして混乱する頭を整理していた。

 長山が撮影の準備に消え、私は一人、この部屋で不可解な仕事の内容を現実のものへと変換し始める。

 こうしている間も時給が発生しているのだ。
 しかも、いつもの2倍。
 何か、大人として現実的な仕事の結果を残さねばならない。

 私は備え付けのポットでインスタントコーヒーを作る。コーヒーが自由に飲めるのはありがたい。
 考える…まずは、北宮家の知り得る情報をまとめる。

 この北宮の屋敷は、大正から昭和にかけて建設され、軍医で生物学者の北宮尊徳先生と海外の製薬会社の所有物として戦後維持されてきた。

インターネットで噂される馬鹿馬鹿しいホラ話が、冷たい汗のように背中を伝って行く気がする。

溶生は、詐病なのか、それとも、なんらかの攻撃を受けたのだろうか?

彼の精神を壊したものの正体とは……。

不安になりながらも、好奇心も膨らんで行く。

コーヒーを口にした。

 頭の中で7年前の雅苗を思った。

女性としての彼女の行動を私が推し量るのは難しい。
が、研究者として、大切な標本を何処にしまうのかは想像できると思う。

古代人がスカラベをどんな風に標本ミイラにしたかは分からないが、高温多湿の日本において、防腐処置をしたとしても、保存場所には気を使うはずだ。
それは、尊徳先生が先に考え、雅苗がそれを引き継いでいるはずだと思う。

だから、直射日光の当たらない、温度と湿度が一定の場所をこの屋敷で探すことから始めよう。
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