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パラサイト
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7年前、北宮 雅苗は姿を消した。
自身が相続した別荘から…そして、現在も消息不明である。
朝の悪夢の余韻が胸によぎる。土から覗いた銀の指輪…
生きながら埋められた、女性の指…
まさか、な。
一瞬、7年前の噂を思い出す。夫でミュージシャンの溶生が雅苗を殺した、当時の週刊紙はそう報じた。
しかし、警察はそんな事実も雅苗の行方も見つけてはいない。
やがて、事件は時に削られるように人々の記憶から消えていった。
私は自分がぼんやりとしている事に気がついて、急いで秋吉達の会話に気を向けた。
そう私は、これから仕事に行くのだ。
しかもご指名…失敗は許されない。
仕事に関係することは、最低限、頭に入れていた方がいい。
「そういえば、若葉さんとはどこで待ち合わせなんですか?」
穏やかに流れる雰囲気を破って、秋吉が長山に声をかけた。
わ、ワカバ…って、やはり。
私は、私は赤面してくるのが分かる。
若葉 溶生
私の学生時代に活躍したアーティストで、旧姓北宮 雅苗の夫である。
さっきまでは、疑惑の人物として考えていたが、会えるとなると、胸が高なるのだから、私も、大したミーハー野郎だ。
「自宅に迎えに行きますが、準備がまだな様なのでもう少しここにいましょう。
若葉さんも久しぶりの撮影なんで緊張してるようですよ。
ああ、池上さん? 池上さんは知ってます?若葉溶生。」
長山は私を見た。
私はドキッとして、一瞬、不安になった。
若葉時生は世間では疑惑の人でも、私には青春のスーパースターなのだ。
ブラウン管の前で見ていた子供の私は、
溶生さんは人気がイマイチだとか、
マイナーな部類だとか、失礼千万な事を平気で口にしていたが、
それはテレビの向こうの別世界の人物だからで、
その別世界の人物が三次元で登場するとなれば話は違うっ。
天使が降臨する。くらいの衝撃的な話なのだ。
混乱し無言の私に長山は失望を顔に浮かべて苦笑いで取り繕った。
「すいません。知りませんよね?
池上さんはテクノポップなんて聴きそうもないですからね。」
「い、いえ、すいません。知ってます。溶生さん!
と、言うか、テクノポップ…でしたっけ?
彼は、ニューミュージックの人間ですよね?」
久しぶりのトキオ談に不覚にもトキメキを感じてしまう。
本人降臨を前にネガティブな情報は私の頭から焼き払われた。
秋吉がニヤニヤしているが、だからどうだと言うのだろう?!
トキオ談が出来るのだ!そんなものは無視だ。
「ああ、若葉さんアコースティックから始めてましたね。
人気が落ち着いてから90年代にゲーム音楽で活躍してましたよ。」
長山は淡々と説明してくれた。
「そうなんですか…。」
私は90年代の自分を思い出す。
当時はとにかく忙しくて海外出張もあり、『24時間働けますか?』
なんて流行り言葉を良く口にした。
だからその時代、私は学生時代のポップスターの事なんて忘れていたのだ。
「そうですね、今は若葉と言えばゲーム音楽ですかね?」
長山は秋吉を見た。
「ああ、でも、アコースティックな若葉さんの曲、俺、嫌いじゃないんですよ。」
秋吉が私に笑いかけて、その時、私は休み時間にひょんな事から
秋吉と若葉溶生の曲を聴いたことを思い出した。
無名だった秋吉は、私と同じ現場で働いて、休憩時間には一緒に昼飯を食べながらスマホで音楽を聴いた。
多分、秋吉は、その時の事を覚えていてくれたのだろう。
「ああ、いい曲だよな。」
私の感想を聞いて、秋吉は整った顔に心からの笑顔で答えた。
秋吉には急な勤務時間の交代とか面倒を押し付けられたが、タレントとして売れ始めても、こうして変わらずにいてくれて嬉しかった。
「ありがとう。」
私は、彼の眩しい笑顔に少し照れながらうつ向いた。
「どうしたんですか?ありがとうなんて」
秋吉が不思議そうに私を見る。私はそれに答えずに苦笑した。
「あっ、そろそろ行きましょうか。
若葉さんとも連絡がつきましたから。
若葉さんを拾って、現場に向かいましょう。」
スマホを見ていた長山が立ち上がる。
私達は仕事を思い出し気を引き締め直した。
自身が相続した別荘から…そして、現在も消息不明である。
朝の悪夢の余韻が胸によぎる。土から覗いた銀の指輪…
生きながら埋められた、女性の指…
まさか、な。
一瞬、7年前の噂を思い出す。夫でミュージシャンの溶生が雅苗を殺した、当時の週刊紙はそう報じた。
しかし、警察はそんな事実も雅苗の行方も見つけてはいない。
やがて、事件は時に削られるように人々の記憶から消えていった。
私は自分がぼんやりとしている事に気がついて、急いで秋吉達の会話に気を向けた。
そう私は、これから仕事に行くのだ。
しかもご指名…失敗は許されない。
仕事に関係することは、最低限、頭に入れていた方がいい。
「そういえば、若葉さんとはどこで待ち合わせなんですか?」
穏やかに流れる雰囲気を破って、秋吉が長山に声をかけた。
わ、ワカバ…って、やはり。
私は、私は赤面してくるのが分かる。
若葉 溶生
私の学生時代に活躍したアーティストで、旧姓北宮 雅苗の夫である。
さっきまでは、疑惑の人物として考えていたが、会えるとなると、胸が高なるのだから、私も、大したミーハー野郎だ。
「自宅に迎えに行きますが、準備がまだな様なのでもう少しここにいましょう。
若葉さんも久しぶりの撮影なんで緊張してるようですよ。
ああ、池上さん? 池上さんは知ってます?若葉溶生。」
長山は私を見た。
私はドキッとして、一瞬、不安になった。
若葉時生は世間では疑惑の人でも、私には青春のスーパースターなのだ。
ブラウン管の前で見ていた子供の私は、
溶生さんは人気がイマイチだとか、
マイナーな部類だとか、失礼千万な事を平気で口にしていたが、
それはテレビの向こうの別世界の人物だからで、
その別世界の人物が三次元で登場するとなれば話は違うっ。
天使が降臨する。くらいの衝撃的な話なのだ。
混乱し無言の私に長山は失望を顔に浮かべて苦笑いで取り繕った。
「すいません。知りませんよね?
池上さんはテクノポップなんて聴きそうもないですからね。」
「い、いえ、すいません。知ってます。溶生さん!
と、言うか、テクノポップ…でしたっけ?
彼は、ニューミュージックの人間ですよね?」
久しぶりのトキオ談に不覚にもトキメキを感じてしまう。
本人降臨を前にネガティブな情報は私の頭から焼き払われた。
秋吉がニヤニヤしているが、だからどうだと言うのだろう?!
トキオ談が出来るのだ!そんなものは無視だ。
「ああ、若葉さんアコースティックから始めてましたね。
人気が落ち着いてから90年代にゲーム音楽で活躍してましたよ。」
長山は淡々と説明してくれた。
「そうなんですか…。」
私は90年代の自分を思い出す。
当時はとにかく忙しくて海外出張もあり、『24時間働けますか?』
なんて流行り言葉を良く口にした。
だからその時代、私は学生時代のポップスターの事なんて忘れていたのだ。
「そうですね、今は若葉と言えばゲーム音楽ですかね?」
長山は秋吉を見た。
「ああ、でも、アコースティックな若葉さんの曲、俺、嫌いじゃないんですよ。」
秋吉が私に笑いかけて、その時、私は休み時間にひょんな事から
秋吉と若葉溶生の曲を聴いたことを思い出した。
無名だった秋吉は、私と同じ現場で働いて、休憩時間には一緒に昼飯を食べながらスマホで音楽を聴いた。
多分、秋吉は、その時の事を覚えていてくれたのだろう。
「ああ、いい曲だよな。」
私の感想を聞いて、秋吉は整った顔に心からの笑顔で答えた。
秋吉には急な勤務時間の交代とか面倒を押し付けられたが、タレントとして売れ始めても、こうして変わらずにいてくれて嬉しかった。
「ありがとう。」
私は、彼の眩しい笑顔に少し照れながらうつ向いた。
「どうしたんですか?ありがとうなんて」
秋吉が不思議そうに私を見る。私はそれに答えずに苦笑した。
「あっ、そろそろ行きましょうか。
若葉さんとも連絡がつきましたから。
若葉さんを拾って、現場に向かいましょう。」
スマホを見ていた長山が立ち上がる。
私達は仕事を思い出し気を引き締め直した。
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