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  途方にくれる私の前で、ベルフェゴールは、上品な高笑いをしていた。
  メフィストは、相変わらずすましていて、別人のように優秀な使用人と化していた。

  「そこまで…笑うことないでしょ?」
私はシブイ気持ちでベルフェゴールに抗議する。
  ベルフェゴールは、顔の辺りで遊ばせていた扇をパチリと閉め、そして、急に真顔で私を見つめた。

  それが…凄く綺麗だった…私は、少女時代、コッソリと隠れて見ていた少女アニメを思い出していた。
  私の父は、間違っても上品と言う言葉と遭遇する機会の無い男で…一家に一台のテレビの時代、絢爛豪華な少女アニメの世界は、照れ臭く、そのテレを全力で私をからかうのに使っていた。
  だから、全力で少女アニメに没入するには、人のいない時間、ビデオや再放送で楽しむ他はなかった。

  戸袋から、引き出物の高級カップをとりだし、ティーバッグの紅茶と、少し高めのお菓子。何やら、薄い透けた模様の高級急須…
  それと共に流れる世界が、私の少女時代のセレブの全てだった。

  現在、ロココ調のきらやかなベルサイユ風味のこの世界に身を置いているが、あの頃の様なトキメキは無いのが残念だ…
  
  「どうしましたの?ボケッとしたりして。」
ベルフェゴールが心配そうに私を見る。
「え?あ、ごめん。なんか、あなたが綺麗にみえて。」
思わず口をついた言葉にベルフェゴールは絶句し、しばらくして、とても愉快と言う風に軽やかに笑った。
「ふふっ。私に見惚(みほ)れていたの?」
「見惚(みと)れて、よ。その言い方、なんか、あざとくて、私嫌いだわ。」
つい、言語の方の批判をしてしまい、ベルフェゴールは、『私がベルフェゴールに見惚れていた。』と言う事実確定にドヤり顔をする。
「そう、『見惚(みと)れていたのね。』嬉しいわ。着飾ったかいがあったわけね。」
ベルフェゴールは、花のように微笑む。
  それは、野ばらのようにシンプルで、匂いたつような甘い笑顔だった…って、そんな事、いってる場合じゃないんだった…

  「はぁ…もう、そろそろ話を始めないと!」

  私は叫んだ。
  自分のマヌケかげんを。


  80年代…その事件は、不安と共に不可解な信仰心をもって人々の心に響いた。
  1981年5月2日…
  北フランスの空港で、なんとも奇妙なハイジャック事件がおこった。

  ダウニーと名乗る男は、要求を聞いた警官に、誰も想像もしなかった要求をするのだ。

  『ローマ法王にファティマ第3の予言を開示するように要請しろ。』


  こう言われて、きっと、警官は混乱したに違いない。
  なにしろ、当時は冷戦中で、ハイジャックと言ったら、西か、東に亡命するのがテンプレで、
  ファティマと言えば、中東で良く使われる女性の名前だ。
  その上、ローマ法王なんて、名前が出てくるんだから。
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