上 下
104 / 164
1917

15

しおりを挟む
  ベルフェゴールは、優雅にコーヒーを口にする。
  長い黒髪の可愛らしい少女の姿で。

  私は何を言えば良いのか、少し混乱していた。
「1917年が大変なのは分かったわ。でも、私の話には関係ないと思うのよ。」
私はため息をつく。

  そう、私が物語の分岐の選択を頼んだのは、『パラサイト』についてで、そこにエリザベス女王もジョージ5世も登場しない。

「あら、そうかしら?本文に書いていない色々もあるはずだわ。
  私が自ら採決するのよ?  ケチらずに差し出しなさい!」
ベルフェゴールは、キリッと私に迫ってくる。
「ケチらずって…私、来年、『パラサイト』の続編を書く予定なのよっ。
  営業妨害だわ。」
「営業妨害?それは、書籍化を果たしてから使うことね。大体、この物語も、エントリーされた物語なのよ?ここでショボい完結なんてしてたら、客と…ワタクシを逃す事になりますわよ。」
「ワタクシ…(-_-;)」
私は負けた。

  確かに、私は小銭を稼ぎたくて書いている。
  だから、いろんな人に読んでもらう必要がある。
  サイトが変わっても、読みに行きたいと読者に考えて貰えるように進化しなくてはいけない。
  が、しかし、こんな登場人物(ヤツラ)に絡まれて、みんな未完で放置状態で、信用なんてとっくに無くしている。

  もう、神に…ああ、悪魔にでもすがる必要がある…んじゃないだろうか?

  「わかったわ…でも、何を書けと言うのよ?
  チラリと『パラサイト』を読みにいったけど…あれを読んでもワケわかんないよ。」
深くため息が出る。

  完結ボタンは押したけれど、あの話は未完のままだ。
  例え短編でも…池上が普通に生きている物語を…設定を投稿してやらなくては…。

  困惑する私に、ベルフェゴールは、温かい紅茶を入れてくれた。

  アールグレイ…私の好きな紅茶である。
  が、このお茶は、ベルガモットの配合や質で、苦く感じたり、鼻についたりする。
  ベルフェゴールは、私好みに最良のお茶を差し出していた。
  なぜか涙がこぼれだした。そんな気持ちをベルガモットの香りが優しく癒してくれる。

「そうね。だから、2年、応援してくれた読者のために、1つでも、伏線に見える箇所を解説したかったのでしょ?この作品で。」
ベルフェゴールの優しい言葉が胸に染みる。
「そうね…確かに、そんな気持ちになったりもしたわ。」
私は書き始めた時の事を…克也の事を都合よく抜かして美しく思い出した。
「だから、そのように書けばいいのよ。
  あの話は、色々な事柄がゴチャゴチャと混ざってわかり辛らかったわ。
  そのなかで、『トミノの地獄』の都市伝説をまとめたいと考えたのでしょ?」
ベルフェゴールは、優しく私に囁いた。
  それが、とても素直に理解できる説明なので、編集担当とか言う人も、こんな風に作者を導くんじゃないか、と、思わせた。
「うん…確かに、『パラサイト』のあのエンディングでは、『トミノの地獄』について解説が不十分だったわ。
  話が、大きくなりすぎて…収拾(しゅうしゅう)がつかなくなってきたもの。」
  ああ…思い出してきた。
  体に血液が回るように、『パラサイト』の物語が頭によみがえる。

  あの話には、複数の謎の組織が暗躍(あんやく)していた…多分。

  シケイダというセミの画像の謎かけ集団やら、
  エジプトのスカラベのヒミツ
  そして、森鴎外を巡る作家の…役人や学者の集団…
  20世紀初頭、吉江達はヨーロッパに留学し、詩を書いてフラフラとしていただけではなかったはずだ。
  彼らは、文化人ではあるが、教師であったり、役人であったりした。
  森鴎外には、コレラや都市型の感染から、日本を守る指名があったし、
  吉江、近江の2人の先生も、日本の農業や産業に必要な生物や鉱物を見聞きする目的もあったに違いない。
  当時、飛び道具の発展に伴って、防弾チョッキの開発も熱を帯びていた。

  防弾チョッキの材料として、絹は有効とされていた。
  しかし、それを上回る何かを…軍は求めたろうし、それには、動物性の繊維を探していたと思う。
  ファーブルの昆虫記の翻訳は、子供達の知的な好奇心を満足させる為だけのものではなかったはずだ。

  吉江先生は、養蚕の経験もあるようだし、近江先生は、ファーブル。
そう考えると、この2人の旅の話は、様々な日本の知識人、軍や農産関係の役人にも興味があるものだったに違いない。


  本当は…ただ、2019年、西條先生の書かれた詩の…デビュー100年を祝う気持ちだった。
  法の変更を知らなかった私は、翌年に西條先生の著作権が切れて、堂々と作品に詩の全文を書けると信じていた。

  2020年新しい年の始めに、忘れ去られた作品にこっそり詩を追加する…

  ただ、そんな楽しみを思って作り始めたはずだった…
  なのに、パンデミックや色々で、小心者の私は、話をおかしな方向に膨らませて…
  結局、誰も幸せには出来なかった…

  「温かい紅茶を入れ直したわ。
  シュークリームを食べて、それからゆっくり話しましょう。」

  ベルフェゴールは、ただ優しく私に笑いかけていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】

佐倉 蘭
キャラ文芸
都内の大手不動産会社に勤める、三浦 真珠子(まみこ)27歳。 ある日、突然の辞令によって、アブダビの新都市建設に関わるタワービル建設のプロジェクトメンバーに抜擢される。 それに伴って、海外事業本部・アブダビ新都市建設事業室に異動となり、海外赴任することになるのだが…… ——って……アブダビって、どこ⁉︎ ※作中にアラビア語が出てきますが、作者はアラビア語に不案内ですので雰囲気だけお楽しみ下さい。また、文字が反転しているかもしれませんのでお含みおき下さい。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き

星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】 煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。 宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。 令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。 見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー

6年3組わたしのゆうしゃさま

はれはる
キャラ文芸
小学六年の夏 夏休みが終わり登校すると クオラスメイトの少女が1人 この世から消えていた ある事故をきっかけに彼女が亡くなる 一年前に時を遡った主人公 なぜ彼女は死んだのか そして彼女を救うことは出来るのか? これは小さな勇者と彼女の物語

処理中です...