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悪霊
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気がつくと、私は笑っていた。
わははっ…と豪快に…
もう、どうにも止まらないくらい…
湖南渡異留だよ…コナン…ドイル…
私は奴が当て字を書いたノートを持つ手を震わせて笑い続けた。
克也はそんな私を無視して、静かにコーヒーを飲む。
山臥は、私の方をみて、呆れたようになだめようとしていた。
「そんな顔…君には合わないよ。」
と、言った風の台詞をはき、ウインクをしたが、酔っぱらいなので、ウインクの的を外して、私の隣の空席辺りに飛ばしていた。
が、少し、頑張って笑いを止めると、コーヒーを取りに席をたつ。
さすがに、あんなに笑っちゃ…まずかった。
酔っぱらいの山臥はともかく、克也も怒っているに違いない。
なんとも、失敗をしてしまった。
バツが悪い気持ちで席に変えると、克也は怒ってはいなかった。
山臥は、場の空気も構わずにチャレンジャー教授の話を自慢げに、私に話始める。
それは、ほとんど、はじめて聞く話だった。
正直、ドイルの作品は、ホームズ意外、興味がなかったから、読んだことはない。
地底人の話を書いたと聞いたことがあるが、どうしても、ホームズのイメージがこびりついて、読む気になれなかったのだ。
ドイル先生は、なんでこんな子供の話を書くんだろう?
小さな頃、私にとって、SFは、子供の読み物で、推理小説は大人で頭のよい人の読み物だった。
しかし、SFミステリー乱歩を考えたあとだと、時代考証が甘かったと思う。
ドイルの時代、地底人はいても不思議でない存在で、それは科学だったに違いない。
が、テレビでは、宇宙や超能力の漫画が流行り、地底人の登場する特撮は、背中のチャックのような盛り上がりと一緒に、地底人や宇宙人は子供だましのインチキで、いつまでも、そんなものを信じているのは恥ずかしい気持ちになったのだ。
地球の中心に、空洞なんてない。マグマや核が高温でグルグル回る地獄の世界なのだから。
その上、主人公の名前がチャレンジャーなんて、なんだか、テレビのお笑い芸人の名前みたいで、シリアスには響かなかったのだ。
私はスマホでチャレンジャー教授の事を調べた。
ジョージ・エドワード・チャレンジャー
これが主人公の名前だ。
1912年出版された『ロストワールド』では、ジョージは南米に恐竜を探しに行く。
現代では、ギャクにしか思えないが、1912年では、いてもおかしくないほど南米のジャングルは人類には広く、神秘的だった。
が、私が気になったのはそこではない。
狂言回し…ホームズで言うところのワトソンに当たる人物が、新聞記者だと言うことだ。
ふと、『悪霊』の祖父江(そぶえ)進一(しんいち)が、頭をめぐる。
彼も、確か、新聞記者ではなかったか…
「やっぱり、乱歩はコナン・ドイルに影響を受けたんじゃないかな…『フラッシュ・ゴードン』じゃなくて。」
口にだして、思わず笑いが込み上げる。
1934年の1月連載のフラッシュ・ゴードンを乱歩が参考にするはずはないのだ。
大体、30年代にスペースオペラが台頭したとしても、ミステリの魅力が失われた訳ではない。
この年に発表された『オリエント急行殺人事件』は、現在でもリメークされる名作だ。
「まあ、でも、宇宙に興味はあったんじゃないかな?」
山臥が、克也をフォローするように口を挟む。
「そうかな?」
「ほら、1934年、人類初の宇宙飛行士ガガーリンが生まれたんだよ。」
山臥のスマホの記事に思わず感心した。
ガガーリン…そうかぁ…ガガーリンも1934年に関係していたなんて!
「生まれたばかりの赤ん坊のガガーリンなんて、誰も知らないだろ?ラノベじゃないんだから。」
克也に言われて、恥ずかしくなる。
もうっ、
私は山臥を睨んだ。
「そうね。確かに。」
そう、ガガーリンが宇宙に行ったのは1961年の事である。
「でも、HGウェルズの『宇宙戦争』は、1898年年に出版され、ラジオドラマがアメリカをパニックに陥れた『宇宙戦争事件』があったのは、わずか4年後の1938年の事なんだぜ。
皆、宇宙に夢を見ていた時代には違いないさ。」
山臥は、自分の手柄のように検索結果を見せびらかした。
「そうなんだ…でも、私達、何の話をしてたんだっけ…」
頭が混乱する。
「江戸川乱歩の『悪霊』の話だよ。
俺は、解決編があるエピソードを二つあげた。
卯月さんが、解決編がないエピソードを二つ、そろそろ、どちらが正解か、聞いてみてもいいんじゃないかな?」
克也に言われて、ハッとする。
そう、私、小説のネタを考えてたんだ。
慌てる私に、克也が畳み掛けるようにこう言った。
「江戸川乱歩が、この名を語ったのは、今から100年前の1923年。
ドイルのチャレンジャーシリーズが日本訳されるのは1925年の事だよ。平井太郎が、江戸川乱歩と自分の名前を決めるに当たって、チャレンジャーシリーズは関係しないと俺は考える。」
わははっ…と豪快に…
もう、どうにも止まらないくらい…
湖南渡異留だよ…コナン…ドイル…
私は奴が当て字を書いたノートを持つ手を震わせて笑い続けた。
克也はそんな私を無視して、静かにコーヒーを飲む。
山臥は、私の方をみて、呆れたようになだめようとしていた。
「そんな顔…君には合わないよ。」
と、言った風の台詞をはき、ウインクをしたが、酔っぱらいなので、ウインクの的を外して、私の隣の空席辺りに飛ばしていた。
が、少し、頑張って笑いを止めると、コーヒーを取りに席をたつ。
さすがに、あんなに笑っちゃ…まずかった。
酔っぱらいの山臥はともかく、克也も怒っているに違いない。
なんとも、失敗をしてしまった。
バツが悪い気持ちで席に変えると、克也は怒ってはいなかった。
山臥は、場の空気も構わずにチャレンジャー教授の話を自慢げに、私に話始める。
それは、ほとんど、はじめて聞く話だった。
正直、ドイルの作品は、ホームズ意外、興味がなかったから、読んだことはない。
地底人の話を書いたと聞いたことがあるが、どうしても、ホームズのイメージがこびりついて、読む気になれなかったのだ。
ドイル先生は、なんでこんな子供の話を書くんだろう?
小さな頃、私にとって、SFは、子供の読み物で、推理小説は大人で頭のよい人の読み物だった。
しかし、SFミステリー乱歩を考えたあとだと、時代考証が甘かったと思う。
ドイルの時代、地底人はいても不思議でない存在で、それは科学だったに違いない。
が、テレビでは、宇宙や超能力の漫画が流行り、地底人の登場する特撮は、背中のチャックのような盛り上がりと一緒に、地底人や宇宙人は子供だましのインチキで、いつまでも、そんなものを信じているのは恥ずかしい気持ちになったのだ。
地球の中心に、空洞なんてない。マグマや核が高温でグルグル回る地獄の世界なのだから。
その上、主人公の名前がチャレンジャーなんて、なんだか、テレビのお笑い芸人の名前みたいで、シリアスには響かなかったのだ。
私はスマホでチャレンジャー教授の事を調べた。
ジョージ・エドワード・チャレンジャー
これが主人公の名前だ。
1912年出版された『ロストワールド』では、ジョージは南米に恐竜を探しに行く。
現代では、ギャクにしか思えないが、1912年では、いてもおかしくないほど南米のジャングルは人類には広く、神秘的だった。
が、私が気になったのはそこではない。
狂言回し…ホームズで言うところのワトソンに当たる人物が、新聞記者だと言うことだ。
ふと、『悪霊』の祖父江(そぶえ)進一(しんいち)が、頭をめぐる。
彼も、確か、新聞記者ではなかったか…
「やっぱり、乱歩はコナン・ドイルに影響を受けたんじゃないかな…『フラッシュ・ゴードン』じゃなくて。」
口にだして、思わず笑いが込み上げる。
1934年の1月連載のフラッシュ・ゴードンを乱歩が参考にするはずはないのだ。
大体、30年代にスペースオペラが台頭したとしても、ミステリの魅力が失われた訳ではない。
この年に発表された『オリエント急行殺人事件』は、現在でもリメークされる名作だ。
「まあ、でも、宇宙に興味はあったんじゃないかな?」
山臥が、克也をフォローするように口を挟む。
「そうかな?」
「ほら、1934年、人類初の宇宙飛行士ガガーリンが生まれたんだよ。」
山臥のスマホの記事に思わず感心した。
ガガーリン…そうかぁ…ガガーリンも1934年に関係していたなんて!
「生まれたばかりの赤ん坊のガガーリンなんて、誰も知らないだろ?ラノベじゃないんだから。」
克也に言われて、恥ずかしくなる。
もうっ、
私は山臥を睨んだ。
「そうね。確かに。」
そう、ガガーリンが宇宙に行ったのは1961年の事である。
「でも、HGウェルズの『宇宙戦争』は、1898年年に出版され、ラジオドラマがアメリカをパニックに陥れた『宇宙戦争事件』があったのは、わずか4年後の1938年の事なんだぜ。
皆、宇宙に夢を見ていた時代には違いないさ。」
山臥は、自分の手柄のように検索結果を見せびらかした。
「そうなんだ…でも、私達、何の話をしてたんだっけ…」
頭が混乱する。
「江戸川乱歩の『悪霊』の話だよ。
俺は、解決編があるエピソードを二つあげた。
卯月さんが、解決編がないエピソードを二つ、そろそろ、どちらが正解か、聞いてみてもいいんじゃないかな?」
克也に言われて、ハッとする。
そう、私、小説のネタを考えてたんだ。
慌てる私に、克也が畳み掛けるようにこう言った。
「江戸川乱歩が、この名を語ったのは、今から100年前の1923年。
ドイルのチャレンジャーシリーズが日本訳されるのは1925年の事だよ。平井太郎が、江戸川乱歩と自分の名前を決めるに当たって、チャレンジャーシリーズは関係しないと俺は考える。」
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