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悪霊

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  オチの心配を無くして、ここからは自由に書くことができる。

  とは言え、売れる話にしないといけないから、女性は入れないと。
  若い男性読者が主流だし、忘新年会と、人が集まるシーズンの発売。
  やっと、ラジオ放送が定着するか、しないかの時代。
  学生が集まって批評する場は、大切な宣伝場所だし、後に、講談や舞台になる事を考えて、殺人現場は華やかに、そして、衝撃的でなくては!

  江戸川乱歩の作品を読むと、この人は、舞台で映える話の作り方をしていると思う。
  確かに、本で読むと、いきなり、怪人がアドバルーンで飛ぶとか、馬鹿馬鹿しく感じるが、自分の推しの役者が、いきなり、舞台から宙に…マントをひらめかせて飛んだら、設定の破綻なんて、考える暇、ない。
  ピストルや、ヨットでの逃走劇…これらを、どんな風に舞台で表現するのか…
  刺激の少ない時代、女優さんの肌色成分を犯罪ギリギリで楽しませるにはどうしたら良いのか?

  そんな声が、乱歩の文章が囁いてくる。

  『悪霊』
  これを舞台にするなら、何枚かの幕を使い、舞台を区切る。
  手紙を買った小説家が、椅子に座り客に語りかける…

  そうして、手紙の世界が開いたように幕が開き、土蔵があらわれる。
  そこには、全裸の女性の死体…

  私の乱歩が囁く…

  どさ回りの小さな一座で、この役をするのは、少し年増の色気のある女優だろうから、やはり、未亡人にしよう。

  書生と女中と、3人で暮らしている。

  男の影はない…
  でも、男たちは、彼女の艶やかな白い肌を欲している…

  登場人物は10人くらい。でも、1度に纏めて登場するのは5、6人程度。
  小さな一座でも上手く回せる人数に…
  
  目撃者の男は…見るも無惨な姿にする。
  際立って、無惨な姿にすれば、一人二役も可能になる…
  寧ろ、誰かの変装でも…面白いかもしれないな。


  私の乱歩は、心理サスペンスをチョイスして、難しいトリックは考えない方向で作り始めた。
  見た目は密室殺人…でも、作れなくても気にしない。
  私の乱歩は、楽しそうに推理小説を語る横溝先生の手紙を見る。

  『やはり、ミステリを書く者なら、密室殺人は挑戦したいですね。』

  横溝先生が、生真面目にそう答える姿が見える気がする。

  ドイルが亡くなった話をした時も、色々とトリックや、近代捜査について語っていた。
  
  ドイルの『ソア橋』については、何を参考にしたのか、語り合った事が胸をよぎる。

  完全犯罪…密室殺人

  派手でいいな。よし、この風味で書いてみるか。

  私の乱歩は、ペンをもつ。
  別に、手紙の中の事件の解決は必要ない。
  江戸川乱歩の作品なのだから。
  大いにエロく、グロく…
  そして、派手な結末でありさえすれば、ファンは納得してくれる。
  
  横溝君の翻訳したドイルの『霧の国』を思い起こすような…西洋の怪談で、2月号で完結する。
  9月の彼岸におこった事件を、3月の彼岸で決着させる。

  まあ、俺は上手くまとめられなくても、4月号で、横溝君が面白いのを作ってくれるさ。

  
  私の乱歩は、気楽な気持ちで書き始める。
  
  死体は美女…しかも全裸。
  舞台に警察が来ないよう…必要最低限は血で隠そう。
  今時のアニメの謎の光の代わりである。

  横溝君との『ソア橋』の論争が頭をまわる。
 
  あのトリックは、紐が使われた…
  自作の『D坂殺人事件』が懐かしく胸をよぎる。

  10年目か。紐…次は、もっと、トリック的な要素で使いたいな。

  私の乱歩の頭に、紐で宙に吊るされる哀れな全裸の女性が回転しながら切り刻まれる。
  そして、静かに…鍵のおかれた床に落ちる…

  
  

  私にも、『悪霊』のトリックはわからない。
  そして、体の下敷きにされた鍵は、ただのテンプレな気がする。
  が、なんとなく、被害者の傷の付き方が、宙に持ち上げられて、何かをされたような印象を受ける。

  まあ、それも、適当な思い付きなのかもしれない。
  が、『ソマ橋』について、ドイルは、ロブスンの『犯罪調査』と言う本を参考にしたのではないか、と、乱歩は思っていたようなので、乱歩もまた、何かを参考にしたのかもしれない。
  まあ、何を書いても…
  真相は藪の中

  それでも、100年を経て、随分と大きなくくりで、作家として乱歩を語り、披露する…
  そんな日がくるなんて、なんだか、不思議な気持ちになる。

  連続殺人のミステリーを先生に爆笑され、
  誤字がある原稿は、出版社は読みません。
  と、なんか、偉い感じの先生の本を見て、小説家を諦めた私が…

  まさか、本当に推理(ミステリー)で大賞狙う日が来るなんて…
  本当に、何がおきるかわからないものだ。
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