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悪霊
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山臥は、唐揚げを1つだけつまむと、嬉しそうに大ジョッキのビールを半分飲んだ。
私は、丁度、小説の話が出たのを良いことに、今までの乱歩ミステリーを語った。
山臥は気取ったようにテーブルに右肘をつき、今では衛星放送の昔のドラマでしか見ないような赤いカーテガンを肩にかけて聞いていた。
「つまり…君は、江戸川乱歩が行き当たりばったりで『悪霊』を書いたと言いたいのかな?」
昔の業界人のような白シャツに赤いカーテガンを羽織るトレンディな山臥の言葉に圧を感じる。
「別に…その可能性をあげただけで…どちらにしても、これだけじゃ、ミステリー大賞ネタにはならないわ。
殺人事件がおこったなら、普通は、殺した人がいて、大体の雰囲気を考えてから書くじゃない?」
と、言いながら、自作の『パラサイト』を思い出していた。
サスペンスホラー風味の物語を目指したのだ。
犯人は愛人と夫…土に埋められた妻が、トミノの地獄の詩の朗読で生き返る…はずだった…
気がつくと、あっちこっちに猛者が現れ、妻の出番は無くなるわ、夫は池で固まってるわの予想外の展開に混乱した事を思い出した。
が、乱歩先生は、理路整然と『悪霊』を書いていた。
あと少しで犯人が分かるそこまでの手紙文が連載された。
確かに、乱歩先生は、怪人が窮地に陥ると、アドバルーンで逃がしたり、上手くヨットに着地させる…見たいな芸当を使わせてはいた記憶があるが、
『悪霊』については、特別、突拍子の無い展開はない。
「乱歩デビュー100周年か…なるほど、面白いね。」
山臥は、ロマンスグレーの面長の顔を斜め45度に、照明から傾けて、渋い陰影を作る。
「いや…思ったほど、ネットの読者は食いついてはくれなかったよ(T-T)」
私は、数年、乱歩デビュー100年を言い続けた事を思い出していた。
山臥は、フフッと笑い、そして、残りのビールを飲みきると、ビールのお代わりを私に頼んできた。
私は、タブレットのビールをクリックしながら、調べながら考えたネタを思い出そうとした。
が、山臥の声に遮られた。
「100年目で『悪霊』なら、サラ・ウインチェスターが亡くなってから101年目か…」
「101年?」
「ああ、2022年が100年目で、去年、何かで話題になっていたんだ。」
山臥は、少しこもった暗い声で、怪談でもするように話始める。
「ウインチェスター・ミステリー・ハウスは知ってるかい?」
「あの…ライフルを発明した人の奥さんが増設し続けたお化け屋敷よね?」
私は、昔、夏のミステリースペシャルでよく取り上げられていたのを思い出した。
「ああ、彼女は旦那と娘を立て続けに亡くして、霊媒師の指導のもと、悪霊を迷わせるために屋敷を増設し続けたんだ。」
山臥の声に、なんだかゾクリとする。
「関係あるの?」
1922年と聞いて、乱歩や西條先生を思い浮かべた。
が、山臥はほろ酔いになり、愉快な人格と交代しようとしていた。
「別に…関係はないよ。ただ、君の瞳を見ていたら、ふと、思い出したんだ。」
山臥はウインクを私に投げる。
が、私は、それをスルーした。
「関係無いのか…じゃ、どうでもいいかな。」
私ががっかりすると、山臥は、ビールジョッキを片手に不敵にわらう。
「確かに、関係はないね。でも、行き当たりバッタリのトリックの視覚化としては良い例ではないかな?」
「行き当たりバッタリのトリック…」
私は、あの雑然とした屋敷を検索する。
沢山の部屋…偽の部屋…窓、不思議な扉…
協調性が無いようで、
何となく、まとまっているあの屋敷。
乱歩先生も、そんな気持ちで『悪霊』を書いたのだろうか?
私は、丁度、小説の話が出たのを良いことに、今までの乱歩ミステリーを語った。
山臥は気取ったようにテーブルに右肘をつき、今では衛星放送の昔のドラマでしか見ないような赤いカーテガンを肩にかけて聞いていた。
「つまり…君は、江戸川乱歩が行き当たりばったりで『悪霊』を書いたと言いたいのかな?」
昔の業界人のような白シャツに赤いカーテガンを羽織るトレンディな山臥の言葉に圧を感じる。
「別に…その可能性をあげただけで…どちらにしても、これだけじゃ、ミステリー大賞ネタにはならないわ。
殺人事件がおこったなら、普通は、殺した人がいて、大体の雰囲気を考えてから書くじゃない?」
と、言いながら、自作の『パラサイト』を思い出していた。
サスペンスホラー風味の物語を目指したのだ。
犯人は愛人と夫…土に埋められた妻が、トミノの地獄の詩の朗読で生き返る…はずだった…
気がつくと、あっちこっちに猛者が現れ、妻の出番は無くなるわ、夫は池で固まってるわの予想外の展開に混乱した事を思い出した。
が、乱歩先生は、理路整然と『悪霊』を書いていた。
あと少しで犯人が分かるそこまでの手紙文が連載された。
確かに、乱歩先生は、怪人が窮地に陥ると、アドバルーンで逃がしたり、上手くヨットに着地させる…見たいな芸当を使わせてはいた記憶があるが、
『悪霊』については、特別、突拍子の無い展開はない。
「乱歩デビュー100周年か…なるほど、面白いね。」
山臥は、ロマンスグレーの面長の顔を斜め45度に、照明から傾けて、渋い陰影を作る。
「いや…思ったほど、ネットの読者は食いついてはくれなかったよ(T-T)」
私は、数年、乱歩デビュー100年を言い続けた事を思い出していた。
山臥は、フフッと笑い、そして、残りのビールを飲みきると、ビールのお代わりを私に頼んできた。
私は、タブレットのビールをクリックしながら、調べながら考えたネタを思い出そうとした。
が、山臥の声に遮られた。
「100年目で『悪霊』なら、サラ・ウインチェスターが亡くなってから101年目か…」
「101年?」
「ああ、2022年が100年目で、去年、何かで話題になっていたんだ。」
山臥は、少しこもった暗い声で、怪談でもするように話始める。
「ウインチェスター・ミステリー・ハウスは知ってるかい?」
「あの…ライフルを発明した人の奥さんが増設し続けたお化け屋敷よね?」
私は、昔、夏のミステリースペシャルでよく取り上げられていたのを思い出した。
「ああ、彼女は旦那と娘を立て続けに亡くして、霊媒師の指導のもと、悪霊を迷わせるために屋敷を増設し続けたんだ。」
山臥の声に、なんだかゾクリとする。
「関係あるの?」
1922年と聞いて、乱歩や西條先生を思い浮かべた。
が、山臥はほろ酔いになり、愉快な人格と交代しようとしていた。
「別に…関係はないよ。ただ、君の瞳を見ていたら、ふと、思い出したんだ。」
山臥はウインクを私に投げる。
が、私は、それをスルーした。
「関係無いのか…じゃ、どうでもいいかな。」
私ががっかりすると、山臥は、ビールジョッキを片手に不敵にわらう。
「確かに、関係はないね。でも、行き当たりバッタリのトリックの視覚化としては良い例ではないかな?」
「行き当たりバッタリのトリック…」
私は、あの雑然とした屋敷を検索する。
沢山の部屋…偽の部屋…窓、不思議な扉…
協調性が無いようで、
何となく、まとまっているあの屋敷。
乱歩先生も、そんな気持ちで『悪霊』を書いたのだろうか?
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