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悪霊

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  突然だが、時刻は20時を過ぎていた。
  私はある部落まで男を迎えに車を走らせていた。

  克也にコンタクトがとれたのだ。
  メールの返信…と言うより、異界からのメッセージのように、話に悩む私の携帯に連絡は来た。

  奴は遠方にいるらしかった。
  そして、20時以降なら会ってくれるらしかった。
  克也はフリマの仲間である。が、メールを見ていると、なんかの知識人にオファーをしたような気持ちになる。

  で、やはり、私と二人きりでは来そうも無いので、第3の男を召喚することにした。

  山臥(やまふし)香織(かおる)というオヤジである。
  この人は…と、言うか、奴は剛の仕事仲間で、なんか自由(フリー)な人だ。
  
  あまり、特に、酒が入ると関わりたくない人種でもあるが、自称、東京で働いたことがあるらしく、とにかく、どんな話にも食らいついてくる…まあ、話上手な奴だ。

  悪魔に例えるなら、カイムだろうか…

  剛をベルフェゴールにした連想で、そんな事を考えた。
  カイム…詭弁家と言われた悪魔。
  ゴエティアの72の悪魔の一柱で30の軍団を率いている…
  結構有名どころではある。
  鶫(つぐみ)の姿の悪魔のように、180センチはある長身で、鳥のように細身でスタイリッシュ…(-"-;)
  まあ、お洒落に気を使っているのは間違いない。

  奴の家に近づき、ふと、剛との関係を思い出す。
  山臥は、どちらかと言うと、気前のよい男で、剛にもなにかと奢っていた。
  貧乏な剛は、山臥が好きで、なついていたが、山臥は、剛の居ないところでは、いつか、剛におごらせてやる!と、ボヤいていた。

  やはり、ベルフェゴールの剛の方が、悪魔的な格は上だな。

  などと、馬鹿馬鹿しいことを考えているうちに、待ち合わせの場所についた。
  車を止めると、慣れた感じで助手席におさまった。
  車を滑らせて、随分と久しぶりの挨拶をした。

  「やあ、久しぶり。」
低い…昭和の色男を意識したような声で山臥が声をかけてくる。
「うん。久しぶりだね。」
私は、剛の事を考えて、少し難しい顔になる。
  去年は、色々あって、皆で会うことは無かった。
  だから、剛が死んでから、はじめての再会になる。
「そんな顔するなよぅ…美人が大無いしだぜ!」

  山臥は、左目でウインクしながら右手の人差し指と中指をこめかみから軽く宙に飛ばす。

  面倒くさい奴だなぁ…

  私は、この、今時の漫画にも登場しないような、トレンディな男に呆れながらも少し、心を緩ませる。

  「はいはい。ありがとう。久しぶり。」
私は…普通にそこまで話して言葉につまる。

  剛の話を…また、するのが少しだけ辛く感じる。

「ああ、久しぶり。また、あえて良かったよ。まあ、今日は、希和(きわ)くんの思出話でも語ろうじゃないか。」
「えっ…(°∇°;)」
私の驚く声に、山臥が驚く。
「え?違うの?13日だから、てっきりそうだと思ったよ。」
と、山臥は渋い声で言ってから、ふっ、と、広がる田んぼの街頭を見上げる。
「俺に会いたい口実だったか…仕方ないな。」
「えっ(ー_ー;)」

  人と言うのは、そうそう変わらないもんだと納得しながら、山臥と最近のAIと、口説き合戦をさせたら面白そうだなんて、馬鹿げたことを考えた。

  カイムに例えてみたが、確かに、コイツの口は驚くほど軽く動く。

  ちなみに、昔はどうあれ、今は独身だ。

  「まあ…そんなところだよ。剛は、ビール好きだったからね。まあ、代わりにたらふく飲んで頂戴。」
私は、友達から貰ったビールの割引券を指差した。
  もう一人…女性の仲間がいるが、不参加だった。
  代わりにお盆恒例の新聞広告に折り込まれる割引券をくれたのだ。

「かしこまりぃ。」
山臥は平成のノリで笑いかけ、そして、この2年の自分の貴重な経験を話続けた。
  それを聞きながら、ふと、後部席に剛がいるような気持ちになる。

  酒の飲め無い私は、こうして、よく、送り迎えをしていたのだ。

  昼とは違い、夜道はスイスイと進み、ファミレスのある複合施設の駐車場は、都会のように賑やかだった。

  私達は車を降り、ファミリー客が少し減った頃合いに、ファミレスの席を用意して貰った。

  唐揚げと、大ジョッキが運ばれてくると、山臥の隣に微笑む剛が見えたような気がした。
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