上 下
48 / 154
悪霊

9

しおりを挟む
   「いやぁ…あの時はやっちまった、と思ったよ。」
剛のようなマヌケ顔で江戸川…否、平井太郎がボヤく。
「わかるぅ…私も、まさか、『パラサイト』があんなになるなんて思わなかったもん。」
隣で私もボヤく。

  そう、思えば、私だって、ちゃんと物語を設定していた。
  でも、書き始めたら色々あって、完結しても評価は上がらず、謎も残したままだった。

  そう、一冊分を投稿せずに書ききるのと、部分ごとに投稿するのでは、状況が少し違ってくる。
  次の更新前に…見たくもないアラやら、真実、
  時代のアレコレが加算されるのだ。

  「まあ、諦めずに書き続けるってのも、凄いと思うよ。」
太郎は誉めてくれる。
「いや、良いところで潔く止めて、批判を受けるのだって大変だよ。」
私も太郎を誉めちぎる。

  他の人には無意味でも、やらかしたどうし、慰めは心に染み渡る。

  「出来ると思ったんだ。そして、もう一度、俺はミステリの本物になりたかったんだ。」
太郎の言葉が胸につく。

  江戸川乱歩…推理作家でデビューしたものの、本格推理ものとしては評価が低かった。
  主に心理サスペンスを得意とし、エロとか、グロとか、怪しげな性癖が絡む話で人気になった。

  それが、どんな風に見られるのか、ネット作家と呼ばれるようになって理解する。
  我々の書くファンタジーも少し色っぽい…今風に言うところの肌色成分の多目のお色気ヒロインのイラスト頼みの中身なしとか揶揄される。

  が、大衆はそれを望むのだ。
  買う人がいるから、こうやって書く人もサイトもあるわけだ。

  でも、書籍化した作家が、皆幸せにはなれない。

  私みたいに、書籍化どころか、ブックマークの数から足りないと、書籍化した人たちを、シンデレラを見送る読者のようにハッピーエンドとして見送る。

  けれど、電子から、紙の世界に言った人たちは、本格ファンタジーとの戦いが待つ。

  ネットでは、沢山の評価を貰えても、紙の世界では、三流扱いは否めない。

  太郎もそうなのかもしれない。
  刺激的な言葉と、セクシーな挿し絵。それで売れていると揶揄される。

  本格ファンタジーも
  本格ミステリーも

  だからどうした、とは思うけれど…
  でも、やはり、批判ばかりされていたら、『やればできるんだっ』と、イキりたくなる気持ちもわかるし、挑戦したくもなるだろう。

  雑誌『新青年』の連載…
  それは、私に例えるなら、オカルト雑誌『みい・ムー』に記事が載る位のステイタスなんだと思う。

  仲が良く後輩で、才能もある横溝先生が活躍する雑誌。
  太郎はそこからデビューはしたけれど、ジャンルはエログロで、他での活躍が評価されていた。

  デビュー10年目。
  後輩や大衆…特に、自分を手酷くレビューしまくる批評家をギャフンと言わせる話を作りたかったに違いない。

  その気持ちは、涙が出るくらいよくわかる。
  誰だって、エタりたくて作品を投稿なんてしないんだ。
  特に、古巣での久しぶりの本格ミステリー。

  この話を受けたときの平井太郎のときめきや、プレッシャーは、ネットで小説を書いたり、それを応援してきた人なら、よく分かるに違いない。

  私で活動5年。
  太郎はプロの期間を含めて10年の活動をして来たのだ。
  何度だって、あらすじは確認していたはずなんだ。
  
  「分かるよ。3年前にドイルが亡くなっているものね。
  時代的な情報伝達をかんがえても…そんなプレッシャーや、弔いの気持ちもあったでしょうね。」

  私は、『悪霊』の犯人探しは考えてなかった。
  何を書いてもイチャモンが来るだろうし、読者も楽しくは無いだろうから。

  だから、私は、ネット作家としての目線で乱歩が『悪霊』を考え付くまでの話を推理しようと考えた。

  『パラサイト』を中心に数年をこの時代を調べていた。
  それをベースに物語を書こうとあがく人物を語ろうと思った。


  そう、私も太郎も…小説を書く皆、一斉一代の物語を産み出すときのプレッシャーは変わらない。

  世界規模に評価されようと、
  サイトの少数のファンに評価されようと、
  規模は違っても、気持ちは同じ。


  どうして、悪霊とか、降霊会をテーマにしたのか?
  始めに考えたのは、同じミステリー作家であり、永遠の巨匠サー・アーサー・コナン・ドイルへの追悼の思いではないか。だった。
  ドイルが亡くなったのは、3年前、1930年の事だ。
  時間は経過しているが、電話も大変な時代。
  情報が流れるのには時間もかかる。
  
  それに、ドイルは、ホームズや推理より、オカルトや降霊会が好きだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

強制調教脱出ゲーム

荒邦
ホラー
脱出ゲームr18です。 肛虐多め 拉致された犠牲者がBDSMなどのSMプレイに強制参加させられます。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【お願い】この『村』を探して下さい

案内人
ホラー
 全ては、とあるネット掲示板の書き込みから始まりました。『この村を探して下さい』。『村』の真相を求めたどり着く先は……? ◇  貴方は今、欲しいものがありますか?  地位、財産、理想の容姿、人望から、愛まで。縁日では何でも手に入ります。  今回は『縁日』の素晴らしさを広めるため、お客様の体験談や、『村』に関連する資料を集めました。心ゆくまでお楽しみ下さい。  

拷問部屋

荒邦
ホラー
エログロです。どこからか連れてこられた人たちがアレコレされる話です。 拷問器具とか拷問が出てきます。作者の性癖全開です。 名前がしっくり来なくてアルファベットにしてます。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...