まさかwebで ミステリー大賞に リベンジする日が来るなんて!

のーまじん

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悪霊

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  「で、どんな話なの?」
  空想の剛は、都合の良いところで聞いて欲しいことを質問してくれる。
  私はそれに笑顔で応じる。

  「乱歩がデビュー10周年の節目の年に、自分を見いだしてくれた雑誌…『新青年』に頼まれて書いた作品よ。
  私、それほど乱歩にあかるく無いけど、久しぶりの本格推理もの…不可能犯罪…いえ、ここは密室殺人の方がイメージね。
  それをしようと始めたお話よ。」
私は、何度も読んだ『悪霊』を思い返す。
「密室殺人かぁ…なんか、面白そうだね。」
剛は屈託なく笑う。
「そうでもないわよ…解決しない不可能犯罪なんて!
  と、言うか、いつのまにか、密室殺人って言わなくなったわよね?」
私は、ボンヤリと昭和の推理ドラマと脱出系のマジシャンを思い出している。
「不可能…なんか、面倒くさい名前だね。」
剛の難しそうな顔に、なんとなく、この言葉への違和感を理解する。
  娯楽として楽しむドラマをみる側からすると、『不可能』と否定された言葉に、想像力がわかないのだ。
  『密室』の場合、密室とされた場所を思い浮かべ、色々空想できる。
「確かに。でも、密室殺人って、見掛け密室で、本当は違うから、クレーム来たんでしょうね。」  
私は軽くため息をつきながら世代の考え方の違いを思った。
  令和の時代、テレビは皆で見るものでは無くなっていた。  
  まあ、そう言う私より一昔前は、本すら、家族全体で楽しむものだった時代がある。
  『悪霊』が発表された1933年なら、まさに、そんな時代だろう。
  1つの雑誌を回し読みする…時には、誰かが音読し、ラジオドラマを楽しむように家族や友達が集まって議論するような…

  「どうしたの?」
剛に聞かれて苦笑を返した。
  なんか、気になるが、今は、それより、『悪霊』だ。
「いや、なんでもないよ。『悪霊』についてだよね?」

  私は、剛に『悪霊』のあらすじを話始める。

  「この物語は、ある作家のもとに、小説のネタを持ち込む男から話が始まるの。

  主人公は、事件に一切関係ない第3者で、主人公に手紙を売り付けた人物は行方不明。
  後に、主人公は連絡先を聞かなかった事を後悔するわ。」
話ながら、『悪霊』を現代劇に置き換えてみる。

  私の場合…これは、webに投稿された未完の小説か、削除されたブログや呟きの記録、と、いったところだろうか。

「じゃあ、この手紙事態がインチキかもしれないね。」
剛が渋い顔でそう言った…
  ええっ…( ̄□||||!!
  一瞬、手が止まる!

  え?そんなのアリ?
  いや、何故、その結末を考えなかった!?


  そう、乱歩先生は、心理どんでんものが得意だ。
  短篇作品『人間椅子』で似たような事をやっていらっしゃる!!

  私の脳裏に、お茶目な乱歩先生が苦笑するビジョンが花開く…

  あああっ…

  考えなかったが、それ、あり得る。
  10周年で、有名大衆作家としてのデビュー雑誌への凱旋…

  ちょっと、遊び心が疼いたのかもしれない。

  雑誌社の人と、昔話をしながら、読者にちょっとしたイタズラを仕掛けようと考えていたとしたら?

  江戸川乱歩、渾身の本格ミステリー爆誕!

  あおるだけ煽り…
  実は、手紙事態がインチキと言う結末!

  もしかしたら、乱歩先生、自分を過小評価していたのかもしれない…

  web小説家の我々は、とかく、軽く見られる。
  作家としてアニメ化されたって、色々、ボロカスに言われやすい私たち。
  対して、江戸川乱歩先生だって、夏目漱石やら芥川龍之介と比べられ、エログロ大衆作家と下に見られていた。

  似てるんだ。

  当時の乱歩先生に、我々の…web小説家の雰囲気を纏わせる。
  アニメ化され、昔、投稿し、出版社に声をかけて貰ったサイトに舞い戻って、何か、極短くて、奇想天外な…
  今風で言うところの、エモくてバズる作品を考えたとしたら?

  本格推理ものと宣伝し、実は、手紙の方が嘘っぱちで、事件事態が無い。

  外側の…雑誌社から読者を騙しにかかっていたとしたら?
  その真実に、読者は少なからず衝撃を受けたに違いない。

  乱歩先生も、10周年。
  大衆小説と揶揄され、本格推理は書けないと言われ、エロとグロで売ってると一部文学家に蔑まれ、ホーム凱旋で『やってやれ!』なんて、炎上商法を狙ったのだとしたら?

  嘘だぁ…( ̄□ ̄;)!!

  と、思うが、ガッツリ符合する。

  なにしろ、不屈の名作『人間椅子』で似たような事をやらかしてるんだから、自分のホーム、ファンだから、受け入れてくれると思ったかもしれない。

  「どうしたの?」
剛が私に話しかける。
「いや…アンタは天才じゃないかと、疑ってるんだよ。」
私は、渋い顔でそう言った。

  あの、江戸川乱歩が炎上商法をする?

  少し、がっかりする自分と、ワクワクする自分がひしめき合い、
  そして、本格推理ものとして真剣に応援してくれるファンの重圧に頭を抱える乱歩先生のビジョンが見えた。


  この結末…
  ある意味、私が、これから書く結末より、web小説家らしくて、奇想天外で面白いかもしれない…

  一瞬、頭が真っ白になる。
  が、これではホラーにならないし、ミステリー大賞も狙えない。

  頑張るんだ私!

  剛の話に惑わされてどうする?
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