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本を売る女

公募

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  子供の頃、ミステリー大賞に憧れた。
  当時はミステリーと冒険と超常現象が人気ジャンルだった。

  異世界テンプレは存在しなかったが、ノストラダムスはテンプレ化して、実用書から雑誌、テレビ特番で取り上げられていた。

  ネットなんてなかった…写真も自分じゃ現像できない時代だった。

  だから、現実世界には不思議が溢れていた。
  
  大きくなったら…
      冒険の旅に行くんだ!!

  と、枝の剣を振り回し、クルミの木で仁王立ちしていた逞しい少女だった私。
  ある日、愛読書のミステリーまがじん『みぃ・ムー』でミステリーの公募が始まったとき、ワクワクがとまらなくなった。

  大賞作100万円。

  100万円なんて、クイズ番組でしか見たことがない、途方もない大金だ。

  それが、貰えるかもしれないのだ。
  俄然、やる気がわいたが、応募要項を見て一気に沈んだ。

  この大会で求める作品は、ドキュメンタリー
  つまり、現実を舞台にした作品でなければいけないのだ。

  それを見て、私は、あっさり諦めた。
  
  日頃、何でもすぐ諦めるな、なんて言う親だって、これについては納得だろう。

  が、諦める理由は納得できないかもしれない。

  私は思った。

  『ミステリー大賞に提出するようなネタを提供してくれる人なんて私にはいない。ジャーナリストの友人が極秘事項をこっそり教えてもくれなければ、
  なんか、凄い能力者が私を訪ねても来ない。
  家は貧乏でいなか暮らしだから、京都とか、旅なんてできないし、近所の神社もお寺も…地味なもんだし。
  結局、ミステリーの世界も生まれとコネがものを言うんだわ。』


  と、小生意気な事を考えたのだから。

  友達がシンデレラに憧れる頃、私は、謎の老師が自分を探してくれないかと夢想した。
  今考えると薄ら恐ろしいが、あの頃はただ、のどかな少女の夢の話でおさまっていた。


  時が流れ、令和になった現在。
  いまだに老師も魔術師もやってこないし、ジャーナリストの知り合いもいない。

  が、ネットの時代、私でも世界に向けて物語を発表できる…そんな時代になり、ジャーナリストの知り合いはいなくとも、フリマで知り合った怪しげな友人がいれば、結構、イイネは貰えそうな事に気がついた。
  そして、世界のなんか、凄いネタがなくとも…
  そう、近所の古本屋の片隅の特売の本の中にも、世界を揺るがす…トンデモネタは隠されているものなのだ。

  はぁ…

  そう、今回、確かに、そんな感じで始める予定だった…

  が、2012年発行のマヤ歴滅亡の本から、アポカリプスとウクライナのネタが飛び出すなんて、思いもよらなかった…

  本当に、人間、一寸先には異次元の扉アリ。なのである。
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