お願い乱歩さま

のーまじん

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神作家

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  夜、自分の部屋で、葵はスマホの待受を見ながら、今日の事を思い出していた。

  奈穂子は、葵のために1枚の絵を書いてくれた。
  それは、モノクロの男の絵で、ドアの向こうで右肩に大きな花束を抱えて笑っていた。

  逆行の彼のモデルは遥希で、座布団を丸めて持ち上げていたとは思えない、なかなか、魅力的な男に仕上がっていた。

  “年配にも、若者にも見えるように書いたわ。
  どちらに見えるかで、物語を考えたらどうかしら?”

   奈穂子は、そう言って、挿し絵代わりに絵をくれた。

  小説に混乱する葵に、奈穂子は、こうアドバイスした。

  “乱歩のすごいところはね、戦前、戦後で自分の作品を自ら改変して、どちらも人気に仕上げた事よ。

  全く、思想や生活が変わった戦後の日本で、新しい媒体であるテレビドラマに似合うように大胆に作り替えたの。
  そこを参考にしてみたらどうかしら?”

  奈穂子の言葉を思い出す。
  具体的には、乱歩は客層を大人から、子供に変更し、エロを減らして、新しく小林少年と探偵団を全面に出した事だと言っていた。
  これは、簡単そうで難しいんだそうだ。

  昔のファンは、明智小五郎の話が見たいのに、二次作キャラを見せられるわけだから、それを馴染ませるのは、口で言うほど簡単ではない…らしい。

  それをやってのけ、大衆の評価を得た江戸川乱歩は、マジ、神みたいな人なのだ。


  “私は、乱歩の知り合いではないけど、昔の知り合いの自称『乱歩オタク』に言わせると、テレビと言う新しい媒体を使うに当たって、乱歩は昔のファンをバッサリと切り捨てるように物語の世界観を作り直したらしいわ。”
奈穂子の言葉を思い出す。
  “あなたの場合は…ネットよね?”

  葵は、スマホの画面でニヒルに笑う遥希のイラストを見つめる。

  私の作る新しい明智小五郎の物語。

  “あなたも、思いきって昔のファンを考えず、ネットの客を楽しませる事を考えたらどうかしら?”

  奈穂子の言葉に、何か、閃きそうな、そんな予感を葵は感じる。

  乱歩は、神作家かもしれない。
  JKの葵が、全く新しい明智小五郎の物語を作っても、昔のファンは何も感じないかもしれない。

  「でも、私は、神作家になりたいんじゃないわ。」
  葵は、奈穂子の話を少し、寂しそうに聞いていた薫を思い出した。

「私は、おばあちゃんを喜ばせたいの。
  九州のおばちゃんと楽しい話が出来るような…そんな話を作りたいだけだわ。」

  葵は、スマホの遥希の絵に語りかける。

  あなたは、小五郎と小林、どちらになりたいの?

  画面の遥希は、何も答えてはくれなかった。

  が、代わりに本物の遥希からメッセージが届く。

  「お、大川くん(*''*)」
  葵は、少し、赤面しながら慌ててメッセージを開いた。
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